フォーマットは真似るものじゃない、作るもの
たとえば、読者の皆さんもご存知であろう、ビズリーチのテレビCM。もちろん企業の成長は決してテレビCMの力だけではないが、テレビCMの大きな反響でサービスの認知度を向上させることに成功した。
その結果、「ビズリーチのテレビCMを作った人」としてBtoBの企業様を中心にたくさんの相談をいただいた。しかし打ち合わせに伺うと、一様にビズリーチと同じフォーマットでサービスを置き換えた広告を作ることを希望され、あげくの果てに「我が社のポーズはどんなポーズですか?」と所望された。
未だにタクシー広告を中心に、同じようなフォーマットの広告が散見される。確かにBtoBのサービス内容を伝える上で、ビズリーチのフォーマットは1つの優れた事例であったとは思う。だが、事業の世界にはセカンドムーバーアドバンテージがあっても、広告クリエイティブにおいては利は先行者にしかない。フォーマットを模倣した広告は、どうやっても「あのビズリーチみたいな広告」と称されるだろう。
もちろんそれでも一定の効果は出せる。しかし、どうせ大きな投資をするならもっと大きいリターンを狙うべきではないだろうか。そのためには、各社独自の新しいフォーマットを作ることが求められる。
フォーマット作りに欠かせない「言葉」と「感性」
私が常々言っていることだが、我々商業クリエイターはアーティストではない。0から1を生み出すことは得意ではない。過去に存在する何かと、そのサービスの持つ価値を掛け合わせることで、新しい表現を作り、課題解決を促すのだ。この創作方法は、フォーマットを生み出すことに向いている。
加えて「言葉」と「感性」も大切だ。ビズリーチで言えば「即戦力採用」というターゲットの抱える課題の解決を端的に表した「言葉」が初期の広告で機能した。また、テレビCMの映像は1秒=30枚のフレームでできているが、1フレーム単位で映像や音楽の編集を詰めることで、視聴者が受ける感覚が変わる。
不思議なもので1フレームずらすだけで、見ていてつい笑みがこぼれてしまったり、ナレーションが耳に入りやすくなったりする。この非言語の領域は「感性」だ。自分はこの「感性」の領域の型化(法則化)を、脳科学や認知科学の研究者たちとも共同で研究しているが、まだ結論は出ない。
ただ、その試みを通じて、気心の知れたディレクターやエディターとは阿吽の呼吸で非言語の感覚を共有できるようになってきている。この「感性」の領域がアウトプットのクオリティに与える影響は非常に大きい。
