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マーケティングの本質を探る

マーケティングの本質は市場創造、そのために欠かせないカテゴリーの再定義とは


Google、アドビ躍進の裏にも“再定義”が

事例2:Googleの情報探索・検索

 2つ目は、Googleのカテゴリーの再定義の例だ。筆者が担当していた際、Google検索は、情報探索を「疑問をシンプルにスッキリ解決する」だけではなく、「結果からさらに違う発見があって楽しいもの」として、検索結果が表示された後の体験にブランドの価値、そしてカテゴリーを再定義しようと考えた。具体的には、例えばレストランを検索した後に動画や画像(最近では3Dやレストランが実施しているキャンペーン情報も)などが表示されることに着目し、ブランドの提供価値も「シンプルに答えを知れる」というものから「知りたいを『もっと知りたい』という気持ちにさせてくれる」というものに再定義した。つまり、疑問をシンプルに解決するというカテゴリーの重要な点をキープしながらも、そこでのユーザーの期待をシフトさせ、ブランドの価値を再定義したのだ。こちらもGoogleでの検索頻度や検索数を大幅に伸ばし、私が離れた今でも、同様のコミュニケーションやキャンペーンは継続しているようである。

事例3:アドビの「Adobe Document Cloud」

 カテゴリーの再定義はB2Bでも有効だ。筆者が所属するアドビ製品の一つであるAdobe Document Cloudがわかりやすい。Adobe Document Cloudでは、具体的な日々の仕事で発生する紙ベースの仕事に着目し、書類のデジタル化を「デジタル上のすべてのドキュメントを何の障害もない状態で利用し、ビジネスを効率よく前に進めること」と定義している。

 実際Adobe Document Cloudを使うと、最終アウトプットとして様々な場面で共有されるPDFですら、直接編集できたり(もちろん保護して編集できなくすることも可能)、ファイルに直接レビューコメントを追加したりできる。また契約用のPDFであれば、そのまま契約サインのプロセスに進むこともできる。

 そんな書類のデジタル化だが、そもそもユーザーがPDFに重視していることは、「最終成果物などを変更不可な形でシェアできること」「セキュリティが担保されていること」であり、そこにあまり大きな期待は抱いていない。Adobe Document Cloudは、この重視している点を担保しながら、新たな期待を作り出すために、PDFであっても改竄される可能性があることを啓発し、PDFの編集や保護、電子契約など、デジタル文書のセキュリティすべてをコントロールする機能を提供。デジタル化自体を「実は人々が改竄できてしまう不完全なデジタル化」から「すべての書類のセキュリティをデジタル上でコントロールできる、何の障害もないデジタル化」に再定義しようとしている。昨今のコロナ禍で進みつつあるテレワークにより、デジタル上でPDFのセキュリティをコントロールすべきであることは、新たな期待として受け入れられやすい状況でもある。

事例4:エンターテイメントのサブスクリプション

 最後に、昨今拡がっている、エンターテイメントのサブスクリプションの事例をご紹介したい。今はYouTube Musicに統合されたGoogle Play Musicだ。筆者はこのプロダクトのマーケティング担当者として活動していたが、当時は音楽のサブスクリプションはまだまだ浸透しておらず、カテゴリーとしても「XX万曲聞けるお得な音楽サービス」という認識でしかなかった。ユーザーも曲が多く聞けることを重視し、自分の好きなアーティストの新曲などは常に入ってくることを期待していた。そこで、Google Play Musicは、カテゴリーにおける提供価値を「時々の気持ちに寄り添った音楽に、常に囲まれている生活」として再定義し、それを様々な生活の音楽を聞く場面で表現しようと考えた。

 また、様々な曲が聞けることをプレイリストで表現し、ユーザーが重視することをキープしたまま、「音楽」がメインではなく「生活」がメインになる価値に再定義することを考えたのだ。「音楽のある生活」というキャンペーンも同時に実施し、キャンペーンを実施するごとにユーザー数を大きく伸ばしていた。ちなみに、最近、ブランドは生活価値や社会価値を提供すべきだ、などと耳にすることがあるが、全てはカテゴリーとユーザー理解、そして独自性のあるベネフィットから考えられるべきで、カテゴリーやブランドによってその価値の作り方は異なってしかるべきだ (すべてがこのGoogle Play Musicのように生活価値を提供すべきかというとそうではない)。Google Play Musicの場合は、他のアプリではできない、「ドライブが盛り上がる曲」や「料理がおいしくなる曲」など生活の場面をそのまま音声で検索するだけで、ピッタリの曲を出す検索機能に優れていた。検索の会社、Googleならではの機能だともいえることから、Googleのブランドを強めることにもなっていた。

 これらの例はわかりやすいが、実際にどうやって再定義を進めるのか、アイデアすらもどう考えてよいのかわからないという声も聞こえてきそうだ。ここからは、その方法を2つ紹介したい。

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再定義のための2つの手法

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この記事の著者

里村 明洋(サトムラ アキヒロ)

アドビ株式会社マーケティング本部 常務執行役員/シニアディレクター。兵庫県尼崎市出身。慶應義塾大学総合政策学部卒業。新卒でP&Gに入社。営業からマーケティングまでP&Gとしては異色のキャリアを築き、日本とシンガポールにて営業から営業戦略やブランド戦略、コンセプトや広告開発などに従事。Googleに転...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/03/24 13:40 https://markezine.jp/article/detail/35474

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