“今”の在庫を確認して的確にリマインドする
現王園氏がメルカリUSの成長において「重要だった」と強調するのは、前述のリアルタイム性と、それをベースに膨大なABテストを実施して仮説検証ができることだ。
リアルタイム性は、たとえばこのような形で施策に生きている。カートに入れたものの放置されている場合、メルカリではほとんどの商品が1点もののため、リマインダーを送るにもその時点での在庫の有無を確認する必要がある。既に売れているのにお知らせしてしまったら、ユーザーは不快感や不信感を抱き、エンゲージメント毀損につながるだろう。
そこで、カート放棄から2時間後、などのリマインダーを送りたい設定時間になった時点で自動で在庫を確認し、売れていなければお知らせと、加えてその時点で購入可能な関連商品のレコメンドを送る……といったことをBrazeを通して実現している。
この一連は、Brazeの複数の技術と極めてスムーズなAPI連携が下支えしている。セグメンテーションも自由自在で、アプリまたはWebのユーザーのみ、買ったことはあるが売ったことがない人のみ、といった切り分けも容易だ。そのため、マーケターが考える様々なアイデアを設計、施策に落とし込むことができる。
実際に現王園氏のチームでは、エンジニアと連携して多種多様なグロースのアイデアを設計し、BrazeでABテストを回して効果を引き上げている。
顧客に受け入れられるアプローチが重なるとLTVに効いてくる
「プロモーションの実現時にカギになるのは、やはりリアルタイムの状況を捉えられる点と、セグメントとの連携」と現王園氏。メルカリUSでは、現在までのテストの積み重ねでグロースの定石をいくつも見出し、ひとつずつ機能実装しているという。
現在、Androidのプッシュ通知の開封率を業界平均と比較すると40%ほど高くなっている。この状況も、地道に、そして相当量の施策のアイデアを設計し、PDCAを回して得られた結果だ。「Brazeをグロースのプラットフォームとして位置づけていろいろなアイデアを試し、顧客に響くものを積み上げたことが数字に表れていると手応えを得ています。CRMの分野はエンジニアリングの力で大幅にパフォーマンスを高められる分野だと実感しています」(現王園氏)
さらに今、よりパーソナライズした施策を模索している。メルカリUSの顧客志向がよく表れている一例が「数多くLikeしてくれているなど、メルカリをよく使う人ほど、値下げ通知なども多く届いてしまう状況は果たして良いことなのか?」に着眼していること。厳密に言うと、通知が多くてもかまわない・逐一チェックしたいという人と、通知が多いのはイヤだという人が存在し、かつ心地よい頻度も人によって異なる。もちろん、メッセージの種類によっても反応が違ってくる。
「そこで今、通知の開封率の予測モデルを立て、顧客ごとに配信頻度を変えるテストを実行しています。総配信数が減るので開封の絶対数は下がるのですが、開封率は上がり、同時に通知拒否の割合は減っているので、顧客の気持ちを汲んだ接触がLTVに効いているとみています」(現王園氏)