※本記事は、2021年3月25日刊行の定期誌『MarkeZine』63号に掲載したものです。
コロナ禍でチャンスを見出した各社
マーケティングを取り巻く環境は生活者や社会の変化だけでなく、プラットフォーマーの動向にも大きく左右される。2020年は多くの業界・企業がコロナショックに見舞われたが、プラットフォーマーは増収増益が目立ち、新たな取り組みやサービスが続々と開始された。また、広告主とプラットフォーマーを繋ぐ広告会社でも積極的な取り組みが行われている。
MarkeZine編集部ではこれら主要プラットフォーマー9社と広告会社の動向を、デジタルインファクトと共同で実施した調査をもとに『マーケティング最新動向調査2021』でまとめている。本稿ではその概要を紹介する。各社の動きを掴み、経営戦略やマーケティングの打ち手ideaLab.に活かしてもらいたい。
広告プラットフォームとしてのAmazon
Amazonのビジネスは多様化している。2020年第2四半期の売上の内訳はオンラインストアが458億9,600万ドル(前年同期比49%増)と過半数の52%を占めているが、残りの48%が実店舗、サードパーティ販売業者向けサービス、サブスクリプションサービス、Amazon Web Service(AWS)、広告などの事業を含む「その他」と多岐にわたる(図表1)。
実店舗を除くいずれの事業も前年同期比30〜50%増という大幅な成長となっている。
マーケティングの観点からは、Amazonは広告プラットフォームとしての存在感が強くなってきている。Amazon広告のメニューも拡充が進んでおり、購入機能付きのライブストリーミングサービス「AmazonLive」など海外でのみ展開されているサービスもある(2020年10月時点)。
広告関連の新機能の1つとして、2020年6月から日本でも利用可能になった「レスポンシブeコマースクリエイティブ」がある。最大20点の関連商品を対象にeコマース広告をさまざまなサイズで自動生成でき、広告作成時間を最大90%短縮できるという。各社からクリエイティブの自動生成技術が続々と誕生しているが、今後は各プラットフォームが持つデータを組み合わせることで目的に最適なクリエイティブを簡単に作成できるようになっていくと思われる。
なお、米国のデータマーケティング会社Merkleのレポート(『Digital Marketing Report for Q2 2020』)によると、Amazonに投下された広告費のうち約80%がスポンサープロダクト広告に、20%弱がスポンサーブランド広告に、残り1〜2%がスポンサーディスプレイ広告に用いられているようだ。
本調査の全結果とクロス集計の結果に加え、「マーケティングをめぐる近年の動向の概観」や「主要マーケティングプラットフォーマーの動向」をまとめた『マーケティング最新動向調査 2021』は、翔泳社のECサイト「SEshop」でのみ販売しております。
プライバシー保護を重視するApple
Appleは引き続き売上が好調で、2020年第3四半期の決算によると売上高は596億8,500万ドル(前年同期比11%増)だった。AppStoreでの売上高(2019年)は5,190億ドルで、商品(フィジカルグッズ)・サービスが4,130億ドルを占めている。その多くがMUJI passport、UNIQLOアプリのようなモバイルコマースアプリケーションから生まれたものだ。また、2019年に最もダウンロードされたアプリケーションの種別は「ゲーム」で、デジタルグッズ・サービスの中で最大の売上高となっている。
2020年の大きなトピックとしては他に、同年9月から提供されているiOS14において、アプリがユーザーを追跡したり企業が広告用識別子IDFAにアクセスするにはユーザーの許可を得なければならなくなったことが挙げられる(開始は2021年初旬からに延期)。Appleは世界的な潮流であるプライバシー保護に率先して取り組んでおり、Webブラウザ「Safari」でもプライバシー保護の強化に伴いトラッキング防止機能「ITP」の厳格化が進んでいる。ターゲット広告や効果測定に大きな影響を及ぼすため、業種を問わず各企業やプラットフォームにおいて対策や新たな手法の開発が行われている。
TikTokはビジネスの課題解決プラットフォームにTikTokを運営するByte Danceは、2020年6月にビジネス課題を解決するプラットフォームとして「TikTok For Business」をローンチした。広告カテゴリには商品やブランドの認知獲得に有効な「リーチプロダクト」、UGCによる情報拡散を図るハッシュタグチャレンジなどの「エンゲージメント」、さらに「オンライン運用型広告」がある。
特にUGCを活用できるハッシュタグチャレンジは認知から商品理解、好意度向上、店舗への誘導や購買まで、マーケティングファネルのカバー範囲を広げている(図表2)。
同社では「ノリが良いBPM120以上の楽曲を使用すると公式動画再生数が増加し、動画投稿数も引き上がる」といったノウハウを公開している。また、2020年7月には広告主とクリエイターをマッチングする「TikTok Creator Marketplace(TCM)」を開始し、フォロワーの特徴などから広告主が自社ブランドに適したクリエイターを見つけやすくなった。
中小企業向けにセルフサービスの広告配信プラットフォームも提供しており、画像素材やWebサイトの情報から半自動で動画を作成できるツール「スマートマイクロムービー」を利用できる。また、コロナ禍においてビジネスに深刻な影響を受けている中小企業への支援として、総額約100億円相当の広告クーポンを提供する「TikTok企業活動再開支援プログラム」を7月に開始している。
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ファーストパーティデータに強みを持つ楽天
楽天の2020年度第3四半期決算によると、連結での売上収益は3,614億円(前年同期比13.2%増)。このうち国内ECの売上収益は1,492億円で、フィンテックが1,440億円で続いている。
サードパーティCookieが規制されることによって広告事業者は対策を迫られているが、楽天には全世界に14億人規模の会員がおり、会員IDには決済や住所に関する情報がともなっている。量と質、属性の正確性、フィンテックデータとの連携、購買データが紐付いた質の高いファーストパーティデータが、脱Cookie時代における楽天の強みだ(図表3)。
楽天が2020年2月に行った2019年度通期決算の広告売上は1,123億円(前年同期比16.7%増)となり、はじめて1,000億円を超えた。2020年度第3四半期の広告売上は310億円(同12.0%増)で、この背景にあるのがEC事業の好調と楽天の持つ会員IDに紐付く膨大なデータである。
さらに9月にはオフラインのマーケティングソリューション「RMP-Omni Commerce」の新メニュー「アドホックオフライン購買分析」が発表された。このメニューを利用することで、企業はユーザーがレシート画像を送付するとポイントを獲得できる「Rakuten Pasha」で蓄積されたデータを用い、実店舗でのマーケティング施策を最適化できる。
電通・博報堂・サイバーエージェントによる提携・M&A
最後に国内広告会社の動向として、電通・博報堂・サイバーエージェントによる提携・M&Aを紹介する。
電通グループでは、2020年初頭にデータアナリティクス・コンサルティングのE-Nor、B2B領域のマーケティングオートメーションサービスのDigital Pi、ファーストパーティデータマーケティングの4Cite MarketingやMedia Stormなど海外企業を買収し、各ブランドの事業の強化を進めた。国内でも8月にドコモなど複数社と広告の接触から商品購買までの効果測定がID単位でできる「docomo data square」を提供している。
博報堂は2020年4月に台湾大手広告エージェンシーグループ・Growww Mediaを連結子会社化。国内では博報堂DYメディアパートナーズがGunosyとの協業プロジェクトを発表し、テレビCMによる獲得成果最適化を実現するプラットフォーム「Guhack」をリリースした。
2020年9月にはサイバーエージェントが伊藤忠商事、ファミリーマート、ドコモと小売事業者の購買データを活用した広告代理店業を行う新会社「データ・ワン」の設立に合意。この新会社では、ファミリーマートなどが保有する購買データ、ドコモが保有する会員データを活用。オフラインデータとオンラインデータを統合してID単位でのターゲティング広告配信から商品購買までの効果検証が可能な広告商品を開発・販売する。
また、上記3社は企業のマーケティングとマネジメントを支援するM-Forceとの協業や業務提供を発表している。同社はP&Gでキャリアを積んだ西口一希氏と彌野泰弘氏によって設立。マーケティングを経営視点で捉えて事業の成長をサポートするアプローチは従来の支援会社とは異なるため、今後の動向に注目したい。
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