コロナ禍でいかに顧客の信頼を得ていくか
「コロナ禍になり、社会全体で人と人とのコミュニケーションの仕方が大きく変化しました。BtoBビジネスにおいても、買い手の意識に大きな変化が生じています」
こう語るのは、HubSpot Japanマーケティングチーム マネージャーの亀山將氏だ。
2006年に米国で創業したHubSpot社のCRMプラットフォーム「HubSpot」は、世界で10万社以上に有料版が利用されており、法人を設立してから5年目となる日本でも急速に導入企業数が伸長。スタートアップ企業を中心に、事業のスケールアップのためのプラットフォームとして活用されている。
「MarkeZine Day 2021 Spring」に登壇した亀山氏は、同社実施の調査結果や、 ゲスト登壇したクライアントへのインタビューをもとに、この1年で見えてきた“対面できない時代でも顧客の信頼を得るセールス&マーケティングのポイント”を解説した。
【調査結果】買い手側の「リモート営業」に対する印象は?
はじめに亀山氏は「日本の営業に関する意識・実態調査2021」の結果を共有した。同社は、世の中の変化に応じて企業の営業活動の生産性をいかに向上させるかを探るために、2019年からこの調査を行っている。
2回目となる調査は、2020年12月に従業員数51~5,000名規模の企業に所属する経営者や役員および営業担当者らを対象に行われたもので、ビジネスシーンにおける売り手1,545名、買い手309人が回答。企業のマーケティングに関する変化を明らかにし、現在の環境下で取るべき施策を考察し、来年以降の示唆につなげることを目的に実施された。
調査結果から明らかになったポイントは次の3つだ。
この中で注目すべきは、リモート営業が訪問型営業を逆転して上回ったというポイント。これについて、さらに掘り下げたデータが紹介された。
まず、リモート営業と訪問型営業のどちらが好ましいかという質問について、2019年の調査では53.7%の買い手が「訪問営業を好む」と回答したが、2020年の調査ではこれが35%に減少。一方、「リモート営業を好む」と回答した買い手が21%から38.5%に増加。この1年で、好ましい営業スタイルへの買い手側の意識が大きく変化したことがわかった。
しかし、同様の質問に対する売り手側の回答を見ると、2019年は「訪問営業が好ましい」という回答が63.1%、「リモート営業が好ましい」という回答はわずか10.9%。2020年には「訪問営業が好ましい」という回答が48%、「リモート営業が好ましい」が21.8%と多少の変化はあったものの、依然として訪問営業を好む売り手が多いことが判明した。
「買い手側は、訪問型からリモートへと営業への意識が大きく変わったのに対し、売り手側の意識はまだそこに追い付いていません。2020年の1年間で、好ましい営業方法について、買い手と売り手の考え方のギャップが広がったと言えます」(亀山氏)
実は、訪問型とリモート型の営業で「成約率」に大差はない
では、なぜ売り手側は、依然として訪問型営業を好むのだろうか。
訪問型営業のほうが好ましいと回答した売り手にその理由を尋ねたところ、「訪問営業のほうが成約率が高いと思うから」という答えが1位だった。しかし、訪問型営業のみを行っている組織とリモート営業を導入した組織の商談成約率の差分はわずか3ポイントで、調査では大きな差は認められなかった。
続けて訪問営業のほうが好ましいと考える理由第2位は、「訪問しないと誠意が見せられない」というもの。これについても、買い手側の意識とギャップがある。
買い手側に「どのような営業担当者に誠意があると思うか」を聞いたところ、「足を運んで対面で話してくれる」との回答は23.9%という結果に。「できないことを明確に伝えてくれる」「短時間で内容の濃い商談をしてくれる」といった要素のほうが高い評価を得る結果となったのだ。
ここまで共有した調査結果をまとめる形で亀山氏は、「もちろん対面でこそ可能になるコミュニケーションや信頼関係の醸成もあると思いますが、それは商談の内容の質や本質的な価値提供があってこそ威力を発揮するもの」とした上で、次のように続けた。
「コロナ禍によって半ば強制的にリモート営業の導入が進み、すでに買い手の意識は大きく変わりつつあります。売り手は買い手の変化に合わせて売り方を変えていく必要があるのではないでしょうか」(亀山氏)
医療・製薬業界でも高まるリモート営業のニーズ
ここからは、デジタルでの営業に取り組む2社がゲスト登壇。亀山氏が昨今の状況をインタビューした。
まず登壇したのは、製薬・医療機器業界でデジタルマーケティングを支援しているエムスリーデジタルコミュニケーションズの渡辺氏。一度目の緊急事態宣言以降、医療機関への訪問規制が強化され、担当する医師とコンタクトが取れないという課題に直面し、製薬会社でも急速にデジタルを活用しなければならない状況になったという。
同社は以前よりHubSpotを活用し、リモート支援、データ活用支援、資材制作の支援に取り組んできたが、コロナ禍でデジタルシフトへの流れが加速したことで、そのニーズが高まっていると渡辺氏は話す。
「当社は、情報提供手段をデジタルによって最適化するというミッションを掲げ、IT・映像技術・マーケティングを掛け合わせたソリューションを提供しています。まだまだ課題はたくさんありますが、HubSpotを活用しながら、製薬・医療機器業界のデジタルマーケティングを支援する会社として誇れる活動を行っていきたいと思っています」(渡辺氏)
高額商材もデジタルで営業を完結させるための施策
次に、ロボット技術を活かして製造業におけるファクトリーオートメーションなどを手掛けるIDECファクトリーソリューションズから、取締役 ロボットシステム部 部長の鈴木氏が登壇した。
同社では、ステップアップ戦略と題し「1:デジタルマーケティングの導入」「2:デジタル営業の仕組み構築」「3:マーケ&営業の連携強化」「4:カスタマーサクセス強化」の4つの段階を設け、デジタル営業へのシフトに取り組んできた。
まず2017年より「1:デジタルマーケティングの導入」のステップにおいて、HubSpotを実装したポータルサイトを運用し、認知向上からリードの獲得、ナーチャリング、MQLの獲得といった施策を行ってきた。
次に、2020年から「2:デジタル営業の仕組み構築」のステップへ移行。元々はオンラインの見込み客にリアルのショールームに来てもらい、実際にロボットを見て触ってもらうというのが王道の商談パターンであったが、コロナ禍でこれが難しくなったことから、ウェビナーの開催による新規リードの獲得、MQLへ積極的にウェブ商談を展開し受注につなげるなどの施策を実施。加えて、デモ機のレンタルも行うことで、コロナ禍においてもしっかり成果を上げられてきたという。
「特にウェビナーについては、これまでに6回開催し、回を重ねるごとに集客が伸びています。企画してから1カ月でスタートできたのは、我々自身も驚異的だと思っていますし、HubSpotのおかげだと考えています」(鈴木氏)
今後は「3:マーケ&営業の連携強化」のステップに向けて、引き続きウェビナーを開催し新規コンタクトを獲得するとともに、Sales HubのABM機能を活用してマーケティング部門と連携した営業活動を行っていくなど、課題解決に取り組んでいくとした。
買い手の求める価値を提供することで、信頼関係を築いていく
ここまでを振り返り、亀山氏は次の2つの重要なポイントを提示した。
1つ目は、「買い手の状況に合わせた売り方を作る」ということ。自社の営業活動を棚卸しして、本当に買い手にとって意味のある活動とそうでない活動を見直すなど、先の読めないコロナ禍では特に、営業スタイルや買い手の購買体験を常にチューニングしていくことが重要である。
また、売り手と買い手で営業スタイルへの意識にギャップがあるというセッション前半の内容については、「直接顔を合わせないと顧客の購入意欲を掴みづらいという現場の声はもっともなこと。こうした声に対して、我々HubSpot社としては、個人の感覚に頼らず営業管理をするフレームワークの導入を提案したい」と話す。
具体的には、あらかじめ設定された条件に応じて受注の可能性を判別する仕組みや、買い手の購入意欲のステージに合わせて営業担当者が次に取るべきアクションを明確にする仕組み、そして商談進行中にオンライン上での行動をスコア化し、営業の優先順位をつける仕組みなどが有効であるという。
2つ目のポイントは、これらを実現するための前提でもある「顧客情報と営業活動情報の一元管理」。HubSpotなどCRMツールやそれに類する仕組みを導入することで、あちこちに散らばったデータを探し集めたり、情報を重複して入力するなどの無駄が削減され、営業の生産性が上がり、顧客との信頼関係の構築にもつながっていくのだ。
最後に亀山氏は次のように述べて、セッションを結んだ。
「HubSpotは、企業の成長をサポートすることをミッションとしており、すべての事業は『インバウンドの思想』に基づいて展開されています。インバウンドとは、商品やサービスを売る前に売り手側が積極的に買い手側が求める価値提供を行い、信頼を醸成し、満足していただくという状態を実現するための思想です。売り手企業の全部署、全社員が顧客中心の考え方になることで、顧客との理想的な関係を構築できるのではないかと考えています」(亀山氏)
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本記事でレポートしたセッション「“対面できない時代”に顧客の信頼を築くB2B営業&マーケティングの在り方」の資料はこちらからダウンロードいただけます。