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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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MarkeZine Day 2025 Retail

マーケティングの本質を探る

ユーザーの無意識にブランドを入り込ませるには?カギは独自性とモーメント


コツはシグナルを見つけ、モーメントを捉えること

 あまり語られることがないが、ベネフィットや再定義されたコンセプトが最も輝く「シグナル」を見つけることができれば、なお成功確率が上がる。なぜなら、それは統一されたアセットとなりやすく、そうなることで短い時間でベネフィットを伝えることができ、すべてのフェーズで統一されうるからだ。

 台所用食器洗剤を例に挙げると、洗った時のキュッキュッとなる音や洗った後に出てくる汚れの色で、よく洗えているというシグナルになっており、その瞬間をメッセージとして表現することで、よりコンセプトやベネフィットが輝く。同じように考えると、外出先で顔を触った時にベタつく瞬間などは、そこに化粧品に対する無意識の期待が隠れているかもしれないし、コミュニケーションする瞬間にもなりえる。

 筆者が所属するアドビでは、まだクリエイティブツールを使ったことがない人や、検討すらしていない人が「今年もそろそろ年賀状を送ろうかな。どんなデザインにしよう」と思うモーメントを捉え、今年はテンプレートやお店に頼まないで「自分で作りたいデザインを思い通りに作って、友達を驚かせてみては」というアイデア・メッセージを開発し、SEOコンテンツやプリンターOEMなどのパートナーと一緒に年賀状の作成コンテンツを用意して、そこでAdobe PhotoshopやAdobe Illustratorが想起されるようにしている。

2021年秋に行われたアドビと日本郵便のコラボレーション。日本郵便が運営する年賀特設サイトにAdobe Photosop Cameraで作成した作品を公開し、「2021年の年賀状はAdobe Photosop Camera でアートな年賀状を!」と呼び掛けた。
2021年秋に行われたアドビと日本郵便のコラボレーション。日本郵便が運営する年賀特設サイトにAdobe Photosop Cameraで作成した作品を公開し、「2021年の年賀状はAdobe Photosop Camera でアートな年賀状を!」と呼び掛けた。

 この発想は他のモーメントにも応用できる。たとえば旅行が終わった時に、楽しかった旅行の思い出を友達にシェアしようと思うモーメントを捉え、「楽しかった旅行の思い出を、もっと楽しい思い出に編集して、みんなでもう一度バーチャル旅行しよう」というアイデア・メッセージを発信できるかもしれない。あるいは他とは一味違った自分のこだわりが表現された旅の思い出動画コンテンツと共に、Adobe Premiere Proをその場面で想起されるようにしたり、はたまたカメラを買う瞬間、つまり写真や動画の編集を検討し始める可能性がある瞬間に、Adobe PhotoshopやAdobe Premiere Proを想起し、購買に繋げるために、トライアル3ヵ月無料のコードをカメラOEMとパートナーシップを組んで同梱してもらったりすることなども考えられる。

ロードマップを描いて必要なアクションを洗い出す

 前回、ブランドの再定義の事例で紹介した洗剤のボールドのように、再定義に必要であれば、プロダクトそのものに新しい技術や新たなラインナップを導入し、その独自性を強めて、再定義をより推進できるようディレクションしていく。すぐに実現するのが難しければ、「ブランド再定義のロードマップ」としてブランドの価値が進化するステップを一つずつクリアにしていくことが有効だ。下図のように、いつどこでどんなプロダクトの技術や新たなラインナップが導入されるか、その時を見据えてそれまでにブランドをどうコミュニケーションするかを、最低でも2年周期で考えてみよう。ちなみに、ここにビジネスの売上や利益のゴールが紐づくことで、ビジネスマネジメントとブランドマネジメントをつなげてプランできるようになる。

ブランド再定義のロードマップクリック/タップで拡大
ブランド再定義のロードマップ
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再定義において消費者テストが重要な理由

 再定義されたブランドが上手くいくかどうかは、正直判断が難しい。そこで消費者テストが重要になる。ちなみに、P&Gでは「リサーチ」よりも「テスト」を実施することが多く、そのすべてで無意識を探っていた印象がある。これは、仮説を立てて、消費者が見たり聞いたりするメッセージやビジュアルという刺激物を用意し、そこから無意識を探り、再定義を最適化するためである。ブランドを再定義した場合も、それが正しいか知るために様々なテストを実施する。

 話が少々逸れるが、筆者は常々、社内外で常にクイックにテストを実施できる環境を整えておくことが、ビジネスの成功確率を上げると感じている(準備から実行まで2,3日以内でできるレベル)。テストに関しては、たまに“迷走”などと言う人もいるが、仮説を持ってしっかりと検証していることと、ただ単に迷って手当たり次第テストしていることは大違いだ。しっかりと行動させることができているかを検証できるレベルの仮説(この場合は再定義された価値)を持ってテストすることは、迷走でもなんでもない。

 ブランドを再定義するヒントは、ユーザー一人一人と向き合い、カテゴリーに対して重視することや期待すること、新たな可能性や新たに提示されたときに価値と感じるかなどを探る中で見つかることが多い。元スマートニュース、現M-Force共同創業者の西口氏が提唱するN1が、まさにこの部分に該当する。もちろんターゲットユーザーを定めた上でだが、新たなアイデアはユーザー一人ひとりの無意識に向き合い、重視する点や期待する点・可能性などのインサイトに昇華して、初めて強いアイデアの種になる。

 そうやって作られたアイデアを、キーとなる指標を用いて判断していくことで、再定義の成功確率は上がっていく。第1回で取り上げたような購買サイクルが長いカテゴリーのマーケットでのテストであれば、検索行動や自社サイトへの自然流入などの「能動的な行動」を調べたり、サーベイを行うのであれば、(使う前と後で)使いたくなる・買いたくなる気持ちの変化、期待値とのギャップを測定したりするのである(本稿では触れないが、ユーザーとともにアイデアを作る、「co-Creation」という方法も存在している)。

 なお再定義においては、今までとは違うベネフィットの場合もあれば、同じベネフィットなのにアイデアとしては違う捉え方がされる場合もある。たとえば、洗濯洗剤でも、汚れを落として欲しいというユーザーが重視する点を、「目に見えない洗剤カスまで落として、除菌までする」という形で同じベネフィットの方向性を強めるアイデアになることもあれば、「洗濯槽のカビを防ぐ」といった、ベネフィットそのものの方向性が違うアイデアになることもある。重要なことは、消費者が重視すること、期待することやその可能性をインサイトとしてしっかりと捉え、時にはその期待を良い意味で裏切り、シフトさせ、消費者が行動するか、テストを介して確認することなのである。

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Google Nestはどのように(再)定義できるか

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この記事の著者

里村 明洋(サトムラ アキヒロ)

アドビ株式会社マーケティング本部 常務執行役員/シニアディレクター。兵庫県尼崎市出身。慶應義塾大学総合政策学部卒業。新卒でP&Gに入社。営業からマーケティングまでP&Gとしては異色のキャリアを築き、日本とシンガポールにて営業から営業戦略やブランド戦略、コンセプトや広告開発などに従事。Googleに転...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/07/15 10:00 https://markezine.jp/article/detail/35797

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