PMF後は営業時の獲得率が50~60%に
本連載では、チームPMF(才流 栗原氏、DNX Ventures 稲田氏、SPROUND 田中氏)が様々なBtoBスタートアップのPMF(Product Market Fit)の過程を取材。そのストーリーをお伝えします。
FLUXは2018年5月に創業、2019年1月にパブリッシャー向けのワンストップソリューション「AutoStream」をリリースした。対象となる顧客はWebメディアもしくはアプリでコンテンツを発信し、ユーザーを呼び込むことで広告収益を得ているメディア企業である。機能としては広告収益の最大化を行うヘッダービディングを中心に、メディアのデータ活用やアドフラウド対策ソリューションなども提供し、トータルでメディアの収益化を支えている。現在契約メディア数は400以上、継続率は99%を維持しているそうだ。
急成長を遂げている同社だが、PMFに至ったと手ごたえをもったのは2019年の後半から年末にかけて。売上として反映されたのは、2020年の年初だった。外資系コンサル企業であるベイン・アンド・カンパニーを経て、創業社長として事業をゼロから育ててきた永井氏は、次のように語る。
「日本のメディア企業にとって馴染みのないプロダクトだったこともあり、創業当初は時間をかけて説明をして導入してもらい、少数の人に使い続けてもらうステップが必要でした。ですがPMFした後は紹介での導入が増え、お客様が既にプロダクトの存在を知っていて、導入前提でお問い合わせいただき、営業に行った瞬間に発注が決まることも多くなりました。営業した際の獲得率は50~60%に上がっています」(永井氏)
PMF前後の状況を表す際「上り坂で大きな岩を押していた状態が、あるときから下り坂で岩が勝手に転がりだすようになる」という例えがしばしば使われるが、同社はまさにその状態を作ることができているように見える。どのようにして、PMFにたどり着いたのだろうか。永井氏への取材を基に、その過程を紐解いていこう。
PMFの過程で何を検証したのか?
一般に、スタートアップの成長過程は下図のように分解できる。PMFの前段階にはPSF(Problem Solution Fit)があり、これは解決されていない課題と、その課題を解決する有効な手法が見つかっている状態を指す。その一方、課題を解決したら売り上げが立つか、市場性があるか、熱量の高い顧客セグメントがあるかといった項目は、検証できていない。
FLUXの場合は、創業の時点でPSFは終了していると捉えていたという。海外の事例から、メディアの広告枠販売や広告収益最大化というProblemに対して、ヘッダービディングというSolutionが機能しうることが既にわかっていたためだ。一方日本のメディア業界は代理店が強い構造も影響し、類似のプロダクトを大規模に提供している企業は存在していなかった。そのため検証すべき課題は、このSolutionが日本の市場にも受け入れられるのか、そしてスケーラブルな事業として成り立つかどうかに絞られた。
なお、同社がProblemとSolutionのアイデアを発見できた背景には、メディア業界の知識とネットワークを有していたことが大きかった。
「共同創業者の平田はカカクコムで『食べログ』や『価格.com』などのマネタイズを担当しており、そこでの課題感や解決の方法についてよく知っていました。私もメディア業界の知人が多く、Webメディアを手伝ったりしていたこともあったので、そこから彼らが今どこにペインを抱えているのかを掴むことができました」(永井氏)
こうしてFLUXは「AutoStream」をローンチし、PMFへの道のりを歩み始めた。