情報収集より大事なのは思いを巡らせること
中川:個人的には、2020年12月に発売した「ハナコのSDGsライフスタイルブック 気持ちいい生活の、選びかた。」特集はとても印象に残っています。このような真面目な特集が、『Hanako』の習慣化のカギになっていたわけですね。

ちなみに、『Hanako』は女性向けの雑誌ですが、男性編集長の田島さんはどのように女性の気持ちに寄り添うようにしているのでしょうか。
田島:基本的には妄想です(笑)。もちろん、女性の編集部員やスタッフに話を聞いたり、甘いものが好きなのでスイーツやカフェを巡ったりもしますが、読者に関する調査をしすぎないよう気を付けています。
読者調査を深くすればするほど、世の中のトレンドをただ紹介するだけの特集になってしまいます。そうではなく、これまであまり女性と接点がなかった事象に対して、女性誌としてのアプローチをしてみたら、どういう表現ができるか。そのアイデアを磨くことに思いを巡らせる時間を長くとっています。
女性受けのいい商品に必要なのは感覚的な共感
中川:女性に対して入り込みすぎず、世の中をフラットに見て新しい切り口を考えるんですね。最近では、『Hanako』とコラボレーションした商品を見かける機会も増えましたが、コラボ商品開発を進める上で大事にしていることはありますか。
田島:僕らはメーカーではないので、その人のライフスタイルの中で、『Hanako』とコラボレーションした商品がどういった存在になったらいいかということを考えるようにしています。
スイーツを作る際もただおいしいだけではなく、その商品自体が生活の中でどんな輝きを放つか。SNS映えみたいな視点はもちろん、その商品をいつもそばに置きたくなる理由作りから始めます。
中川:実際に好評だったコラボレーションがあれば教えてください。
田島:たとえば銀座のデザート専門店、銀座ぶどうの木とコラボレーションしたお菓子「喫茶店に恋して。」はとても好評でした。
文庫本をイメージしたパッケージで、家の本棚につい置きたくなるようにしました。また、表紙となるパッケージ天面には人気のイラストレーターを起用し、お菓子を買うことでイラストレーターの作品を知り、見ることができるという体験を付与しました。つまりそれは、お菓子が「メディア」として機能してるんです。だから雑誌編集部が手がける意味がそこにできる。

田島:もう1つ、キャッチーな例を挙げるとすれば、4月に発売になるバナナの例があって。ユニフルーティー・ジャパンというバナナの輸入販売元とのコラボで私たちがトライしたのは、パッケージの開発もそうなのですが、「スーパーでバナナを買うことで、バナナがメディアとして機能して、他では味わえないコンテンツを得ることができる」という体験の付与。
今回、バナナでしか読めないメディア「Banako(バナコ)」を〝創刊〟します。バナナに貼ってある秘密のQRコードからしか見られない秘密のメディア。そして、そこにあるのは、なんと吉本ばななさんのエッセイなんです。バナナを買う理由は、美味しそうとかコスパいいとか、そういう理由だけじゃなくていい。

女性誌の仕事をしていて思ったのは、どう感覚的に共感してもらうか。商品の魅力をテキストベースで説明するよりも、見た目がかわいい、手に取ってみたいなど、自分のライフスタイルの中にその商品を迎えてもいいかどうか。Hanakoの仕事は、雑誌だけでなく、デジタルメディアもイベントも、東京駅スイーツもバナナも“編集”しています。そしてそういった幅広い“編集”の蓄積が、「ハナコさんと友達になったらなんだか楽しそうだな」という「習慣化」に結びついていくのだと信じています。
中川:では、最後に新型コロナウイルスの影響で社会の習慣が変わっていく中、『Hanako』でどういったコンテンツを提供していきたいか教えてください。
田島:2020年12月に刊行したSDGsの特集をきっかけに、『Hanako』は「live wise, be happy!」というタグラインにバージョンアップしました。「賢く生きて楽しくなろう」といった意味なんですが、今の時代に大切なメッセージだと思っています。
今、世の中はとても異常な事態に陥っていて、その中でもなんとか幸せを見つけることが求められています。その幸せを見つけるためには、ずる賢さでも、秀才的な賢さでもなく、思慮深いwiseな賢さが必要だと考えます。そういったwiseな賢さが得られて、幸せになれる情報を届けていくこと。それを使命として、これからの時代も長く愛されるメディアとして続けていきたいと思っています。