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Cookieレス時代のネット広告を考える~利用者保護とマーケティング成果を両立するために(AD)

Instagramの脱Cookie対応は?フェイスブック社・サイバーエージェントと理解を深める:2

 Facebook JapanとともにポストCookieの最前線について理解を深めていく本連載。前回に引き続き、サイバーエージェントの羽片一人氏、Facebook Japanの中村淳一氏とともに議論を進めていく。本記事ではFacebook/Instagramが準備している脱Cookie対応の詳細とクライアント企業に対する支援体制について話を聞いた。

プライバシー&パーソナライズを両立する手立てとは

――前編では、Cookie/IDFA規制についてマーケターがどのように捉えればいいのか、またエージェンシーとプラットフォーマーそれぞれのお立場でお二人が現在取り組んでいることなどをうかがいました。後編では、Facebook社が準備している対応について、より詳しくお聞かせください。

中村:前編ではFacebook/Instagramが準備している対応について、3つの方向性があるとお伝えしました。ここでは(2)と(3)について、詳しく説明します。

(1)Apple社のiOSにおけるポリシー変更に起因するシステム設定変更の必要性
(2)プライバシーとパーソナライズの両立
(3)統計的手法によるモデルの採用

本記事の前編「脱Cookieはスマホシフト並みの大転換/フェイスブック社・サイバーエージェントと理解を深める:1」はこちらから閲読できます。
Facebook Japan株式会社 執行役員 マーケティングサイエンス ノースイーストアジア統括 中村 淳一氏
Facebook Japan株式会社 執行役員 マーケティングサイエンス ノースイーストアジア統括 中村 淳一氏

 (2)の「プライバシーとパーソナライズの両立」は、言い換えるとサードパーティCookieに依存せずにパーソナライズしていくことです。この点への対応は2つあります。

 ひとつは、プライバシーに配慮したサーバー経由でのデータ連携。具体的には「コンバージョンAPI」、CAPIと呼んでいる方法で、実装には一定程度の専門技術が要るのでサイバーエージェントさんのようなパートナーに協力を仰いで実装することも推奨しています。クライアント企業のサーバーと直接的に連携するので、WebブラウザからFacebookにCookieデータが送られなくなる影響を最小化できます。従来の方法よりプライバシーセーフで、かつクライアント側が送るデータ種類をコントロールできるという特徴があります。

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――すでに導入している具体例はありますか?

中村:はい、「N organic」というスキンケアブランドを運営するシロク社のInstagram広告で、CAPIを実装したところ配信効率が改善しました。計測ツールであるFacebookピクセルのみを通して最適化した配信と比較すると、たとえば初回購入単価がマイナス6%になるなど、複数の指標で効果が表れています

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実装、スケール化のために専門組織を立ち上げ

ーー目に見える結果が出ているのですね。

中村:そうですね。ピクセルと併用することによる冗長化のメリットもあるので、ポストCookieに備えて早期に導入していただくことが理想的です。新しい仕組みの実装や体制構築の部分はサイバーエージェントさんのようなパートナーに入っていただき、スケールしようとしています。

羽片:この課題への対応に関して、各媒体とエンジニア同士で直接相談できる専門チームを立ち上げました。CAPIの実装やスケール化にかんしても、仕様設計から実装までを一気通貫で支援するチームです。実際に導入を進められるエンジニアのメンバーと、その手前のクライアントサイドの要望を汲んで適切に要件定義できるメンバーを、ひとつのユニットにしています。広告代理店の中でもこのようなテクノロジーに明るいチームの必然性が上がっていることを感じます。

株式会社サイバーエージェント インターネット広告事業本部 統括 羽片一人氏
株式会社サイバーエージェント インターネット広告事業本部 統括 羽片一人氏

ーーソリューション実装の手前にある仕様設計や戦略策定も重要なポイントなのですね。

羽片:はい。中村さんが「クライアント側が送るデータ種類をコントロールできる」と話されましたが、まさにどのデータを送るのかがとても重要になってきます

 そのデータ群がいわばシグナルとなって成果に影響するわけですが、その際にはデータの質と量、どちらも大事になります。正確なデータを、できるだけ多く提供するほうが良いわけです。ただしデータ抽出には広告主様のデータベースにデータがどう入っているのか、どう集計して引き出し、セキュアな状態でFacebookに送るか、といった話がセットになるため、全体を鑑みて最もよい形を探っていっています。

プラットフォーム内での体験価値が一層重要に

ーープライバシーとパーソナライズの両立に関して、サーバー間連携のほかにもうひとつ対応があるとおっしゃいましたが、2つ目は何でしょうか?

中村:前編でも少し触れた、媒体内ですべて完結するパーソナライズです。Instagram広告に接触した人にInstagramショッピングをおすすめする場合は、我々のファーストパーティデータを使っているため、Cookie規制の動向には影響を受けません。

 企業がInstagramのさまざまな機能を使うと、それだけ取得できる利用者データの厚みが増します。プラットフォーム内でのシグナルが増えていく、ということですね。

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中村:特に日本の利用者は他国に比べて、ショッピング機能の利用がとてもアクティブです。たとえばデザイン雑貨などを扱うワンダーマーク社は、小物撮影時の下に敷く背景紙ブランドのECを、我々のパートナーであるBASEで構築しました。そのカタログをInstagramショップとFacebookショップ、そして広告に統合したところ、売上が前月比5倍になりました。プラットフォーム内でのリタゲに加え、類似オーディエンスもターゲットにしてリーチした結果です。

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羽片:Instagramショッピングは、今我々もかなり注力している領域です。

 日本の小売業市場は約60兆円あると言われていますが、EC化率は数%です。10%で6兆円、広告市場と同じくらい。将来的には20~30%とすると20兆円近くなり、うち5割がソーシャルのトランザクションからの売上と仮定すると10兆円。相当大きい規模になると想定しています。ユーザー視点でも、一気通貫で買い物できるのは本当に便利ですよね。

 活用の大きなポイントは、広告ではなく「コンテンツ」だという思考に考え方を切り替えることだと考えています。ユーザーはあくまでコンテンツを楽しみに来ているので、インスタグラマーやYouTuberのように内容を考えていかないといけない。ユーザーに近い感性や感覚も必須なので、我々社内のInstagramショッピングチームも若手中心になっています。

広告配信と計測のモデル化:効率が改善した例も

ーー続いて(3)統計的手法によるモデルの採用についてもうかがえますか?

中村:広告配信と計測の両方で統計モデルを構築して、実行していきます。たとえば自動アプリ広告(AAA:Automated App Ads)は、我々の強みであるアルゴリズムを活かして、キャンペーン設定からクリエイティブまですべて機械学習で自動最適化します。リクルートジョブス社の「タウンワーク」では、既存の配信にくらべてCTR、CPI、CPAのいずれも改善しました。

 

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中村:計測の部分では、特に媒体間比較という観点で、マーケティング・ミックス・モデリング(MMM)を推奨しています。これまでも、CPAでの媒体間の単純な比較だけではなく、ROASや、効果が得られる飽和点などを踏まえて予算配分を最適化すべきという議論がありました。その上で脱Cookie対応もできるソリューションが、MMMです。

 以前、MarkeZineでもGunosy社の事例を紹介いただきました(該当記事)が、この方法もCookieの影響をまったく受けない統計的なモデリングですので、MMMをベースにしたメディアプランニングは今後、ひとつのスタンダードになりうると思っています。

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計測手法はより民主化されていく

中村:計測手法に関してもう一つ付け加えると、より長期的には、プライバシーを考慮できる「統計的なモデリングを使った計測手法の民主化」が進んでいくと考えています。MMMほど洗練されていなくても、もっと本質的でわかりやすい方法が出てくる。エージェンシーや調査分析会社など第三者のパートナーが、次なる手法で計測を民主化していくでしょう。

羽片:おっしゃる通り、やはり第三者と組んだほうが透明性は担保されますね。その上で、“計測の民主化”に関して重要なのは、頻度とコストだと思います。MMMは結果が出るまでに3ヵ月~半年ほどかかることが多いですが、ネット広告は24時間365日運用できるので、デイリーでモデルを回してチューニングしていける仕組みができたら、とてもフレキシブルです。いわゆる正解のデータを返すところも機械で自動化できつつあるので、費用感も下がっていくと思います。そうすると、モデル化すること自体が浸透していきそうです。

中村:Cookieが使えなくなり今までのような媒体横断でのCPAの比較が容易にできなくなるため、そもそもモデル化したアプローチしかできないという大前提があるわけで。MMMの頻度とコストを解決し、汎用化した仕組みの確立を、業界を巻き込んで進めていけるといいですね。

羽片:そうですね。技術面でも日々さまざまなイノベーションが起こっているので、そうした状況を常にキャッチアップしながら、当社でも新しい計測の手法を生み出すために模索しているところです。

マーケティングの本質に立ち戻ることも重要

ーーここまで、前後編にわたってCookie/IDFA規制をめぐる問題を議論いただきました。改めて、今後の見通しをどのように考えていますか。

中村:今回の件は、マーケティングのフレームワーク「WHO・WHAT・HOW」のうち、主にHOWの話ですよね。さまざまなクライアント企業と話していると、従来の手法が難しくなるこのタイミングで、改めてWHOとWHATに立ち戻ろうという動きも見られます。

羽片:同感です。WHO・WHATの重要性に、今まで以上に向き合う必要があると思います。我々も、デジタル活用というHOWの部分で成長してきた会社ですが、たとえばサイバーエージェント・ストラテジーのように戦略部分をサポートする新会社を立ち上げるなど、WHOとWHATの支援にも本腰を入れています。

 また、技術や法務との連携も必要になる中、マーケターやマーケティングのチームに求められる役割も多様化しており、体制づくりの相談も増えています。

中村:人材の交流も大事になりそうです。マーケターとデータサイエンティスト、エンジニアの融合が、今後のカギを握ると思います。海外ではエンジニア出身のマーケターは普通ですが、日本でも若手を中心にテックに対してリテラシーが高い人が増えているので、彼らの台頭が鍵だと思います。

ーー最後に、広告・マーケティングを通じて企業にどのように貢献していきたいか、展望をお聞かせください。

羽片:我々の使命は昔も今も、広告主様の売上へのコミットであり、それはつまり企業の顧客に動いていただくことです。ユーザーの変化をつぶさに捉えて、大きく動いていただけるよう対応していきます。この大きなうねりに対しても、ネット広告No.1企業として、Facebook社や各社のみなさんと協力して新しい“正解”を確立していきます。

中村:利用者、そして企業に誠実に、それぞれのニーズを理解し、プライバシーを最優先にしながら、有益な商品や情報の発見の体験を提供し、場を良くしていく。テクノロジーの会社、イノベーションの会社として、我々もグローバルの知見も統合して各社とともに模索しながらよい成果を導き出していきたいです。

ーー本日はありがとうございました。

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2021/05/27 13:27 https://markezine.jp/article/detail/35916