コロナ禍で生まれた買い手と売り手のギャップ
HubSpotでは2019年から「日本の営業に関する意識・実態調査」を実施、公開している。この2020年版では、コロナ禍の影響が如実に現れる結果となっている。
売り手側の回答をみると「訪問型営業が(リモート営業より)好ましい」とする回答が、2019年は63.1%であったのに対し、2020年は48.2%に減少した。一方、「リモート営業が好ましい」との回答は、2019年の10.7%から2020年は21.8%へと増加している。非訪問営業を好むケースも着実に増えているが、売り手側では訪問型営業を好む傾向も強い。
買い手側の回答をみると、2020年版では「リモート営業が好ましい」と考える人(38.5%)が「訪問型営業が好ましい」と考える人(35%)を上回った。2019年版ではそれぞれ21%、53.7%だったため、1年間で買い手側の意識は逆転したことになる。また2020年版では、非訪問の営業を提案された場合に「特にマイナスの印象を感じない」と回答した人は38.8%となっている。
調査によれば国内のインサイドセールス導入率は37.4%であり、このうち直近1年以内に導入した企業は44.97%となっている。しかし成約率でみると、インサイドセールス導入企業の平均成約率が42.2%であるのに対し、非導入企業では39.1%と、インサイドセールスの導入有無による、成約率の大きな差は見られなかった。
顧客は非訪問型の営業を好ましく思っているものの、手法だけを求めているわけではない。調査では「どのような営業担当者が、買い手にとって誠意のある営業担当者だと思うか」という問いに対し、「できないことを明確に伝えてくれる」(40.4%)「社内でも気づいていない課題を発見し、解決策を提案してくれる」(38.4%)「自社のアピールより顧客の課題ヒアリングを重視している」との回答が上位を占めている。
営業担当者に顧客がいま求めているのは、非訪問型という手法になってもこれまでどおり顧客にとって誠意のある営業担当者でいることだろう。
CRMプラットフォームを提供するHubSpot Japanは「営業全員がインサイドセールス」の組織でコロナ禍においても顧客数は前年比85%と大幅に成長している。まさに顧客に求められる営業を体現している組織だと言える。今回はHubSpot Japanの中でも、飛び抜けた成績を記録している足立直矢さんに、非訪問営業において重要な顧客目線の「インバウンドセールス」の考え方や同社の取り組みについてお話をうかがった。
アウトバウンドセールスで感じた疑問
――まず、足立さんのキャリアについて教えてください。
メーカーの海外営業からキャリアをスタートしています。新規市場開拓も積極的に行っていましたが、既存顧客への深耕営業が主でした。生意気な自分を根気良く育成していただいて感謝しかない一方、入社して4年経ったころ、このまま海外営業のキャリアを続けていくか、あるいは別のタイプの営業を経験し今後の選択肢を増やしていくかと悩み、結果的にSpeeeというスタートアップ企業に転職しました。新規事業のアウトバウンドセールスに興味があって、自分で売上をつくっていく実感を得たかったという思いからです。事業立ち上げのカオス感の中で新規開拓営業の楽しさに気づき、また初めてさまざまなITツールにも出会って、刺激的でやり甲斐のある日々でした。
お客様からご期待をいただくことが増えた反面、また違ったかたちで顧客貢献をしていきたいと考えるようになりました。そんなときに、たまたま留学していたときのクラスメイトがHubSpotのシンガポールに勤めていることを知りました。そのクラスメイトがHubSpotについて、また「インバウンドセールス」について教えてくれて、これが実現できたら営業としてとても面白いし、お客様にとってもメリットがあると感じました。そうしてHubSpotに入社したのですが、実際に働いてみるとお客様の定着率がまったく違ったのです。
高い定着率の実現はHubSpotがインバウンドセールスを実施しているからなのですが、それも営業組織だけで行うものではなく、マーケティング、セールス、カスタマーサクセス、すべてのチームがインバウンドに基づいた施策を展開しています。
――インバウンドとアウトバウンドについて、HubSpotではどのように定義しているのでしょうか。
一般的には、インバウンドといえばコンテンツマーケティング、アウトバウンドといえばテレアポや飛び込みなど、手法ベースで区別されていると思いますが、HubSpotでは、手法ではなく思想の違いとして定義しています。インバウンドとは、先にこちらからお客様へ価値を届けて信頼関係を構築して、お互いが成長できる状態を目指す思想です。一方、アウトバウンドはお客様から先に価値を引き出すことを重視した思想です。
HubSpotのインバウンドなインサイドセールスをもっと知りたい方に!
インバウンドの思想をもとに全員インサイドセールスの体制で商談を完結させ、リモート環境でもコミュニケーションをとり事業成長を実現しているHubSpot Japan。同社が提供する資料『インサイドセールス活用法ガイドブック』では、「非訪問型の営業でも訪問と同じように顧客へ価値提供する」ための組織づくりの方法が解説されます。インサイドセールスの導入や運用に悩みを抱えている方はぜひ、こちらからダウンロードして組織での議論にご活用ください!
顧客は商談前にフローの50%を終えている? 営業に求められるもの
――具体的なお話に入っていきます。昨年、足立さんはHubSpot Japanでいちばんの営業成績を上げたわけですが、買い手側のどのような変化を感じましたか?
まず、お客様が事前に調査するレベルが向上していると感じました。情報を精査する力も高まっており、購買フローの50%が終わった状態で営業担当者との商談に臨んでいる印象です。情報を収集するソースも多岐にわたっていて、事前にHubSpotのユーザー様に事前にヒアリングするお客様もいらっしゃいます。詳細なリサーチをしているからか、早い段階で決裁者が商談に同席するケースも増えました。
これは、新型コロナウイルスの感染拡大対策でリモートワークが増えた点が大きく関係していると思います。メンバー間での情報共有が難しくなり、CRM/SFAやMAを導入する緊急度が高くなったことで、本気で調べる方が増えたのではないでしょうか。また、リモートワークが増えたことでオンライン商談に対するリテラシーも向上しました。HubSpotでは基本的にすべての商談をインサイドセールスで行っているのですが、以前は訪問しないと検討の候補にもあげてもらえないことも何度かありました。オンライン会議への抵抗がなくなった今は、「オンラインだから」と断られることはほぼなくなっています。何度もオンライン商談を重ねる必要が出たときも、協力的な姿勢を見せていただける企業がかなり増えたと感じています。
――そうした買い手の変化に対して、足立さんはどのように対応したのでしょう。
インバウンドの思想に基づいた営業はコロナ以前から一貫して続けていましたので、基本的に大きな変化はありません。ただ、お客様により良い体験をしていただきたいという意識は高まっています。HubSpotを活用することで、お客様がメールを確認したことや、どの資料をダウンロードしたかをリアルタイムに把握できますから、お客様がどのフェーズにあるのかを見極めて対応するようにしています。
たとえば、お客様のフェーズが「興味・関心がある」という状態であれば、HubSpotの話は出さない。「検討段階」のフェーズのお客様にはデモをご覧いただくことから始めます。あくまでインバウンドの思想に基づいて営業を行い、お客様のアクションに対応するかたちで営業するわけです。対応する内容とタイミングは慎重に判断しています。
また、私たちがHubSpotを活用しながらお客様に提供しているユーザー体験を、お客様もエンドユーザーに提供したいと思えるような営業活動を心がけるようにしています。あるお客様が、私の営業を通して「自分たちも、顧客に対してこんなスマートな営業を実践したいから、HubSpotを使いたい」と、おっしゃっていただけたことがきっかけです。
――一貫して営業活動の中で大切にしていることを教えてください。
HubSpotの考えるインバウンドの思想を体現することです。そのために、お客様を知ることと情報を惜しまず提供すること、「Give」の精神を意識しています。お客様を知ることについては、とにかくさまざまなツールやソースを駆使して、できる限り詳しい情報を集めます。
そしてお客様のフェーズに合わせて、私自身の経験や市場の動向、HubSpotの機能、競合の情報などをどんどん提供します。間違いを恐れず自分なりの仮説も伝え、「この人は良い情報をくれる」「仮説をどんどん言ってくれて、自社のことを考えてくれている」と思っていただければ、信頼関係構築のきっかけを得られます。
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連動したKPIでマーケ&CSとインバウンドの思想を体現 営業育成は?
――ひとりの営業担当者として、足立さんが顧客とどのように向き合ってきたかをうかがってきたのですが、マーケティングやカスタマーサクセスのチームとの連携について教えて下さい。
HubSpot CRM上で顧客情報を一元管理しており、マーケティング、セールス、カスタマーサクセス、すべての部門がCRMの顧客情報をもとに施策を進めています。そのため、そもそも部門間の連携をそれほど意識せずともシームレスに顧客情報を共有できていますね。とはいえ、メンバー間のコミュニケーションも積極的に行っています。たとえば、営業からマーケティングチームに「このブログの反応が良かった」「このトピックを経由した見込み客の検討度合いは高かった」などのフィードバックを定期的に共有しています。
各部門のKPIも連動しています。自身の営業経験からも実感したことですが、営業担当者が「契約」をゴールに商談を進めてしまうと「契約したものの価値を感じられず、解約してしまう」現象が起こってしまいます。HubSpotでは、マーケティングはリードだけを、セールスは受注だけを、カスタマーサクセスは継続率だけを追うのではなく、すべての部門で「顧客の継続率や活用頻度」を重要指標としています。さらに言えば、単に数値だけを追っているわけでもありません。お客様自身がHubSpotのインバウンドの思想に共感し、HubSpotのツールを活用して、エンドユーザーに本質的な価値を届けられる状態を目指しています。
営業組織だけでインバウンドを実現するのは難しいと思います。HubSpotは、マーケティングとセールス、カスタマーサクセスの連携が文化として定着していますし、それを組織構成やツールが支えてくれています。目標達成に関しても、営業だけの責任ではなくチームで情報共有をしながら進めていくことができるため、営業が目標達成に疲弊して辞めてしまうということも起こりにくいと考えています。
――営業メンバーの育成をどのように行っているのかについてもうかがえますか。
営業育成に関しては、お客様からもご相談いただく機会が増えましたね。HubSpotでは2020年2月以降オフィスがクローズし、全員リモートワークで営業活動を行っているのですが、育成に関しても問題なく実行できています。具体的には商談記録をもとに、3人1組でお互いにレビューし合う会を定期的に実施しています。私はこの仕組みがとても気に入って、自分からも積極的にフィードバックを提供しますし、メンバーからも常に新しい視点や気づきをもらっています。
入社したメンバーが早くインバウンドを体現できるようにプレイブックというテンプレートも用意されています。しかし、メンバーにはそれをひととおり理解できたら、商談の場ではそれをあえて一旦忘れて、目の前のお客様に集中してみようと話しています。お客様との会話も、自分が聞きたい情報ではなく、お客様の潜在的な課題を掘り起こすようなヒアリングをしようということも伝えます。
――さいごに、2021年足立さんがチャレンジしたいことについて教えてください。
中小企業のお客様はもちろん、機能追加や外部連携を進めてきたことによってエンタープライズのお客様への支援を行うことが増えてきています。エンタープライズ企業への支援では、よりお客様の組織に深く入り込み組織戦略をつくっていくような導入支援を行うことができる営業担当者になりたいと考えています。
――HubSpotのトップセールスとしての足立さんがいかにインバウンドな営業に取り組んできたのか、そしてそれらがどのような思想や組織構成に支えられているのかよく理解できました。2021年の挑戦も楽しみです。ありがとうございました!
HubSpotのインバウンドなインサイドセールスをもっと知りたい方に!
インバウンドの思想をもとに全員インサイドセールスの体制で商談を完結させ、リモート環境でもコミュニケーションをとり事業成長を実現しているHubSpot Japan。同社が提供する資料『インサイドセールス活用法ガイドブック』では、「非訪問型の営業でも訪問と同じように顧客へ価値提供する」ための組織づくりの方法が解説されます。インサイドセールスの導入や運用に悩みを抱えている方はぜひ、こちらからダウンロードして組織での議論にご活用ください!