売上利益以外の評価指標を設定せよ
企業が顧客から「自身の極めて個人的なデータを提供しても良い」と思ってもらうには、自社の売上利益よりも顧客の役に立つかどうかが重要となる。売上利益はあくまでも結果にすぎず、企業や商品が真に顧客の役に立つのかを考えなければならないと本書では語られている。
本講演に登壇した山口氏は、インサイトフォースで企業のコンサルティングを行っている。支援する企業の中には、オフラインに店舗を持つ小売やメーカーもあるという。山口氏は同書で語られている「売上利益だけでないKPI設定の重要性」に理解を示しつつ、次のように企業の本音を代弁した。
「よほど強い長期目線のポリシーがあるオーナー経営者の起業を別にすれば、目の前の売上を追い続けてしまうのも致し方ありませんし、顧客の役に立つことと売上の両立は常にバランスさせていくべきものではないでしょうか」(山口氏)
これに対し、玉井氏は組織戦略の観点から以下のように補足する。
「企業には、現場の担当者が真の意味で顧客のためになる行動を起こすための評価指標を取り入れてほしいです。たとえば、本の中でも事例として紹介したヤッホーブルーイングでは、社員がイベントを企画するにあたり、実施の可否を決める基準が『熱狂度』にあります。パーパスを見つめ直し、企業として達成したい価値が固まれば、その価値に対するコミットを重視すべきです。『売れる/売れない』以外の評価指標を設定しなければ、結局現場は顧客のためではなくその年の売上のために行動してしまいます」(玉井氏)
(下)『「売り方」のオンラインシフト』著者 玉井博久氏
パーパスを作るのではなく見つめ直す
また山口氏は、扱う商材が日用品のような低関与商材である企業の場合、「売上や収益以外の評価指標の重要度を高めることにハードルを感じてしまうのでは」と指摘。嗜好品のような高関与商材は消費者のブランドに対する好意や魅力が先んじて購買に至る。一方、低関与商材は消費者が利用するうちに愛着が生まれるため、ブランドの自然想起を高め、販路で良い棚を確保するといった、消費者を購入に至らせるための販促施策がまず重視されるのは必然だからだ。この指摘を受け、玉井氏は次のように答えた。
「企業の戦略として、差別化で勝負しようと決めているのであれば、扱っているのが低関与商材であっても7Pに取り組むべきだと考えています。なぜなら、7Pの実践が参入障壁を築くことにつながるからです。たとえば、Amazonの場合、ブランドに対する愛着というよりも『便利だからずっと使ってしまっている』という動機で利用するユーザーが多いと思います。その利便性の背景にあるのは膨大なデータとAIによる高度なレコメンドです。データに基づく圧倒的な利便性がアマゾンの差別化要因となり、大きな参入障壁を作っていると言えます」(玉井氏)
パーパスは広告を運用する際にも重要な役割を担うという。「誰の何のために取り組むのか」をフラットに見つめ直し、狙った相手を引き寄せるコンテンツを作るためにはパーパスが設定されていなければならないと玉井氏は語る。
「パーパスを『作ろう』ではなく『見つめ直そう』と言いたいです。どんな商品も理由があって生まれているはずなので、その背景にあるこだわりやストーリーを棚卸しすることで、商品を本当に求めている相手の顔も自ずと見えてきます」(玉井氏)
