手がかりは「内側」にある
小田:最適化の延長線上ではない、新しいことを始めてみるためには何が必要になると思いますか?
檜垣:新しいこととは、安定している状態から一歩を踏み出すことですよね。不確実性が高くなるため、自分の想いやアイデアで勝負なんてできないと、皆さん感じていらっしゃるのではないでしょうか。でも、数ある選択の中から対象へのアプローチを定めるときには、相手だけでなく、自分の内面も深く関係してくるはずなんです。
小田:愛のあるギフトの話でも、そう考えられています。誰かのことを理解してその人を喜ばせるプレゼントの選択肢って、たくさんありますよね。たとえば、相手が「甘い物が好き」だとする。でも、送り手がどんな人かによって、甘い物の中でも何を選ぶかは変わります。
檜垣:その通りです。良い戦略も、環境変化の普遍性と企業の個別性の交錯するところに生まれると言われていますよね。イノベーションを起こして新たな市場を創造していく過程では、一社一社、違う個性と歴史を持っていることに気づかされます。自らのアイデンティティや強みを認識するところに、オリジナリティのある愛のあるギフト、つまりユニークな戦略があるのではないでしょうか。
安斎先生もおっしゃっていたように、今のマーケティングは、アウトサイド・インの発想が強く、インサイド・アウトの発想が弱い。インサイド・アウトとは、プロダクト・アウトのことではありません。送り手の内側にある想いから出発し、喜ばせたい誰かのことを深く理解しながら、プロダクトに磨きをかけていくことだと思います。インテージでは「生活者360°理解」を掲げていますが、生活者理解は、このインサイド・アウトの過程においても、大切になる考え方だと思っています。

データと問いを往復することが価値になる
小田:締めくくりとして、この不確定な時代にマーケターやリサーチャーはどうしていくべきか、ということを考えてみたいと思います。皆さんの考えをお聞かせください。
安斎:到達すべき場所を最初に規定することを、もう諦めたほうがよいかもしれないと思います。問い、好奇心、そして愛を起点に置き、KPIを目標達成ではなく、自分自身や企業の自己変容にする。リソースを集中ではなく、分散させていくことが求められていると思います。
鮎澤:今後も取得できるデータは増えていきますし、精度も高まり、それを活用する新たな方法論もたくさん出てくるでしょう。それにともない、「一体どの羅針盤が正しいのか」に迷う場面も増えるかもしれません。
そこで必要なのは、自分自身のありたい姿を描くこと。これからは「自分だったらこうしたい」と主導しながら、データに向き合っていくことになると思います。そもそも、やりたいことや欲しいものがなければ、羅針盤を選ぶこともできません。正しさを見つけるのでなく、データと問いの間を行ったり来たりし、可能性を探索することで、データの価値がより高まっていくのではないでしょうか。
檜垣:そうですね。「こうしたい」「こうありたい」が大事になっていくでしょう。ますますWILLが問われるようになる中では、生活者としての自己や他者への深い理解を前提とした、インサイド・アウトのアプローチに、大きなヒントがあるように思います。
MIMIGURIのメディア「ayatori」でも、本座談会の様子を記事にしています。「創造性は、人を理解し愛することから生まれる――インテージとMIMIGURIに通底する、組織の“野生”を育む思想とは。」