コンバージョンに至るファネルの形が変わっている
押久保:では、もう少しEC領域に絞って、集客からコンバージョンするまでの接続についてうかがえればと思います。従来、ネット広告と、コンバージョンの最適化を目指すConversion Rate Optimization(以下、CRO)は事業者として分断されていましたが、生活者がオンラインで過ごす時間が長くなると、この見直しも必要そうですね。ZETAさんはCRO支援のツールを提供されていますが、どうお考えですか?
山崎:おっしゃるように、広告とCROはもっと有機的につながるべきだと思います。そもそも、集客からコンバージョンに至るファネルの形が変わりつつあります。以前は極力多くのお客様に情報を届け集客し、そこからわずかなコンバージョンを獲得していたのが、ECの利用人口が増え、また広告のパーソナライズの精度も高くなったことから、ファネルの各フェーズにおける転換率が上がっています。その流れを追い風に、CRO領域のユーザー分析から得られる知見を広告にフィードバックすれば、CVRの改善の余地はかなり大きいと思います。
押久保:広告とCROを一気通貫で捉えて改善していく、と。マス媒体に対してデジタル媒体の存在感や比重が大きくなっている流れを考えても、その観点での効率化は費用対効果が大きそうです。ただ、まだ広告に比べてCROの対策ができていない企業が多いのでは?
山崎:その通りですね。それは単純に、デジタルに遅れを取る企業がまだ多いから。同時に、広告の定義もどこかずれている企業が多いからでは、と思っています。
「あざとい広告」に躍起になるのはやめよう
押久保:広告の定義がずれている、とは?
山崎:あくまで私見なのですが、私は現代の広告の一番の役割は「認知」だと考えています。ターゲットにしっかり届き、プロダクトの存在や特徴を知ってもらえたかどうかの「ゼロイチ」を担うものであり、実質的な価値以上に見えるように演出して、購買をそそのかすためのものじゃない。
そういう広告は、今となってはあざといと思うんです。昨年の鼎談でも「あざとさ」がひとつの議題になりましたが、その態度は生活者にも見抜かれるようになっているので、昔のように効かない。むしろブランド毀損になるのでは、とも思います。
押久保:かつては有効だった「あざとい広告」で、未だに何とかしようと躍起になっているから、CROへの接続に目が向かないわけですね。企業やメディアから一方的に情報を提供する、マス広告全盛期の「情報の非対称性」がもう崩れていることを考えても、企業の態度として真摯になるべきだと思います。そして広告とCROを一気通貫で捉え、パーソナライズを精緻化していくほうが、リターンが大きいのではないでしょうか。
山崎:そう思います。もちろん、すべての業態でそれが可能かどうか、今すぐ必要か、ということは検討すべきですが。
松田:そうですね。私もお二人の意見におおむね同感なんですが、今取り組んでいる地方創生事業の支援では、業界や地域、世代の違いによるギャップに驚かされます。技術的にだけでなく心理的な障壁も大きいので、その点にも気を配る必要がありますよね。
山崎:そこを無理には変えられないですね。何事も、時期尚早だとうまくいかない。その点でも、大局を捉えながら足元の感覚や受け止められ方にも敏感であるべきだと思います。