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自分の心を使いながら、お客様の心にアクセスする。鹿毛さんと中村さんが明かす「これが、インサイト。」


 リスボンの少年・ミゲルくんが、アーティストの西川貴教さんが「♪消臭力~」と高らかに歌い上げる。これに限らず、皆が知るところのヒットCMを次々生み出してきた元エステーの鹿毛康司氏が、このほど新刊『「心」が分かるとモノが売れる』(日経BP)を上梓。発売翌週、熱いラブレターとも取れる感想文をnoteにしたためたのが、Facebook Japanの中村淳一氏だ。編集部の打診に両名とも快諾いただき、対談が実現。技術発展が目覚ましいこの時代、「インサイト」そして「心」をテーマにお話しいただいた。

心を理解し、心でつながることをあきらめない

中村:鹿毛さん、はじめまして。今日はZoom越しですが、お話しできてうれしいです。

鹿毛:よろしくお願いします。note(※中村氏のnote)に本のことを書いていただいて、ありがとうございます。

中村:読者の方に経緯をお話しすると、鹿毛さんのご著書『「心」が分かるとモノが売れる』には、これまで手掛けられた事例を交えて、インサイトの捉え方やクリエイティブへの転換方法などがわかりやすくまとめられていました。私も、P&Gでのマーケティングインサイトと分析の専門職を経て、今はFacebook Japanでもデータサイエンスや人間理解を起点としたマーケティングの変革に取り組んでいるので、とても参考になる内容でした。

 ただ、一回読み終えたあと、どこかまだ、消化不良というか、モヤモヤしている気がしていました。鹿毛さんがこの本を通して本当に伝えたいことをちゃんと理解できたのかなと。本の言葉を借りると、「心の周波数」がズレている。そこを合わせたくて、本ではなく、鹿毛さんの過去の取材や講演の記事を洗いざらい読みました。その上で本を読み直してみると、ここにはマーケティングのノウハウ本ではなく、ご自身のマーケティングの根っこにある「信念」の表明が書かれているのだと、よくわかりました。

 心を理解し、心でつながることをあきらめない。……何も、今のデジタル時代のマーケターが「心でつながることをしていない」と言いたいわけではないのですが、意外とその重要性が見落とされていることも多いと日々感じていたので、ぜひそのあたりをお話ししたいと思いました。

(左)株式会社かげこうじ事務所代表/マーケター/クリエイティブディレクター 鹿毛康司氏。マーケターとして活動すると同時に、クリエイティブディレクターとしてCM監督、プランニング、コピー、作詞作曲も手掛ける。雪印乳業を経てエステー宣伝部へ。同社 執行役を経て2020年に独立。引き続きエステーに携わりながら多業種を支援。(右)Facebook Japan株式会社 執行役員 マーケティングサイエンス ノースイーストアジア統括 中村 淳一氏。P&Gにて柔軟剤ブランド「レノア」の日本立ち上げのコアメンバーや店舗営業チャネルシニアマネージャーを経た後、シンガポールにてグローバルメディア、アジア地域ビッグデータ担当のアソシエイトディレクターに着任。2017年にFacebook Japan入社。
(左)株式会社かげこうじ事務所代表/マーケター/クリエイティブディレクター 鹿毛康司氏。マーケターとして活動すると同時に、クリエイティブディレクターとしてCM監督、プランニング、コピー、作詞作曲も手掛ける。雪印乳業を経てエステー宣伝部へ。同社 執行役を経て2020年に独立。引き続きエステーに携わりながら多業種を支援。
(右)Facebook Japan株式会社 執行役員 マーケティングサイエンス ノースイーストアジア統括 中村 淳一氏。P&Gにて柔軟剤ブランド「レノア」の日本立ち上げのコアメンバーや店舗営業チャネルシニアマネージャーを経た後、シンガポールにてグローバルメディア、アジア地域ビッグデータ担当のアソシエイトディレクターに着任。2017年にFacebook Japan入社。

発明の根幹には「心」があった

鹿毛:「心」って、語るのが難しいですよね。ビジネスの現場で「心が」などと言い出すと、急にふわっとした話に聞こえてしまう。僕はグロービス経営大学院でインサイトについて教えたりしているのですが、「インサイト」というのが何なのか、どうしてもピンとこない人もいます。

 そもそも組織やビジネスは合理的に判断して進めるものだから、ビジネスパーソンには「合理的な人間であらねばならない」というインサイトがあるんです。だから「インサイトをつかもう」とか「人の行動の95%は無意識に支配されている」などと言われると、非合理的に感じて目をそらしてしまう。 

 それも、よくわかります。僕も最初、マーケターとは科学的でスマートな仕事で、最新のテクノロジーやフレームワークにちょっと自分のアイデアを足せばモノが売れ、世の中に影響を与えられると思っていたから。

中村:そうでしたか。

鹿毛:もともとテクノロジーへの関心は強くて、勤めていた雪印乳業では営業の社員に一人1台PCを支給したり、アプリケーションを開発したりしていたんですよ。アメリカでMBAを取得して天狗になっていたこともあって、横文字を使ってビジネスをやった気になっていた。でも、そこにはすっぽり、愛情や情熱が抜け落ちていたと思います。

 もちろん、データやテクノロジーは大事だし、今だから可能になっていることもたくさんあります。僕も調査やデータ分析をはじめとして、できる準備はいつも全部する。ただ、じゃあ昔からテクノロジーがどう使われてきたかというと、ラジオを作った人、テレビを作った人、Facebookを作った人だって、根幹にあるのは情熱だったこんなふうにしたら受け手に喜んでもらえるだろう、という「心」がある。それが伝わるから世の中に広がっていくのであって、技術や手法が優れているからじゃないですよね。

 成功しているプロダクトやサービスの根底には、すべてそこにかける人の情熱があります。ソニーでウォークマンの開発を手掛けた技術者の大曽根幸三さん(※)も、あるいはiPhoneを生んだスティーブ・ジョブズも、そう。

(※)開発の際には木片を加工した“木型”を用いて「この大きさのCDプレイヤーを作ってほしい」「技術的にまとめていくとどの大きさにできるか、じゃ駄目だ。この大きさこそ、皆が喜んで使う製品となるのだから」と開発チームに伝えるなど、使い手の気持ちを代弁したものづくりを徹底した(参照元:ソニーグループ Sony History)。

中村:同感です。そして、そうした方々もリサーチはきっとしていたはずです。ときどき、成功するサービスの開発にデータやリサーチは不要だという意見を聞くのですが、それは違うのではないかと思います。

鹿毛:その通り。使える手段は当たり前に使った上での、自身の情熱をともなうジャンプなのだと思う。原点回帰というと単純すぎる気もしますが、いったんテクノロジーを脇に置いて、相手のことを見つめてみる。寿司屋の大将が「今日はあのネタがうまいよ!」とお勧めするように、お客様の心に何を提案したいのか、立ち戻ってみる。デジタルやソーシャルが人の生活を大きく変えているなかで、改めて「お客様と心でつながるにはどうするか」を考える段階にあるんじゃないかと思っています。

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/08/17 10:24 https://markezine.jp/article/detail/36504

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