ビジネスにおける「成長」とは何か
これからの時代、ビジネスにおける「成長」とは、どのような意味を持つのでしょうか。
2020年は多くの変化や方向転換があり、売上目標を達成できなかった企業は4割以上だと言われています。コロナ禍を機に、多くの企業にとって「成長」とは単に売上や新規顧客を増やすことではなく、混乱を乗り切り、より強く回復することを意味するようになりました。成長についての考え方が、根本的に変わったのです。
アカウント・ベースド・マーケティング(ABM)ソリューションを提供し、HubSpotのアプリパートナーでもあるテルミナス社(Terminus)の共同設立者、サングラム・ヴァジュレ氏はこのことを非常に的確に表現しています。
“Retention is the new acquisition and helping is the new selling”
顧客の維持は新たな形の顧客獲得であり、顧客支援は新たな形の営業活動である
顧客との信頼を重ね関係性を維持すること、顧客を支援していくことは、これからの時代の成長戦略において非常に重要であるということです。
そしてレジリエンス(復元力、耐久力)を備えた成長戦略を策定すれば、自分たちの成功はもちろんのこと、顧客の長期的な成功についても見据えることが可能になります。
“レジリエンスのある成長戦略”を描く
では、レジリエンスのある成長戦略は、どのように策定していけば良いのでしょうか。HubSpotでは、企業が策定した成長戦略をフライホイールの観点から評価し、改善すべき箇所を見つけ出すツール「Growth Grader」を提供しています。
フライホイールとは、HubSpotの CEOであるブライアン・ハリガンが提唱した、「ファネル」に代わる新たなフレームワークです。まず見込み客のニーズに沿うコンテンツを提供することで興味関心を獲得し(Attract)、信頼関係を構築し(Engage)、満足度を上げていくことで(Delight)顧客を推奨者(プロモーター)へと転換。推奨者により新たなAttractにつなげていくという“循環型”のフレームワークです。私たちは、フライホイールを効率よく回し、回転を速くしていくことで、ビジネスは成長していくと考えています。
フライホイールを効率よく回していくためには、3つのフェーズ(Attract・Engage・Delight)のうち、最もインパクトがある領域に推力を加える必要があります。
またフライホイールに推力を加えるときには、それに反する力(摩擦)が働かないように注意し、摩擦の原因となる要素をビジネス戦略から取り除かなくてはなりません。摩擦とは、フライホイールの回転速度を落とす要因になる、あらゆるものを指します。
そして、どのフェーズに推力を加え、どの摩擦を取り除くべきかを把握するために「Growth Grader」は有効なツールとなります。
Growth Graderは、Attract、Engage、Delightというフライホイールの3つのフェーズを100点満点中の何点かで評価し、取り除くべき摩擦を明らかにします。そして各フェーズのスコア向上に役立つプレイブックを提案します。
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HubSpotが実践した、レジリエントな組織を作る5つのステップ
当社では実際にGrowth Graderを使って自社の成長戦略を見直し、組織変革を行いました。ここからはその取り組みについてお話しします。
先述の通り、フライホイールの回転を速くするために推力を加える際には、回転を減速させる可能性がある摩擦に注意を払う必要があります。Growth Graderでスコアの高い企業は、顧客体験における摩擦を取り除いて、顧客との事業を行いやすくしています。
顧客体験における摩擦が生じる要因としては、「不十分な内部プロセス」や「チーム間のコミュニケーションや調整の不足」「業務のサイロ化」などが挙げられます。HubSpotで最も課題となったのが、この点でした。そこで当社では顧客体験における摩擦を取り除くために、まずは組織改革に最も投資すべきと判断しました。
具体的には、マーケティング、セールス、カスタマーサクセス、オペレーションから構成されるGTM(Go To Market)チーム全体で、単一システムへの移行を数年間にわたり実施中です。移行をスムーズに進めるため、長期的な計画や戦略に組み込めるフレームワーク「レジリエント・グロース・プレイブック」を開発しました。
レジリエント・グロース・プレイブックには、以下の5つのステップが存在します。
1、意思決定者を統一し、組織全体としての連携を促す
2、顧客体験の改善を抜本的に行うため、成長機会を明らかにする
3、3ヵ年の戦略と、1年分の運用計画を作成し、GTM戦略を調整する
4、データに迅速かつ簡単にアクセスできる、優れたシステムを構築する(ばらばらなシステムは、従業員や顧客にとっての摩擦になる)
5、重要だと考えている要素を測定し、あらゆるセグメントやあらゆる国でのトラッキングを可能とする仕組みを構築する
このように、私たちはフライホイールと成長戦略をより良いものへと高めていくため、新しい方法を常に開発しています。そして、自分たちの戦略を評価せずして、的確な提案を行うことはできないということも理解しているため、常に自分たちの評価も忘れません。
HubSpotがGrowth Graderから得た学び
ここからは、Attract、Engage、Delightというフライホイールの3つのフェーズごとに、どのような推力を加えられるのか(=どのように改善していけるのか)、またHubSpotがそれぞれにおいて何を実践してきたのかをご紹介します。
Attract(惹きつける)
フライホイールのAttractフェーズでは、何かしらの課題を持ち、解決策を探す訪問者に有益なコンテンツを提供して魅了し、障壁を取り除きます。ここでキーとなるのは、訪問者の注意を引くことであって、何かを強制することではありません。トラフィックやリードを生み出すプロだという自負がある方は、このフェーズで高得点を獲得できるはずです。
これからプロを目指そうという方のために、加えることができる推力をいくつか挙げてみましょう。
・SEO対策
・ソーシャルメディアマーケティング
・ソーシャルセリング(ソーシャルメディアを使った営業活動)
・有料のターゲティング広告
・コンバージョン率の最適化
HubSpotの事業の根幹は、コンテンツとインバウンドマーケティングにあります。Discoverability(見つけられやすさ)は優れているものの、リファラル(既存顧客からの紹介や推薦)はそれほど強くなく、評価が最も高いのはAttractフェーズでした。私たちは、すぐに売上につながるという確証がなくとも、まずは何らかの価値を提供したいと心掛けています。そのためブログ、ウェビナー、キャンペーン、ソーシャルメディア、HubSpotアカデミーのレッスンや認定コースなどの無料コンテンツに、多額の投資を実施してきました。
HubSpotのスコアを高めるのに役立つと推奨されたのは、リファラルマーケティングについてのプレイブックでした。そこで顧客マーケティングチームを作り、カスタマーアドボカシープログラムを立ち上げ、顧客ネットワークへの投資をより重点的に行うようにしました。
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顧客との信頼関係を築き、推奨者へと転換する
Engage(信頼関係を築く)
Engageフェーズでは、購入者が好むチャネルで、適したタイミングで適した情報を提供し、自社と顧客のエンゲージメントを高めたうえで、商品の選択や購入をスムーズに進められる状態を構築します。取引のクロージングのみでなく、関係の構築に重点を置くわけです。見込み客の創出やナーチャリングに強みがある企業は、Engageフェーズのスコアは高いのではないでしょうか。
このフェーズのスコアを高めるには、たとえば以下の項目を推力にできます。
・Webサイトやメールのパーソナライゼーション
・データベースセグメンテーション
・マーケティングオートメーション
・リードナーチャリング
・マルチチャネルコミュニケーション(チャット、電話、メッセージング、メール)
・セールスオートメーション
・リードスコアリング
・購入前のお試しプログラム
私たちのEngageフェーズには、まだ改善の余地がありました。顧客とのコミュニケーションのチャネルは複数用意してあるものの、もっと顧客一人ひとりに合わせて深くパーソナライズする必要性を、Growth Graderによって認識できました。パーソナライズした関係を顧客と築くには、顧客情報を一元管理し、共通の認識を持つことが不可欠であるため、私たちは今このシステム調整に投資しています。
その一環として、HubSpotアカデミーのラーニングパスや、マーケティング、セールス、カスタマーサービスのプロに向けたコースを通じて、体験のパーソナライゼーションを開始しました。また、戦略的ニーズや目標を満たすために必要な製品をバイヤーが的確に選べるよう、Growth Graderなど購買支援ツールの開発や、データの新しい活用方法に重点的に投資しています。
Delight(満足させる)
Delightフェーズでは、顧客が目標達成できるよう助け、支援し、能力を引き出します。顧客の成功があなた自身の成功であることを、忘れてはなりません。Delightフェーズのスコアが高ければ、顧客のニーズに応え、課題を解決できているということになります。
このフェーズのスコアをさらに高めるには、次のような推力を追加することができます。
・セルフサービス型コンテンツ(ナレッジベース、チャットボット)
・プロアクティブなカスタマーサービス
・複数チャネルを利用できるようにすること(チャット、メッセージ、電話、Eメール)
・チケット管理システム
・自動オンボーディング(導入支援サービス)
・顧客フィードバック調査
・ロイヤルティプログラム
Engageフェーズと同様に、顧客に感動を与えるDelightフェーズにおいても、やるべきことはいくつかありました。Growth Graderによって浮き彫りになったのは、私たちは顧客の問題に対応することは得意であること、その一方でもっと顧客のニーズを予測した上で解決することもできるのではないか、ということでした。
プロアクティブに顧客に働きかけるため、私たちは「Voice of the Customer」というプログラムを創設しました。これはあらゆる顧客体験のフィードバックを集めて分析し、得られた教訓を的確な行動につなげていくものです。毎月の経営会議には顧客を招き、非常に厳しいフィードバックをしてもらいます。こうすることで、顧客が本当に何を欲しいのか、何が必要なのかを直接知ることができるのです。
優れた顧客体験の提供なくして、真の成長は見込めない
HubSpotがファネル型からフライホイール型のビジネスに転換すると発表したのは、わずか2年前のことです。事業モデルやチームの中にレジリエンスを組み込むことでスケールアップ(事業拡大)し、危機的な状況にもしなやかに対応できるようにするためです。
フライホイールモデルは、当チームにも顧客にも大きな成果をもたらしましたが、我々のやるべき仕事はまだ完了していません。そして本当の意味で「完了」することは、決してありません。購入者の行動は常に変わります。市場も常に変化しています。そして世界が突然変わってしまうことも、この一年間で目の当たりにしてきました。つまり「優れた顧客体験」の定義も、絶えず進化しているのです。
優れた顧客体験を提供することなしに、成長することはできません。しかし、より良く成長するということは、損益計算書の中にある数々の項目や、フライホイールの各パーツに表れるもの以上の意味を持ちます。成長とは、今構築しているものが明日には形になっているという約束を、顧客やパートナー、従業員と交わすことなのです。
私たち自身の成長の主要な要素として、以下の4つを考えています。
・私たちの価値は、私たちの製品以上のものである
・従業員の価値は、彼らの肩書以上のものである
・顧客やパートナーは、取引規模以上のものである
・危機に直面した際の成長とは、たとえ困難であったとしても――あるいは困難であればこそ――正しいことをすることである
あらゆる企業は、スケールアップできる収益性の高い組織を作ることではなく、コミュニティから信頼される組織を作るよう努めるべきです。利己的で貪欲で、つけを未来に回すような成長の仕方も、可能ではあります。それでも私たちは、企業はより良く成長するべきだと信じています。本稿が、御社が今年、そして将来にわたってレジリエントに成長していける基盤を築く一助となれば幸いです。
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