規模を縮小して関係密度を上げ、回数を増やす
小島:おもしろい取り組みですね。「よなよな 月の道楽座」は、どんなことを考えながら設計されたのでしょうか。
原:「超宴」など、それぞれのイベントが持っていた良さを因数分解して、その要素をオンラインに実装しようとしてきました。

イベントの一番の目的は、発信やおすすめをしてくれる人を増やすことです。オンラインでは対面より丁寧に情報を渡します。また、双方向になるよう、ブレイクアウトルームを活用して参加者同士の交流を促したり、司会が積極的に参加者に話を振ったりと、基本的なことを積み重ねています。
小島:参加人数を評価指標とする考え方もあります。イベントの規模を1万人から100人に落とすことについて、社内での合意形成をどのように行ったのですか?
原:「おうち超宴」では、対面と同じ“圧倒的な満足”を提供できなかった旨を、数字で示しました。その上で、オンラインの特性を踏まえ、本来の目標を達成する方策を説明しました。具体的には、大規模イベントを小分けにして、人数を絞り双方向性を高めることでロイヤルティを上げ、1回あたりの人数が少なくなる分、回数を増やして全体の人数規模をカバーする、という方針です。
他にも、YouTubeやポッドキャストのような配信コンテンツも展開しています。音声なら聞きながら他のことができる利点もあります。
小島:おもしろいですね。既に世界観を共有できているファンであれば特に、音だけでも情緒的なつながりを強化できると思います。
最後に、オンライン時代のコミュニティの役割についてお聞かせ下さい。オンラインに移行するとECやライブコマースとの相性が良くなります。ですが私は常々、「コミュニティとは、お客様を束ねて声を増幅させ、広く届くようにする仕掛けである」と言っていて、コミュニティに売り込んでしまうと、それ以上の広がりがなくなり、望ましくないと考えています。原さんは、どのようにお考えですか?
原:確かにオンライン化したことでイベント参加とECがつなげやすくなり、当社でも実際にデータ分析は行っています。ただ、コミュニティは参加者に購買させる直接のはたらきかけとは別物です。売り込むのではなく、満足してもらい、他の人にお勧めしてもらう。結果として、間接的に購買行動につながるものと考えます。
そして繰り返しになりますが、満足度という数字だけを追っても意味がないと思います。たとえばファンイベントを無料で飲み放題にすれば満足度は上がるでしょうが、会社や製品を愛し人に勧めるファンにはならないかもしれません。「好き」を刺激し、何かしらの体験を持ち帰ってもらうといった、本質的な満足を追求すべきだと思います。
まだいろいろなやり方があるはずです。これからも試行錯誤を重ねながら、ファンの方々にとって最適なものを見つけていきたいと考えています。
小島:今日はありがとうございました。