飲食業界からアプローチ開始。業界選定の理由は“パッション”!?
とはいえ、当初はプロダクトも完成していない状態の中で「思想やコンセプト」に対して共感してもらい、導入を決めてもらわなければならない。ただでさえリソースに限りもあるため、「どの業界からアプローチしていくか」は重要な論点だ。極めてロジカルに領域選定をしていきそうな印象もあるが、タイミーが最初の市場に「飲食業界」を選んだのはもっとエモーショナルな理由からだった。
「営業部長だったメンバーがとにかく飲食業界に思い入れがあり、営業戦略を考えるにあたっても業界に貢献したいという熱量がすごかった。僕自身も飲食店でのアルバイト経験があって手応えがあったというのもありますが、プロダクトもない状態においては中核メンバーが最もパッションを持って、熱く語れる業界であることが何よりも大事だと思ったんです」(小川氏)
当初からサービスのコアバリューを「面接応募がなくて今すぐ働けること」と決めていたため、アプリの開発もそれを体現すべく進めていった。Uberのように案件をタップすればすぐに働ける、勤務後はスピーディーにお金が振り込まれるといったかたちだ。
それに合わせて、企業側に必要な要素も検討していく。企業が案件を投稿してもらうことがスタートになるので、まずは少しでも投稿しやすい画面設計になるように試行錯誤を重ねた。一方で必ずしも「来てくれるのは誰でもいい」というわけではないので、条件を提示できるようにもした。
そこからは実際に企業側にも触ってもらいながら随時アップデートを加える。たとえば試しに求人を出してみると「募集時に持ち物を記載しておいた方が良い」ことがわかったので、すぐに項目を加えた。
企業側の協力を得る上では、まずは創業メンバー自身が現場で実際に働くことで信頼関係を構築していったそうだ。ユーザーが“ドタキャン”して働き手が足りなくなれば、創業メンバー自ら穴埋めとして急遽代わりを務めることもあった。
(左から)SPROUND Community Manager/DNX Ventures Investment VP 田中佑馬氏、
タイミー 代表取締役 小川嶺氏、
才流 代表取締役 栗原 康太氏、
DNX Ventures Industrial Partner 稲田 雅彦氏
初期の成功体験を作ることがPMFにもつながる
コンシューマーと企業、双方の課題を聞きながらプロダクトを作り上げ、ローンチ3ヵ月後には数十店舗を展開するとある企業が、タイミーの全社導入を決定する。つまり、小川氏が考えていたPMFを達成したわけだ。泥臭い施策を地道に積み重ねていった結果ではあるものの、小川氏自身は「気が付いたらPMFを達成していた感覚に近い」という。
それでも、当時を振り返ってもらうといくつかのポイントがあった。まず、初期のクライアントとユーザーに成功体験を提供できるか否かは、PMFを達成できるかどうかに直結する。そのような考えがあったからこそ、最初から彼らの成功に寄り添うことをタイミーでは意識的にやってきたという。
「ユーザーがどのようなペインを抱えていて、自分たちがどのようなソリューションを提供し、それに対する満足度はどうだったのか。最初はこの3つをひたすら考えれば良いと思っていますし、タイミーでもそこに集中しました」(小川氏)
ほかにも、タイミーの開発陣やサポートメンバーはユーザーとなる現場の店長に寄り添った。オペレーションが複雑で活用が進まなければ、その一部をタイミー側で巻き取ることもしながら「現場が使いこなせる状態」を整えていった。
また、初期にタイミーを経由して応募した働き手の評判が良かったことが、プロダクトへの信頼・リピートにつながった。プロダクトのリリース直後、小川氏は自身が運営していた学生コミュニティの数百名のメンバーに、ユーザーになってほしいと呼びかけていた。当時はそれほど意識していなかったが、このことが働き手の質の担保につながり、初期の成功体験を作るのに一役買っていたようだ。
「タイミーが人手不足の時代に生まれたことも(PMFにおいては)大きかった。もし違う時代だったら『わざわざそんなことをしなくても、ビラを貼っていれば人が来るから』と相手にされなかったと思います」(小川氏)
このように、人手不足という企業側の課題に対して「潜在的な労働力を掘り起こす」という観点から、新たな解決策を提示することで成長を続けたタイミー。しかし新型コロナウイルス感染症の影響で、その前提も変わることになる。
