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来たれ!デジタルマーケター、音楽業界の現状と課題

ファンを作りたい企業・長く音楽活動を続けたいアーティスト、両者を繋ぐマーケターの役割とは?

あらゆるもののデジタル化が進み、ヒット曲が生まれる着火点も以前のテレビや雑誌からSNSやストリーミングサービスへと移行している。当然、企業とアーティストのタイアップのかたちも変化が必要だ。そのために考えるべきことは何か?音楽プロデューサー 山口哲一氏と、トライバルメディアハウスの高野修平氏が探った。

音楽マーケ、10年の変化とは

山口:トライバルメディアハウスのModern Ageといえば、音楽をはじめとしたエンタメ×マーケティングを代表する存在です。高野さんが音楽マーケティングを始めた経緯は何ですか?

高野:元々弊社に入社した理由はソーシャルメディアマーケティングがしたかったからです。

株式会社トライバルメディアハウス Modern Age事業部 事業部長/レーベルヘッドエグゼクティブ クリエイティブディレクター 高野修平氏
株式会社トライバルメディアハウス Modern Age事業部 事業部長/レーベルヘッドエグゼクティブ クリエイティブディレクター 高野修平氏

 音楽マーケティングを始めるきっかけは、入社と同時(10年ほど前)にブログを始めたことです。当時CDが売れないという噂を聞いて、それは困ると思ったんです。人生の大変な時に音楽が私を救ってくれたので、その音楽が聴かれないとか、アーティストに売上が還元されないとか、そういうことが、一個人としてとても嫌だったんです。

 そこで、当時音楽業界の知識もない・知り合いもいない状態ながら、音楽×ソーシャルメディアマーケティングをテーマにブログを書き始めました。ありがたいことに音楽業界の方々に読んでいただき、少しずつ相談を受けるようになり、数が増えてきたので事業化しました。

 私が事業部長を務めるマーケティングレーベル「Modern Age」は現在、二つの支援をしています。一つが、音楽やエンターテイメントにゆかりがない企業に対して、エンターテインメントを活用したマーケティングの支援。もう一つが、音楽やテレビ、漫画など広義のエンターテインメント業界へのマーケティング支援です。

山口:僕が高野さんの存在を知ったのがそのブログでした。Twitterで記事を紹介したらDMをもらって、会ってから10年経つんですね。直接コミュニケーションをとるようになって、一緒に本(『ソーシャル時代に音楽を“売る"7つの戦略』)を書いて出版したりしました。以前に比べて音楽マーケティングという言葉が広がった気がします。

 そんな高野さんから見て、10年で音楽業界や音楽をブランディングに使いたい企業にはどのような変化がありましたか?

高野:ブランド企業については、業種や業態関係なく、マーケティングという大きなくくりの中で当たり前にマスメディアやデジタルの施策が組み込まれるようになりました。以前は予算に余りが出たからWebやデジタルに使うケースが多かったのですが、もう過去の話。「何のためにそれをやるか」という目的と手段が明確になってきているケースが多いように感じます。

山口:その中で企業とアーティストがどうコラボしてビジネスを展開していくかが、これからの課題ですね。マスメディアだけの時代は、アーティストと企業は間に大手広告代理店がいてレコード会社があって、事務所があって……と、非常に遠い関係にありました。たくさんの会社が関わる規模の大きなビジネス、テレビCMの大型タイアップなど大きな案件に限られていました。

 企業と音楽にはもっと、デジタルサービスを活用した多様な関わり方が可能だと思うんです。CMに限らない規模の楽曲タイアップだったり、アーティストの持っている本質的な価値と、ブランドが共鳴して新しい価値を作り出したり。

高野:そうですね。ブランドマーケティングとエンターテインメントの架け橋になると言うと偉そうですが、その役割を私たちも担いたいと思っています。

山口:(広告主サイドの)音楽タイアップに対する期待も変化しているのですか?

高野:変化していると思います。この10年で企業は「どれだけブランドのファンを作れるか」「愛してもらえるか」「一番に想起してもらえるか」という意識が強くなりました。コモディティ化が進んで商品では差別化をはかれない今、「これがいい」と思ってもらうために各社が必死です。

 この課題に対して、エンターテインメントと組みたいという声が確実に増えてきています。特にデジタルコミュニケーションにおいては顕著ですね。

山口:そのニーズに気づいている音楽ビジネス側の人間が少ないんですよね。どうしても、マスメディア前提の発想が根本にあるから、「それGRPいくつ?」みたいなことを聞いてしまう。視聴率や露出量を気にしてしまうんです。

 今は『プロセスエコノミー』という書籍もあるように、企業の多額の媒体費で露出量を得るのではなく、両者の考え方や哲学の共通点に基づいたコラボレーションや、ユーザーがきちんとストーリーを感じられるタイアップが必要だと思います。

 欧米では良質のタイアップが多いように感じるのですが、レコード会社の宣伝部からブランドの広告マーケターに転職したり、その逆だったりという例も珍しくないんです。日本でもそういう人材交流があると意識も変わってくると思います。

アーティスト起用の基準は「みんなに人気」ではない

山口:ブランドとアーティストが有機的なコミュニケーションをとっていくために、タイアップはサービス化やプラットフォーム化していくべきだと考えています。しかし今は、アーティストと企業が分断されていますから、成功事例を小さく積み重ねていくことが大切な段階だと思います。

音楽プロデューサー/エンターテック・エバンジェリスト/Studio ENTRE 代表 山口哲一氏
音楽プロデューサー/エンターテック・エバンジェリスト/Studio ENTRE 代表 山口哲一氏

高野:そのためには成功事例の定義付けも重要だと思います。ブランドにおける成功と音楽の成功は定義が違いますから。

 例えば、企業のブランディングを目的にした場合、単発では爆発的な効果は出にくいんです。ですから、数年にわたってタッグを組む必要があります。

 時間はかかりますが、うまくできればブランドリフト調査でしっかり良い結果が出ます。これは、企業にとっては大成功です。一方、各アーティストにとって何を成功と捉えるか、は個別最適化かなと思います。

山口:タイアップをアーティスト側がどう活かすかですね。例えば、普段リーチできない人に知ってもらって、好きになってもらうことは大切ですから。

高野:そうですね。ネクストブレイクのアーティストだったら、大手企業と仕事をしたという実績もメリットにはなると思います。もちろん、シンプルにお金をもらいながら、企業のお金でプロモーションが打てるということもあります。

 ただ、企業のブランディングの視点でアーティスト起用を考えると、従来のインフルエンサーマーケティングみたいにフォロワーが多いから、人気があるからだけでは駄目なんです。アーティストのファンも「ハイハイお仕事ね」と冷めてしまう。心を揺さぶる仕掛けが必要です。

 例えば、KPIに動画の再生回数を含めた施策を数組のバンドと実施する際にも、私達はあえて人気度や知名度ではなく、そのプロジェクトに合致するアーティストを入れます。動画再生数に対する彼らの影響力は高くはありませんが、それでいいんです。アーティストの並びで見た時に音楽ファンが「このメンツにあえて?」とか「この会社わかってんじゃん」という気持ちを抱いてくれる。つまり、文脈設計です。この文脈設計がないとうまくいきません。

山口:フェス文化に馴染みがある音楽ファンは、アーティストの並びから何かを感じ取ってくれますよね。

高野:そうですね。だから、万人に人気があるアーティストだから企業とタイアップできるという考え自体も変えていきたいと思っています。

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この記事の著者

伊藤 桃子(編集部)(イトウモモコ)

MarkeZine編集部員です。2013年までは書籍の編集をしていました。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

山口 哲一(ヤマグチ ノリカズ)

音楽プロデューサー/エンターテック・エバンジェリスト/大阪音大特任教授/iU超客員教授 エンターテック分野で起業家育成と新規事業創出を行うスタートアップスタジオStudioENTRE代表。日本音楽制作者連盟理事、「デジタルコンテンツ白書」(経産省)編集委員などを歴任、コンテンツビジネスに提言を行う。 プロ...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/08/27 07:00 https://markezine.jp/article/detail/36962

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