人材育成に、回り道はない
──本連載では、多くのマーケターのキャリアを聞いてきました。やりがいを感じる仕事である一方、マーケターの人材不足も課題に挙がっています。久保田さんが、マネジメントや人材育成で心がけていたことを教えてください。
人は、育てるしかありません。やる気がある人材を採用して、経験を積ませるんです。中途採用もできなくはないですが、それができる環境は相当恵まれています。小さいブランドやスタートアップは応募が少ない分採用も難しいですから、今いる人材をマーケターとしてどう成長させていくかを考えたほうがいいでしょう。
それは、どこかで研修を受けさせるとかではなく、実際の仕事の中で、細かく指導して、何を教えるかということ。私もたくさんのキャリア相談にのってきましたが、若い人の悩みって、だいたい3つくらいに分かれるんです。「偉くなりたい」「次に何をやったらいいかわからない」「今の仕事がうまくいってない」の3つ。偉くなりたい人には、その方法を教えましたし、次のキャリアを迷っている人には、過去を棚卸しして、スキルが広がるポジションをアドバイスしてきました。そして、仕事がうまくいっていない人には、ハンズオンで教えます。
また、一人ひとりをちゃんと見ることも大切にしていました。たとえ悪い評価になったときも、「いつも見てくれている上司が言うならそうだろう、頑張ろう」と思えるくらいの信頼関係を築く、インタラクションは取ろうと考えていました。その甲斐あってかはわかりませんが、僕の自慢のひとつに、元部下たちとの付き合いが今も続いていることがあります。信頼できる人たちが周りにたくさんいることは、すごくありがたいし、財産です。
マーケターに必要なことは、好奇心と学ぶ姿勢。新しいことをやるためには、「知らない」状態の自分を素直に認めて、実行するしかありません。それは悪いことではないし、絶対に通る道。そして、やりたい仕事やポジションがあったら、口に出して言うことです。僕もガツガツ言うタイプでしたし、今は理想とは違う環境にいたとしても、自分のやりたい仕事をやっている部署や人の周りをウロウロして存在感を出すことは、とても大事ではないでしょうか。

変化を前提とする働き方に挑む
──「マーケターの新しい働き方に挑戦中」とうかがいました。これから、どんなことに挑戦したいですか。
マーケティングに困っている企業やブランドの成長を少しでも助けられたら、楽しいなと思います。マーケターの働き方は、ブランドや企業のマーケティング部、広告代理店に在籍が一般的です。もしくは、起業してストラテジーを立てるコンサルタントのような関わり方でしょうか。僕は、自分自身を「流し」のCMOと呼んでいます。ちょっと手伝ってもらいたいとか、経験のある人をアサインしたいと思っても、まだまだ優秀な人の人材流動性は低いし、副業ができないなど難しい。そもそも、良い制作会社やPRエージェンシーなどを知らない、ネットワークがない企業も珍しくありません。僕は、そういったところへ必要なときに出かけていきます。
自分のクリエイティブブティックで制作もできるし、企業側に立って代理店をアサインすることもあるし、上司の代わりになってマネジメントも行います。そして、問題を解決したら卒業していく。代理店はクライアントと長く付き合うことを前提としたビジネスモデルですが、僕は流しなので、歌い終わったら次のテーブルへ行きたいんです。独立当初は、戦略アドバイザーをやろうと考えていましたが、クライアントからは、その先の実務のニーズも高かったんですよね。そこに気づいてあれこれ取り組んでいたら、今の仕事スタイルができました。だから、これから先も自分の働き方はどんどん変わっていくのではないかなと思っています。