テレビの使われ方のこれから
本稿では、スマートテレビでのアプリ視聴の普及とアプリ視聴量の増加が放送の視聴に与える影響を見てきました。アプリの視聴は既にスマートテレビの利用時間の約20%にまで達しています。またスマートテレビのさらなる普及やユーザービリティの進化、スマートテレビ向けのアプリの増加など、様々な要因によってスマートテレビでのアプリの視聴は今後さらに普及していくと考えられます。テレビ番組を制作、放送する放送局はもちろん、テレビ番組に広告を出稿する広告主、そこに関わる広告代理店など、テレビに関わる様々なプレーヤーは急速に進むメディア視聴環境の変化に先回りして対応していく必要があるでしょう。これまでは主にPCやスマホ向けに事業を行ってきた動画配信領域のプレーヤーから見れば、メディア視聴環境の変化は自社の事業をテレビというデバイスに拡張するチャンスでもあります。
では、今後テレビでのアプリの視聴がさらに普及することで生活者のテレビの使い方はどのように変わっていくのでしょうか。本稿の分析から、アプリの視聴量の増加が放送の視聴に与える影響は、アプリの種類や番組ジャンルごとに異なっていることがわかりました。様々なジャンルの動画が投稿される動画共有サービスは幅広い番組ジャンルの視聴を代替していることが示唆された一方で、SVODサービスの視聴が与える影響はドラマ・映画に限定されていました。アプリ視聴の普及によるテレビの使われ方の変化は、これから生活者がスマートテレビでどのようなサービスを利用するようになるか次第であることが見えてきたと言えるでしょう。
“お気に入りの番組を見る”、“他者と話題を共有する”、“時計の代わり”など、生活者がテレビを利用する目的には様々なものがあると考えられます。今後さらにスマートテレビでのアプリ視聴が普及していく過程では、これまで主に放送が満たしてきたこれらの目的の一部が様々なアプリによって代替されていくでしょう。スマートテレビでのアプリは必ずしも動画配信サービスだけではありませんから、新しいアプリはこれまではなかった全く新しいテレビの使い方を普及させるかもしれません。
テレビに関わる様々なプレーヤーがこのような環境変化に先回りして対応していくためには、今後スマートテレビでどのようなアプリや機能が普及するのかを注視しながら、それがテレビの使い方にどのような影響を与えるかを考えていくことが重要になるでしょう。本稿の分析がその一助になれば幸いです。
※1 出典:IXT2021年 スマートテレビ利用実態調査結果
※2 出典:MediaGauge®TV 複数のテレビメーカーから収集した、ネットに結線されたスマートテレビ約299万台(2021年8月時点)の視聴ログをクレンジングし、統一フォーマットで標準化・構造化した視聴データ。マーケティング利用許諾を得て、匿名化されているもので、どのテレビで、いつ、どんな操作がされていたかがわかります。
※3 接触率「その時間にテレビ番組/アプリを視聴していた機器の台数」/「集計対象となる機器の台数」で算出
