複雑化し価格でしか差別化できない。ホテル業界の課題はなぜ生まれたか?
ここで佳路氏は、ホテルの業界構造について解説を進める。長らくホテル経営は、所有者(オーナー)や出資者が、管理会社に運営を委託する二者間契約に基づいていた。オーナーが投資して施設を開発し、運営会社には競合他社との取り引きを禁止する取り決めを行う。供給側として力を持つオーナー、出資者によって消費者が覚えられないほど無数に増えたホテルブランドは、価格でしか差別できないコモディティと化した。
そこに2008年、リーマンショックが襲い掛かりホテルは経営の危機に瀕する中、運営会社のみが体力を温存。そこでホテルオーナー達は、負荷軽減のために運営委託費が安い第三者(サードパーティーオペレーター)へのフランチャイズ契約に切り替え始めた。
しかし、増えすぎたホテルブランドの中で、サードパーティオペレーターも客室の稼働を増やせない。そこにすかさずオンライン予約サイトのOTA(オンライントラベルエージェント)が台頭。エクスペディア、トリップアドバイザー、ブッキングドットコムといった、実際の宿泊客の口コミ、最安値など旅行者が求める情報を提供して予約を取るOTAが、ホテルと旅行者との接点になった。結果、ホテルブランドはますます消費者とのつながりが希薄になりコモディティ化が加速した。
「この20年、ホテルは顧客との関係構築を怠ったがために、自らOTA市場を作った」と佳路氏は厳しく指摘する。この状況にアプローチするための新ブランドが、BEBという訳だ。
BEBが狙う今の20代は、旅行そのものに興味がないだけでなく、目的地に行くことよりも誰と居るかを重視する。また「客室内への飲食持ち込みは原則お断り」といった縛りを好まない。せっかく泊まるのなら部屋で好きな人と楽しく飲み食べしたい、と考える若者は、バッグの中に隠してこっそり客室に持ち込む。これでは、宿泊客とホテルの信頼関係など存在しないも同じだ。
さらには調査の結果、20代はホテル業界で一般的な季節変動型の価格、ダイナミックプライシングにネガティブな感情をもつことがわかった。オーナーや投資家の都合や常識は通じないということだ。そこでBEBでは、通年同じ価格で、堅苦しい決まりを撤廃した宿泊サービスを提供している。2019年2月にオープンしたBEB5軽井沢は狙った20代に受け入れられ順調に宿泊客が増え、OTAを介さない直接予約で埋まっている。これこそ、顧客とホテルが結びついた成功事例と言えるだろう。
ホテル業界が注目しない20代の顧客に佳路氏が働きかける理由は、これから10年、20年後の市場創造のためだ。1914年創業の温泉旅館に始まり4代続くファミリービジネスならではの、将来に向けた長期的視点と言えるかもしれない。
