多彩なECの出口を分類・系統化して筋道を立てよ
望月:次は、大手メーカーでEC拡大をする上でのマルチチャネルの扱い方と成長のポイントをお願いします。
生井:一口にECと言っても、その出口は多様化していると思います。大きく分けると自社ECとモール型ECプラットフォームの2つですが、ECモールには楽天やヤフーだけでなく、docomoなどの携帯キャリア系やZOZOTOWNなどのカテゴリーに特化した新勢力もあります。Amazonはリテールもあれば出店型セラーもあります。さらに、モール活用の際は直販と卸の2種類があります。これらの整理をした上で、出ていくべき場所を考える必要があります。

望月:花王さんとしては、自社ECでのD2Cだけでなく、ECモールも含めて運用するスタンスなのですね。新商品を出す時のチャネルの選択方法はどのように行っていますか。
生井:事業計画の視点もありますし、ブランドが考えるターゲットがそのモールにいるかという視点もあります。それにより自社ECとモールの同時出店のパターンも、自社から始めるパターンも、いろいろな組み合わせが考えられます。ブランド力があれば卸モデルから、ブランドを最初から立ち上げるならモールの直販からですね。モール型に出るなら、たとえば楽天の中の旗艦店を本店とするのも1つの手です。

望月:大手メーカーさんで認知度があり、お客様もいれば、出口の問題よりも配送費や単価、もしくは梱包の仕方などによって絶妙にコントロールされるのでしょうね。
花王さんはすでに認知があるので、卸モデルである程度、効率よく届けられますね。
生井:基本はその考え方ですが、やはりマス商品だけですと取れない需要があります。最近はミドルニッチと呼んでいて、個別課題やニーズにお応えするブランドも作っていく方針があります。それは卸モデルより直販のモールのほうがいいかなと。市場も結構細分化されてきているのを感じています。
また、当社はテレビCMへの露出も多いので、マス広告媒体のペイドメディアとSNSなどのアーンドメディアは統一感をもった運用が理想だと考えています。ECモールの販促広告や口コミも、「ショッパーメディア」という新たなメディアとして捉えています。ファネル全体のマネジメントをしっかりしながら、メディアミックスを考えた顧客へのアプローチをするのが効率的なECマーケティングです。
拡大へのポイントは需要の創出と発見
望月:最後に、ECでこれから重要になると思うことをお伺いできますか。
伊藤:我々のようなスタートアップ企業は、マスで捉えきれないニッチなところを狙って、濃いファンをいかにしっかり獲得するかがとても重要です。その一方で、顧客がニッチ層だからこそ、その総数のスケール感に悩みもあります。
我々の場合、毎日湯船に浸かり入浴剤を使う方がどこまでいらっしゃるのか。サブスクは、ある程度事業が拡大しないとビジネスとして成立しないので、そこはかなり重要だと考えています。
生井:私どもが挑戦すべきことは、リテンションビジネスにどう変革できるかです。獲得した顧客を、どんな施策で複数回購入にもっていくのか。ECならではの施策があると思います。サブスクもCRMも含めて、指標も売上シェアだけでなくLTVも新しいKPIに加えていく観点をもつことが重要かと思います。
以前コンビニエンスストアの担当をしていた際に、入浴剤コーナーを提案したことがありました。疲れの出る夕方はやはりとても売れました。たとえばそれが普段使い用にECで購入するサイクルができるとおもしろいので、トライアルの場にリアルをうまく使うと市場が拡大するのではと思います。
望月:拡大時には、需要を「作り出す」ことと「発見する」ことが大切。どういうお客様がそのシーンにいるのかがポイントですね。
D2Cは狭くニッチに、まずマーケットに行くのが王道です。資金力だけがすべてではないので、実際に大手と中小が勝負をしています。それぞれの良さを活かして切磋琢磨することが大切ですね。