※本記事は、2021年10月25日刊行の定期誌『MarkeZine』70号に掲載したものです。
ITの“コスト扱い”は世界中で日本だけ
富士通株式会社 執行役員常務 CIO 兼 CDXO補佐
福田譲(ふくだ・ゆずる)氏1997年SAPジャパン入社、23年間勤務、2014〜2020年の約6年間、代表取締役社長。2020年4月、富士通に入社、CDXOを兼務する社長を補佐し、同社自身のDX、およびCIOとして社内ITの責任者、日本型DXの探索・実践とフレームワーク化に取り組んでいる。「日本を、世界をもっと元気に」がパーパス。
――福田さんは、外資系ベンダーのSAPを経て、パンデミックのさなかの2020年4月に富士通に参画されました。まず、入社の背景をうかがえますか?
それまで私は、外部のパートナーの立場から様々な日本企業の経営・業務・ITの変革に関わってきました。その過程で、日本企業が抱える様々な構造的な課題を数多く見てきました。SAPはグローバルのほとんどの大手企業が導入していることから、海外企業の取り組みを知る機会が多く、日本企業と海外企業のITや経営改革への取り組みの違いがよく見えました。
SAPは、業務改革、経営改革、そしてIT改革の武器として導入されることが多いため、企業のトップや経営者とお会いする機会が多くありました。ITやデジタルは物事を変える際の強力な武器であり、世界を見れば変革のために戦略的な活用がどんどん進んでいるのに、世界中で日本だけが「ITはコスト」だと見なされているのを、本当にもったいないと思いました。
富士通とは長年、パートナーとして、そして顧客として付き合いがありました。ICTでは日本でトップの会社なのに、やはり多くの日本企業と同じように、根本的に経営を変革する難しさに直面しているように見えました。
富士通からのオファーを聞いたときには青天の霹靂でしたが、話を聞くにつれ、経営陣の真剣さがわかりました。よく考えれば「日本を、世界を、もっと元気に!」という私のパーパスにも合致している。典型的な日本の大企業である富士通が変わることができれば、他の日本企業にも、大いに参考になります。そして、国内トップの富士通の事業基盤・顧客基盤を通じて、広く日本中に、そして世界に広げることができるかもしれない。SAPには23年勤めていて、転職しようと思っていたわけではありませんでしたが、自然に自分の気持ちが固まっていきました。
――いざ入られたら、富士通を含め、世の中の働き方も大きく変わっていたと思います。想定と違ったところは?
コロナ禍での入社は、プラスとマイナス、両方の“想定外”がありました。マイナス面は、皆さんと飲みに行くのを楽しみにしていたのですが、行けなかったこと(笑)。早々にリモートワークを導入していて、入社初日にはオフィスには誰もいませんでした。ただ、総じてプラスでした。変わらざるを得ない状況になったからです。
日本には全体的に「変わりにくい」傾向がありますよね。小学校の頃から「正解」を徹底的に暗記するような、正解がある前提で私たちの考え方やカルチャーはできあがっています。私の親の世代はそれで急成長を遂げましたが、私の世代では「失われた30年」といわれ、社会もビジネスも、結果的には停滞が長く続いています。人口減少だって、私が小学生の頃から教科書に載っていて、起こることはわかりきっているのに、いまだに有効な少子化対策を打ち出せていません。
コロナ禍による非日常は、私たちの働き方を否応なしに変えたわけですが、新しい働き方に合わせて、オフィスの在り方、働き方をはじめ、変化を一気に前倒しする絶好のチャンスになりました。