「働く世界に力を与える」が企業理念
MarkeZine編集部(以下、MZ):まずは、皆様のご経歴と現在のミッションについてお教えください。
高木:私は1996年にマンパワーグループへ新卒入社し、派遣業務や支店の新規立ち上げに従事した後、マーケティングの課長職に就いていました。
高木:課長時代に企業ロゴのリブランディングへ携わり、テレビCMを担当しました。その後は一度現場に戻り、2016年から現在に至るまでマーケティング本部を統括する立場にいます。
マンパワーグループは、実は日本で一番歴史のある人材派遣会社なんです。50年以上もの間、人材派遣をはじめ人材紹介や再就職支援など、あらゆる人材サービスを提供しています。「働く世界に力を与える」という企業理念のもと、求職者の方々に提供できる価値を社員一人ひとりが考え続けている組織です。
三橋:私はメディア企業で広告代理店やクライアントの媒体営業として広告に関わりました。その後はIT企業でマーケティング部門に数年間在籍し、マンパワーグループに入社したのは2019年です。現在は高木のチームで、求職者を対象としたリクルーティング領域のマーケティング活動に携わっています。
大沢:私は1997年にクリエイティブ志望でADKへ入社しました。最初は営業部配属でしたが、試験を経て6年目にクリエイティブ部門へ転局。以来20年ほどCMプランナーやクリエイティブディレクターとして、クライアントの広告案件をサポートしています。
「マンパワー」という言葉から社名を第一想起させたい
MZ:マンパワーグループでは、認知系の施策を10年以上実施されてこなかったそうですね。このタイミングでキャンペーンに着手された理由や背景についてお聞かせください。
高木:背景には、人材業界に衝撃を与えた2つの出来事があります。まずはリーマンショックです。一気に雇用が失われたことで、業界の形が大きく変わりました。
次にコロナ禍です。テレワークが普及したことで、今度は働き方が大きく変わりました。人材派遣事業においても、派遣する“場所”があってビジネスが成立するという前提は見直されていくでしょう。
このような社会背景とは別に、企業としての課題も。「コロナ禍で医療業界のマンパワーが足りない」といった表現をよく耳にする一方、マンパワーグループという社名はあまり知られていませんでした。
人材業界の変革期において我々の存在自体を知ってもらわないことには「働く世界に力を与える」という弊社のビジョンを実現できないのではないかと考え、キャンペーンの実施に踏み切りました。
地方支店と連携しながら媒体を選定し、WebとDOOHで露出
MZ:抱えていた課題の解決に向け、どのような戦略に基づいてキャンペーンを設計されていったのでしょうか。
三橋:通常期はBtoB(企業向け)とBtoC(求職者向け)いずれの場合も、リスティングなど刈り取り系の広告をメインに実施しています。今回のキャンペーンでは「リスティングのボリュームを減らさずに認知系の施策を行うことで、ターゲットとなる層の母数を最大化できるのではないか」という仮説を立てました。
高木:キャンペーンの1番の目的は、マンパワーグループという社名をより多くの方に知ってもらうことです。マンパワーを必要としている企業の管理職、層的にはM2がコアターゲットでしたが、露出による副次的な効果でF1~F1.5層の求職者の方からの認知獲得も想定していました。
三橋:YouTubeやYahoo!の純広告、SNSなど、大多数の方にリーチできる媒体を選定しつつ、+αとしてタクシーアドや駅ナカ広告、電車広告など、コアターゲットである企業向けのDOOHコミュニケーションも実施しました。比率としては、WebとDOOHが半々くらいですね。
また今回は「マーケティング部門が現場の声をきちんと吸い上げてプロモーションに反映する」というミッションも掲げていたので、プランニングの段階から地方支店のメンバーと連携し、地元で効果が見込める媒体を選定しました。
高木:人材業界は地方によって売上のシェアに大きなばらつきがあり、東京ではそれなりの知名度を持っている企業でも、地方では地場の強い会社にシェアを奪われている。要は戦国時代のようなマーケットなんです。そのため、現地の競合やマーケットをよく知る支店の知恵を借りる戦略で臨みました。
遊び心のある話法に伝統的な手法を掛け合わせたクリエイティブ
MZ:クリエイティブディレクターを務められた大沢さんから、今回のクリエイティブに込めたねらいをお聞かせください。
大沢:クリエイティブの制作において「手法」は当然大事ですが、今回のキャンペーンでは手法だけではなく「話法」にもこだわって提案しました。
サービスや商品にまだあまり優位性のないクライアントの場合は、とにかく社名認知の向上が最優先です。しかし、マンパワーグループのポテンシャルを考えると、質を重視した認知の獲得を目指すべきではないかと考えたんです。
マンパワーグループには、先ほど高木さんがおっしゃっていた「働く世界に力を与える」以外にも「People First」という言葉があると伺いました。このスローガンを体現する役割として用意したのが、土屋太鳳さんの演じる「マンパワー・ウーマン」というキャラクターです。
大沢:「遅くまで残業している部長さんの心の内は『冷蔵庫のプリンが食べたい』だというところまで分かっていますよ」と、話法では少しふざけながら「ターゲットが抱える課題や必要なソリューションを、マンパワーグループはすべて把握しています」というメッセージを込めました。
こうした話法に土屋太鳳さんが持つタレントとしての魅力や、歌い込みなどの手法を掛け合わせることで、ターゲットの耳と心に印象が残るクリエイティブになったと思います。
MZ:コミカルで個性的な映像は、広告主にとってチャレンジングなクリエイティブだったとも言えるのではないでしょうか。
高木:最初からチャレンジしたいと考えていたわけではないですが、大沢さんたちのプレゼンの熱量に経営陣が感化され、「やるなら徹底的にやろう」という方向に進みました。
初動の視聴完了率は40%! 指名検索経由のCVが約2倍に
MZ:今回のキャンペーンによって、具体的にどのような成果が得られましたか。
三橋:2021年9月6日(月)から9月末までの短いキャンペーン期間で、YouTubeの視聴回数は約1,900万回、タクシーアドの再生回数は1,520万回にものぼりました。事前のインナーKPIとして、YouTubeの再生回数はミニマムで「1,000万回」を掲げていたため、想定以上の数値と言えます。
三橋:また、コーポレートサイトのトラフィックも3倍ほど増加。ビジネスKPIとして掲げていた「ターゲットの指名検索経由でのCV最大化」についても2倍近く向上し、成果としては上々です。
動画の視聴完了率が高かった点も印象的でしたね。初動1週間の視聴完了率は40%以上で、最終的な値も30%後半と高い結果が見られました。動画の面白さに引き込まれ、連続して観てくださった方が多かったのだと思います。
MZ:認知獲得を目的としたキャンペーンにおいて、クリエイティブ面で重視すべきポイントはどこにあると思われますか。
大沢:企業の規模や置かれている状況に応じた最適化が前提にはなりますが、クライアントの資産である“ブランド”をどう活かすのかが重要だと考えています。たとえば、マンパワーグループは日本の人材業界で最も歴史のある老舗です。そういう“のれん”のようなものは絶対に大事にするべきだと思います。
キャンペーンのインパクトだけを追うと、受け手に新興企業のような印象を与えかねません。今回はマンパワーグループが業界の老舗として堂々と目立つために「インパクトとメジャー感の両立」を意識しました。
次のステップは深度の高いコミュニケーションの実現
MZ:最後に、マンパワーグループとしての展望をお教えください。
高木:弊社としては、今回のキャンペーンに大きな手応えを感じています。ただし「単発のキャンペーンが成功したからOK」というわけではありません。認知獲得の施策は継続的に行っていく必要があります。
ADKクリエイティブ・ワンさんとの協業によって、どの媒体を選べば我々の伝えたいメッセージが的確に伝わるかを勉強することができました。この学びを活かし、できれば来年もキャンペーンを実施したいと考えています。
また今回はマンパワーグループの社名認知が目的だったので、今後は事業内容やサービスの質など、マンパワーグループの中身を伝えるメッセージを発信することにより、深いコミュニケーションを実現できるのではないかと考えています。
三橋:キャンペーンの事後、企業側と求職者側の両方にアンケートを行ったところ、企業側の認知向上に大きな効果が見られました。次回は求職者の方々に刺さる映像を作り込んでマンパワーグループを選択肢に入れていただきたいですね。