広告主の予算のうち約50%しか媒体社に届いていない
MarkeZine編集部(以下、MZ):年々デジタル広告費が増えるなか、買い付けの効率化がこれまで以上に求められているように感じます。現状にどのような課題を感じていますか?
粟飯原:まず1つは、広告会社では非常に人手が足りないということです。レポーティングなど様々な作業が増え、仕事がますます忙しくなってきていますよね。デジタルを扱っている現場の方々は負担が非常に大きいですし、その管理をする立場の負担も大きいです。
粟飯原:そこで多くの企業が自社で使用するプラットフォーム、業務的な目線で言えば“管理画面”の数を絞ろう、という動きが出てきています。具体的には、利用するDSPを絞ったり、優先的に取引する媒体社を決めたりといった対策を打ち、負担を減らそうとしています。
また媒体への投資については、A社とB社でCMの内容は違うが媒体の使い方は同じといったように、特定の媒体に投資が集中しており、とても保守的になっている印象も受けます。
山下:SSPの立場から見た課題感の1つとして、オークションの重複があります。
以前は、媒体社ごとにSSPの優先順位が決まっているウォーターフォール型のモデルとなっていて、オークションが大きく重複することはありませんでした。しかし、SSP事業者の間でヘッダービディングが浸透したことで、各事業者が同じような条件で媒体に対して入札ができるような環境が整いました。こうした背景から様々なSSPが同一の媒体社に対し、重複して入札をかけるようになっています。
山下:これにより深刻になったのは、広告費の透明性の欠如です。2020年5月にイギリスの広告業界団体ISBAが、デジタル広告のサプライやコストの構造に関する大々的な調査「ISBA PROGRAMMATIC SUPPLY CHAIN TRANSPARENCY STUDY」を行いました。そのレポートでは、広告主の予算のうち約50%しか媒体社に届いていないことが示されています(出典: ISBA programmatic supply chain transparency study, May 2020)。
その原因は、やはりサプライの構造がかなり複雑になっていること。DSPの配下でも多くのSSPやアドエクスチェンジなどがつながり、サプライヤーが媒体社と様々な契約をしている状況により、広告主の予算が不透明になっています。特に海外では買い付けをシンプルにし、重複を軽減して効率化する目的で、連携するSSPを絞る動きが活発になっています。
SSPがデマンドサイドとも協力する立場に
MZ:そうした広告主・代理店の課題感やSSPを絞る動きがあると、SSP事業者のすべきことやポジション自体にも変化が生まれてくるかと思います。御社ではどのように考えていますか?
粟飯原:ブラックボックスになっている広告予算がしっかりと開示できるように、SSPとしてもエージェンシーや広告主に対して協力するためのサービスを提供するように変わってきています。既に海外ではそのニーズが生まれていますね。
山下:SSPは元々媒体社様向けのサービスであるため、永らく媒体社様に営業活動をしてきましたが、パブマティックではグローバルで2年ほど前から広告会社様向けの営業活動を本格始動しています。
先ほどもお伝えしたヘッダービディングにより、どのSSPからもある程度同じ均一化された状態で買い付けられる状態になってきたことで、バイヤーから見たときのSSPの差別化要因が少なくなってきました。パブマティックの使命はより多くの収益を媒体社様に届けることなので、そうするためにも今後はSSP側もデマンドのニーズを理解して、デマンドのニーズに合った様々なソリューションを展開していくことが求められると考えています。
SSPならではターゲティング広告でより多くのリーチを実現
MZ:なるほど。ではデマンドサイドに向けては具体的にどのようなサービスを展開されているのでしょうか?
山下:パブマティックがバイヤーに対して提供しているソリューションは、大きく3つのカテゴリに分かれています。ターゲティング、在庫のパッケージ化、配信の効率化です。
ターゲティングの分野では2つのソリューションがあり、1つが「AUDIENCE ENCORE」。パブマティックが様々なデータプロバイダー様、媒体社様と直接連携することで新たなターゲティング広告を可能にしています。
従来通りのDSPとデータプロバイダーの連携で精緻なターゲティングをしようとすると、Cookieシンクが増えることでCookieのマッチによって配信できるオーディエンスのボリュームが限られてくるという課題があります。AUDIENCE ENCOREでは、パブマティックとデータプロバイダーが接続することで、そのCookieシンクの回数を減らすことができ、最終的に広告主により多くのリーチを提供できる仕組みとなっています。
またパブマティックでは、SSPとして媒体社様と近い位置におり、密接なコミュニケーションによって、媒体社様の持つ1stPartyデータを活用した精緻なターゲティング広告を提供可能です。
もう1つは、Cookieレスに対応したソリューションです。Firefox、SafariなどのCookieが使えない環境でもターゲティング広告が実現できるように、Cookieレスでターゲティングを有効化できるIDのパートナー様と連携しています。
在庫の徹底的な把握でニーズに合わせた配信を可能に
MZ:在庫のパッケージについてはどのようなものがあるのでしょうか?
山下:パッケージについては様々な広告主様のニーズに合わせながら提供しています。
たとえば「もっと視認率の高い広告を出したい」という要望があった際には、ファーストビューと呼ばれるような、ページを開いて最初に表示される広告枠だけを限定して配信するといったことが可能です。
また、ビューアビリティや完全視聴率の平均値が高い広告枠だけに絞って広告配信することもできます。パブマティックではアドベリフィケーションベンダーとつながっており、それらのベンダーが常に我々の広告在庫のビューアビリティや動画の完全視聴率といった値を計測しているため、こうした配信が可能になっています。
さらに媒体のカテゴリを絞って配信することも可能です。たとえば自動車業界の広告主なら「できるだけ自動車関連のサイトに配信したい」、BtoB企業であれば「こんなビジネスパーソンがいるサイトに配信したい」というニーズに対応し、サイトをしっかり絞り込みます。
DSPでは在庫情報をドメインリストまでしか持てないのが一般的で、サイトのカテゴリだけを絞ってピンポイントで配信するのが困難です。パブマティックでは、どのカテゴリのどのサイトの在庫を持っているかも全て把握しているため、配信先のカスタマイズができます。
山下:効率化のソリューションは2つあります。
1つが「ROI Sync」。パブマティックで配信を学習しながら、広告インプレッションを最適化する仕組みです。DSPがSSPに対して広告入札の情報を送信する際に、ROI、CTR、CPA、ビューアビリティといったパラメーターを追加いただくことで、広告主のKPIに関連するこれらの項目が良い数値となっている媒体社がどこなのかを我々のなかで学習し、その入札がなるべく多くなるように拡張、入札を最適化します。
もう1つは「優先取引契約」です。代理店様との間でパブマティックを優先取引先にしていただくことで、固定料率モデルを提供しています。一般的にSSP事業者のフィーは開示されていません。しかし、優先取引契約を結んだ代理店様に対しては事前に契約書上でフィーを取り決めて配信します。これにより、広告費の透明性の向上や、それをきっかけとした配信の効率化が実現できます。
専任チームによるアドフラウド対策で安心できるプラットフォームに
MZ:具体的なサービス以外で、他のSSP事業者と比べてどのような強みがあるとお考えでしょうか?
粟飯原:まずSSPとしての歴史が長く、独立した資本でニュートラルな立ち位置であることは1つの強みと言えます。
パブマティックでは、グローバルでデータセンターのハウジングサービスを利用し、運用や管理は自社で実施していることも大きな特徴です。これはヘッダービディングによりリクエストが増え、サーバーの負担が非常に大きくなってきているなかで活かされています。
グローバルに拠点があることについてもメリットがあり、ローカルのSSPよりもトレンドへのキャッチアップが速いですし、当然それは商品開発の優位性にもつながっています。各種サービスにおいても同様です。
山下:パブマティックのクライアントにはブランド広告主が多く、安心して使っていただけるプラットフォームとして開発を続けています。
様々な取り組みがありますが、2018年に行ったデマンドに対しての手数料無料化もその1つです。SSPでは媒体社とデマンドの両手持ちといったケースもありますが、我々は媒体社からしか手数料をいただかないことを公にしています。
ブランドセーフティについては、様々なアドベリフィケ―ションベンダーと連携するほか、インベントリのクオリティーに関する社内の独自チームも立ち上げています。日々フラウドや無効なトラフィックが発生していないかを監視し、すぐに検知して除外やブラックリストを更新できる状況を整えています。
そうした努力の甲斐もあり、オンライン広告の標準規格を作っているIABからはGold Standard 2.0を取得しており、アメリカの認証機関のTAGからはフラウド対策の認証を得ています。これもブランド広告主様に安心して使っていただける証拠だと考えています。
海外進出への橋渡し役に――デマンドサイドにも寄り添うSSP
MZ:今後デジタル広告の効率化に取り組む企業に対して、どのような価値を提供したいとお考えでしょうか? 展望を教えてください。
粟飯原:広告主様も代理店様も、デジタル広告に限らずビジネス上の様々な課題を抱えていると思います。我々は基本的にデジタル広告にまつわるSSPのサービスを提供していくのですが、そうした広い課題に対しても一歩進み、真摯に問題解決に取り組んでいきたいと考えています。
またグローバルな拠点を持つ組織であるため、海外進出へのポテンシャルがある日本のブランド様が行動に移す際、我々がその橋渡しのパートナーを担えればという想いもありますね。
山下:デマンドの方々に対しては、SSPとして独自の価値を提供したいです。
現状では、国内の広告主、広告代理店の方々は、DSPや広告の配信プラットフォームと会話をして、そこで施策を考えて最適化するのが一般的。SSPと直接話をして施策を進めている方はあまりいないのではないかと思います。
ただ、我々SSPと話すことでやはり媒体のことをもっと深く理解することができ、より厳選した枠単位の配信や、媒体社とのより良い条件下の配信に向け交渉ができます。広告主の方々にもっとデジタル広告を活用できる環境を提供していきたいですね。
【マンガでカンタン解説】広告主や代理店と「SSP」がパートナーに
本記事でも解説した「SSP」のポジションの変化、デマンドサイドと直接連携することで生まれる広告配信の効率化について、マンガでわかりやすく解説しています。