まずはTikTokの成長フェーズを理解する
MarkeZine編集部(以下、MZ):はじめに、TikTokや動画ビジネスへのかかわりを交えて、お二人の自己紹介をお願いいたします。
森:私はVAZの代表取締役を2020年10月で退任し、2021年4月にTikTok運用に特化したマーケティングエージェンシーPien(ピエン)を設立しました。企業アカウントの運営と広告運用をメイン事業にしています。また現在は、特定の分野で専門性を持って勝負をしてきた方々を専門家インフルエンサーとしてプロデュースしています。
田中:HADO(ハドウ)代表の田中です。当社はTikTokを用いた獲得特化型の運用型広告を強みとしており、EC系の上場企業をメインのお客様として、年間数億円の予算を運用させていただいております。直近では自社のTikTokアカウントのグロースや企業アカウントの運用代行事業にも注力しています。
MZ:「TikTokはダンス動画のプラットフォーム」と思われていたフェーズから変化し、現在は多様なコンテンツがみられるようになっていますね。マーケティング活用の可能性も広がっている一方、どんなコンテンツがユーザーに受け入れられるのかわからず、アカウントやコンテンツの制作で悩むケースも出てきそうです。
森:まず押さえておきたいのは、TikTokに限らずSNSには成長サイクルがあるということです。新しいSNSを使うのは基本的に若い人たちで、彼らはアクティブ率も高いため、最初に若年のユーザーを集めてからエイジアップしていくのが基本になります。
田中:プラットフォームが成熟していく過程では、より購買力のある“大人”のユーザーに使ってもらい、広告単価を上げていくことになります。彼らを集めるためには、マスメディアをはじめとする他のメディアとも、可処分時間の奪い合いをしていかなければいけません。そうすると、エンタメ要素の強いコンテンツだけでなく、大人が満足するコンテンツも必要になってきます。
実際に今どんなコンテンツが伸びているかは、トレンド欄をみればわかります。たとえば#美容(3.5B)#購入品紹介(1.7B)#レシピ検証(340.7M)#ダイエット飯(640.8M)など、ためになるコンテンツが目立つようになっています(2021年12月時点)。
森:つまりByteDanceとしても「ついつい観てしまう」に加えて「ためになる情報を得られる」コンテンツをユーザーに届けることで、年齢層の高いユーザーの滞在時間を延ばそうとしていると考えられます。どのSNSでも一番重要なのは「ユーザーの役に立ちたい」という思いですが、今のTikTokをみていると、本当に、ユーザーに良いものを真剣に届けるアカウントしか伸びなくなっているのを感じます。
フォロー機能は使われにくい?
森:コンテンツを作るにあたって、TikTokの媒体としての特性を理解することも重要です。TikTokはその構造上、「誰か」ではなく「TikTok」を観る視聴態度になりやすいのです。TikTokを起動すると最初に現れるのは、「フォロー中」のタブではなく、「おすすめ」の動画です。わざわざ自分で「フォロー中」のタブを押さないと、フォロー中の人を観ることができません。
ByteDanceは「フォロー中」の使用率を発表していませんが、僕の周囲の若い子に聞いても、使っているという声は聞かれません。自然と、おすすめ欄に流れてくるものを観る、という視聴態度になっているようです。
田中:「自分のおすすめ欄を最適化するためにフォローする」という使い方をしている人もいます。AIに学習させ、レコメンド精度を上げるということですね。もっと自分の興味に沿ったコンテンツをいっぱい発信してほしいから、いいねを押したりフォローをしたりする。他のSNSでは今のところ、そのような使い方はみられないと思います。
田中:この視聴スタイルが、ユーザーの滞在時間を延ばすことにもつながっていると思います。他のSNSの場合は、フォローしている人の最新コンテンツを観るためにアクセスし、それが済んだら直帰することもありますが、TikTokは「誰かのコンテンツ」ではなく「TikTok」を観ているので、終わりがないのです。
森:他のSNSでも最近、おすすめ欄を強化して、ユーザーと関連の高い投稿を表示するアップデートがみられていますよね。滞在時間を延ばすために効果的なやり方なのだと思います。私はこれを、“SNSのTikTok化”と呼んでいます。