企業広告は99%社員に向けて発信している
MZ:サッポロビールといえば、企業広告でブランドの想いや価値、世界観を巧みに表現されている印象が強くあります。
武内:ありがとうございます。企業広告では、お客様より、インナー(社員)に伝えることを意識しています。現在展開しているサッポロビールのビジョン「誰かの、いちばん星であれ」を表現したTVCMも、実は、99%は社員に向けて作ったものです。
サッポロビールではパーパスという言葉は使っていませんが、一般的に、パーパスの社内浸透にはインナーブランディングが重要であると言われます。インナーブランディングにおけるコミュニケーションを社外に発信していくことが大切だと思っています。
MZ:パーパスを消費者に伝えるために企業広告を制作・発信するのと、インナーに伝えるためのコミュニケーションを社外に発信するのとでは大きな違いがありますね。パーパスを伝える企業広告などはどこか上滑りした寒いコミュニケーションになってしまいがちですが、サッポロビールの企業広告にそうした印象がない理由がわかった気がします。
武内:自ら外に宣言することにもなりますし、社外の方から「サッポロビールってこういう会社なんだね」と言われて、社員が気づきを得ることもあります。そうした気づきが社員のアクションに繋がり、全社員がビジョンを体現するようになった時に初めて、「サッポロビールはこんな会社です」と噓偽りなく言えるようになるのです。
これは本当に日々の積み重ねで時間もかかることだと思いますが、ビジョンが自分ごと化されていなければ、頭でわかっていても、行動に繋がってきません。企業広告だけでなく、ブランドや商品のマーケティングにおいても、「こんなブランドです」と直接説明するコミュニケーションではなく、活動で見せることでお客様の共感を得ることを意識しています。
10年以上続けているCM「大人エレベーター」
MZ:活動で見せるマーケティングというと、何か例がありますか?
武内:一例ではありますが、今年7月に「the PERFECT LIVE 2021 -丸くなるな、星になれ。」という無料のオンライン音楽フェスを開催しました。コロナ禍で夏の風物詩も自由に楽しめない状況を受け、「サッポロ生ビール黒ラベル」らしく皆様を応援し、お客様と繋がることを目的に企画したイベントです。こうしたイベントひとつ取っても、いかにブランドの人格を入れられるか、表現できるかを強く意識しています。オンラインではありますが、イベントの空気感が黒ラベルの世界観そのものになるようにこだわって作りました。
また、10年以上続けている「大人エレベーター」のCMも象徴的な取り組みです。あのCMは、「おいしい」とも言いませんし、「キレがある」「コクがある」など味の説明もしません。とにかく黒ラベルの信念や想いを表現することに徹しているんです。そして今、その世界観や“黒ラベルらしさ”が、お客様にじわじわと強く突き刺さってきていることを実感しています。
お酒の可能性を追求し続ける。事業活動と社会貢献をイコールにしたい
MZ:これから注力していきたいことは何でしょうか?
武内:すでに取り組みを進めていますが、デジタルの活用を今後より進化させていくとともに、リアルとの融合をもっと意識したいと考えています。これまでにも、どれだけお客様と強い絆を作れているか、どんな価値観を持ったお客様に購入いただいているのか、熱狂的なファンがどのくらいいるのかなどの定量的な分析を進め、マーケティングのKPIをアップデートしてきました。2022年は、ファン向けのプラットフォームのさらなる機能化を図ります。定量的・定性的な分析をさらに進めながら、デジタルとリアルの両方のブランド体験を融合・促進することでファンの拡大に繋げていきます。
MZ:最後に武内さんの2022年の目標もお聞かせ下さい。

武内:社会の課題と向き合うというのは、今はもう当然のこととなっていますが、事業活動と切り離されていたり、CSRや社会貢献活動の域を出ていなかったり、といったことも往々にしてあるように思います。ですが、私は企業で働く人間として、事業活動そのものがお客様や社会の課題解決に結びつくべきであると考えています。つまり、「お酒の可能性を追求する」ことは我々の使命であって、それによってお客様や社会に貢献するべきであると思うのです。
先ほど、マーケティング部門全メンバーが「カイタクしよう、○○を」という自分の行動規範やアクションプランを持っているとお話ししました。全社員が所持するコーポレートカードを通して、自らの「カイタクしよう、○○を」を考えており、それを私は「カイタクしよう、お酒の可能性を」としています。
「お酒の可能性を信じて開拓し続ける」アクションを通して、お客様のより楽しく豊かな生活に貢献したい。そのためにどんなマーケティングを行っていくのかを考えていきたいですね。経営理念・ビジョンを体現したマーケティングを実践し、お客様や社会の課題解決を実現することがサッポロビールの存在意義を確かなものにすると信じています。