広告主・パブリッシャーの選択機会を確保し、市場の健全化へ
高橋:いまお話しいただいたような問題は、確かに業界側も認識しています。村瀬さんがおっしゃったように、自社メディアも運営する広告配信プラットフォーマーは、良い広告枠に自社広告を配信しているケースがあると想定されますが、このようなことも、取引透明化法で禁止していくのでしょうか。
村瀬:自社優遇そのものを禁止するわけではありません。あくまでも“取引透明化”が主目的ですから、仮に自社優遇し得る取引類型が想定されるならば、そのことを管理策も含めて利用事業者に明示していただく。そうすると、広告主はその情報を踏まえて、より合理的に判断してパブリッシャーやメディアを選択することが(入札行動を取ることが)できるようになり、結果としてデジタル広告市場における取引が透明化・健全化していくと考えられます。
他にも、ポリシーやルールを変更するならば、明確な内容を変更前に一定期間おいて通知する、事業活動の制約の条件も明示する、といったルールも検討しています。言い換えれば、広告主やパブリッシャー等のデジタルプラットフォームの利用事業者にとって、透明性や公正性、選択の機会が確保されるような政策を進めようとしています。
高橋:規制対象となるプラットフォーム事業者については、国内売上額が指定基準になっていましたよね。デジタル広告事業者はどの程度の規模感になるのでしょうか。
村瀬:まだ検討を進めている段階ですが、規模の大きい広告仲介プラットフォームを運営する事業者や、メディアまで垂直統合した事業者が規制の対象として念頭に置かれます。
デジタル広告市場についてのモニタリング・レビューに関しても、この市場の領域は技術の発展が著しく、「各社の技術的な取り組みを第三者が理解しレビューできるのか」といった課題は出てくると思います。関係する知見をお持ちの専門家や団体にも参画いただきながら、法の実効性を確保できるよう、運用していく予定です。デジタル広告分野の専門家である高橋さんにも是非ご協力いただけると、ありがたいと思います(笑)。

情報収集・相談に使える手段も拡充
高橋:ここまで、取引透明化法の概要とプラットフォーム分野、デジタル広告分野それぞれにおける現状を教えていただきました。今後注目すべき動きは、次の2点になりそうですね。
(1)2022年5月にプラットフォーム5社が報告書を提出。レビューの実施・公表へ
(2)デジタル広告分野への適用(開始時期や指定事業者の発表など)
最後に、両ビジネスの関係者が情報収集や疑問の解消に使える手段があれば、教えてください。
村瀬:法律の概要や成立経緯、関係する市場調査・会合の資料なども含め、経済産業省ではデジタルプラットフォームのWebページを開設し、デジタルプラットフォームを利用する事業者、消費者、そしてプラットフォーム事業者の皆様にそれぞれ必要な情報を提供していますので、是非ご覧ください。他にも、オンラインモール、アプリストアの利用事業者向けに、それぞれの分野に特化した団体に委託をする形で、デジタルプラットフォーム取引相談窓口を設置しています。
高橋:その窓口では、どのような支援を受けることができるのですか。
村瀬:デジタルプラットフォームの利用に当たって悩みや課題がある場合に、相談窓口の専門家から対応策などのアドバイスをお伝えするほか、弁護士の紹介、利用事業者向け説明会の実施、また、複数の事業者から寄せられた集合的な課題があれば、相談窓口が代表してプラットフォーム事業者への確認も行います。
また、提供いただいた情報や相談内容は、モニタリング・レビューの際の重要な情報源になります。「共同規制」の実効性を高めるためにも、是非、小さなことでも、ご相談や情報提供をお願いできるとありがたいです。情報の秘匿性は確保します。
高橋:本当に小さなことでも、気づいたときに相談する、声を上げる体制が日本にも根付けばいいなと思います。とはいえ、プラットフォームがあるからビジネスが成り立っている側面があり「この手数料は妥当なの?」など、疑問を持つのも難しい。やはり、透明性・公正性が大切だと感じます。

村瀬:そうですね。多くの禁止事項を法律で規定することによって結果的に市場のイノベーションが阻害されてしまうことになるのは、私たちの望む未来ではありません。「共同規制」のスキームが機能し、関係者の相互理解が促進されながら、業界全体が健全に発展していくことを期待しています。
高橋:本日はありがとうございました。