フェーズ1: マスメディアと同じタイミングで顧客に情報提供
「AUBE」の場合、プロモーションの最初のフェーズは「厳選した顧客を対象にした事前発表会」でした。通常、メーカーはメディア向けに新製品の事前発表会を開催しますが、「AUBE」の場合は、特別に招待した顧客に対して、プロのメークアップアーティストによるメイクの実演指導などが行われたそうです。マスメディアとほぼ同タイミングでコンシューマ代表に情報提供をする、そこから始められたのが素晴らしいと思います。
招待者の選別方法をお聞きしたところ、「サイト訪問者(Web会員)から抽出しました」とのこと。たしかに多くの企業サイトには会員登録をするためのフォームがあり、キャンペーンのたびに多くのリストが収集されているはずです。しかし、そのリストを本当に有効活用できているかというと疑問も多いと思います。
以前、筆者が「WebSig」で講演をした際も、「どうやってPGMの候補者を集めるのか」といった質問が出ました。そのときは「ECサイトであれば過去の購入者、メーカーであれば製品のユーザー登録をした人、あるいはブログ検索などでファンを探すことも有効だと思う」と答えましたが、自社サイトの会員登録も、ぜひ忘れずに追加しておきたいと思います。
当然のことですが、このように自ら企業に歩み寄ってくださる方々(しかも連絡先を教えてくださる方々)こそPGMの候補者としては最適なのです。
PGM候補者を信頼すること
このように、「PGMにも通常メディアと区別することなく情報提供すべきだ」と主張すると、「(一般のブロガーは)ダメだといっても書いてしまうから情報管理上、実施することができない」という反論も聞きます。「AUBE」の場合は、どうだったのでしょうか。結果を先に言うと、事前に説明したブロガーのフライング公開はなかったそうです。では、そのために特別な規制をしたのでしょうか。
「いえ。公式ブログオープンまでは待ってください、とお願いしただけです」
そうなのです。もちろんフライングが絶対ないと保証できるわけではありませんが、それはマスメディアを相手にしてもリスクは同じです。ただ、そのリスクを下げることこそがコミュニケーションなのではないでしょうか(もちろんリスクマネジメントしては、最悪のケースは想定しておくべきですが)。
性善説ですべてがうまくいくとは筆者も思っていませんが、少なくともPGMを構築していくためには相手を信頼することから始めるべきですし、信頼できる人だけをパートナーとして選別するべきです。
フェーズ2: 公開したブログのコメントをいかに管理するか
そして「公式ブログ/公式サイトの公開」が次にあります。ここでも非常に参考になる言葉をいただきました。それはひとことで言うなら「覚悟」です。
「ブログのコメントとトラックバックは、すべて承認制(モデレーション)にしましたが、せっかく意見を寄せてくださったお客様のために、公開をお待たせすることのないように、受付期間中は24時間体制で対応しました」
「無断でコメントを削除することは絶対にしないようにしました。実際にはほとんど削除はありませんでしたが、削除した場合も必ず本人に連絡をしました」
いかがでしょうか。筆者は常々ブログ・マーケティングに一番必要なものは「覚悟」だと主張してきましたが、ここまでの覚悟を持って取り組んたケースは非常に珍しいと思います。
「AUBE」の場合、明らかなスパム以外は、他社批判や薬事法に抵触するものだけを削除対象にしたそうです。これは公式ブログに寄せられたコンシューマのコメントであっても、花王ブランドの基準で責任を持って管理することが必要だからです。不特定多数の人から寄せられるコメントやトラックバックを厳格に管理している企業はまだまだ多くないことを考えると、本当に頭が下がる思いです。このような「覚悟」がPGMを構築する上で、もっとも大事なことだとあらためて実感しました。
公式ブログによるプロモーションはすでに終了していますが、ここで次の製品の情報提供をする会員登録をしたり、今後も来訪するであろう検索エンジン経由の訪問者に対して公式サイトへの誘導をしているそうです。
「ブログは器にしか過ぎないので、そこで何をするかが重要です」
という石井さんの言葉はまさしく至言です。

