企業姿勢をユニークな体験として提供するNIKEと日産の事例
具体的にどのような企業がメタバースを活用したマーケティングを行っているのでしょうか。2社の事例を紹介します。
NIKE
NIKEは前述のRoblox上に「NIKELAND」という自社ワールドを公開。NIKELANDはオレゴン州にあるNIKE本社を意識したデザインで構築され、中にはサッカーフィールドやバスケットボールコート、テニスコート、競技用トラックなどが存在しています。
出典:NIKE
ユーザーはNIKELAND内を探索しながらミニゲームに参加し、クリアするともらえるコインを使ってアバター用のシューズやスポーツウェアなどを入手することが可能。NIKEグッズを装備したアバターは、スピードアップなどの特殊な能力を得られる仕組みとなっています。NIKELANDは「世界中のすべてのアスリートにインスピレーションとイノベーションをもたらすこと」をミッションに掲げるNIKEブランドの世界観を、ユーザーが遊びながら体験できるコンテンツなのです。
日産
日産は銀座に実在するショールーム「NISSAN CROSSING」を「VRChat」というプラットフォーム上で忠実に再現。VR版のNISSAN CROSSINGでは電気自動車「日産アリア」を展示するほか、カフェやイベントスペースなども再現しています。
今後VR版のNISSAN CROSSINGでは、電気自動車で北極や南極を巡り地球温暖化について考えるツアーなどの実施を予定。オンラインショールームでの単なる製品展示を超え、環境問題や電気自動車の開発へ積極的に取り組む日産の姿勢を体験として提供している事例と言えます。
出典:日産自動車
ノウハウ不足が課題 試されるマーケターの“目利き力”
2次元のインターネットを3次元に進化させ、企業のマーケティング活動に大きなインパクトを与え得るメタバース。可能性が大きい一方、企業が活用する際にはいくつかの課題や注意点があります。
第1の課題は、企画検討のノウハウを持つ人材の少なさです。メタバースは企画の自由度が非常に高いがゆえ、検討時に考慮しなければいけないポイントが多数あります。ユーザーに驚きや楽しさを与えるメタバースならではの体験作りには、3次元を活かすためのリアルな空間設計と、物理制約に囚われないデジタルな表現・仕組みを組み合わせるノウハウが求められるのです。
第2の課題は、開発面の難易度の高さです。3DCGの制作や多人数同時接続、アバターの仕組みなど、メタバースの構築に必要な要素は多岐にわたります。しかしながら黎明期にあるメタバース開発では、Web開発やアプリ開発に比べて手軽に開発を行えるツールや環境が十分に整備されていません。この状況でゼロからメタバースの構築を実現しようとすれば、膨大なコストと時間がかかる可能性が高いです。
これらの課題を解決するためには、メタバースの構築を自社のみで行うのではなく、外部の専門家と適切に協力しながら進めていく姿勢が肝心です。ただし、メタバースの構築には3DCGの扱い方など、Web・アプリ開発とは異なるスキルセットが求められるため「過去に付き合いがある会社だから」という理由で安易に開発協力を求めるのは危険。3DCGやメタバースに関するバックグラウンドがあるかをしっかり確認した上で、協力してもらえるパートナーを探す必要があります。
メタバース活用の成功可否は、事業会社側のマーケターの目利き力にかかっていると言っても過言ではありません。目利き力を養うためには、マーケターが自らメタバース関連のゲームやサービスに触れるなどして「メタバースにおける良い体験」を体感することが重要になってくるでしょう。
