組織全体の設計を見直すべきフェーズが来ている
――少し話題を変えますが、多くの企業で課題となっているマーケターの人材不足を、どう捉えられていますか?
マーケティング業界とその周りを取り巻く業界、それぞれで起きている2つの大きな変化によるものだと考えています。
これまでマーケティングが花形と言われるのは、多くの場合、消費財メーカーなどBtoCの業態でした。これには、ビジネスのサイクルが短いため、マーケティングコミュニケーションがすぐにわかりやすい形で結果になる、という点が関係していると認識しています。一方BtoB業界や購買サイクルが長い業界では、マーケティングの定義自体が異なっており、広告宣伝部しかない企業も多かった。ところが今、マーケティングがビジネスのオーナーシップを持つという考え方がこれらの業界にも徐々に入ってきています。
そして、こうした変化に重なって起きているのが、DXです。DXは、マーケティングのデジタル化だけでなく、事業そのものの変革や組織、働き方の改革など、ビジネス全体に関わるものです。
DXに対応できる人材やスキルが求められている、DXによる変革にマーケティングもフォローしていく必要がある、そして一部の業界ではマーケティングの定義が変化している。今、これらすべてが起きているという状況があります。
――では最後に、そのような中で企業に求められるアクションについてアドバイスをいただけますか?
今企業がやるべきは、経営の中心にマーケティング的な考え方を据えるということ。もう少し具体的に言うと、ユーザーや顧客をベースにした指標を経営指標として捉えることが非常に重要です。そうすると、経営に関わっている全部署がユーザーのことを考えて、ユーザーの立場で自分の仕事に当たるようになるはずです。
マーケティング部門だけでなく、全部署がユーザーを主語に考えてアクションできるような体制の構築を目指し、組織の全体像を再設計する。そこで各人に必要なスキルが見えてきたら、トレーニングを実施したり、社内で補えない部分はアウトソースしたり、もしくは外部のプロフェッショナルと一緒にプロジェクトを進めるという手もあります。ただ、いずれにしても、マーケティング的な考え方をビジネスの中心に据えられているか否かが大事です。マーケティング部門だけでこれをやっても、一部分の最適化で終わってしまったり、本来は組織全体で伸ばすべきスキルやケイパビリティを得られなくなってしまったりするでしょう。
そして、これらを進める中で、マネジメント層には部門間のコラボレーションをサポートする役割があります。各人に裁量を与えコラボレーションが進めば、自由なアイデアが生まれオペレーションが回るようになっていきます。重要なのは、いかにそれを広げていくか? です。DXが進んでいる今、縦割りでない組織を作っていかなければ、今後立ち行かなくなってゆくと思っています。