急成長中のライブ配信。その背景にはメディア消費習慣の変化が
Z世代とミレニアル世代を中心に、ライブ配信市場が急速に拡大している。視聴時間は、2019年の156億時間から2020年には278億時間へと増加(※1)。Market Research Future社の調査によると、アジア太平洋地域におけるライブ配信市場の規模は2027年には10兆円に拡大することが見込まれており、さらにCyberZの調査では、音楽やエンターテインメントに特化した日本でのライブ配信の市場規模は来年700億円を超え、2024年には984億円に達すると予測されている。
「こうした成長の背景には、やはりコロナ禍の影響があります。“人と交流できる”というライブ配信の価値に注目が集まったのです。しかし、これはコロナ禍における一過性のものではありません。コロナ禍が収束した後も、ライブ配信の拡大は進んでいくと考えています」(アンダーソン氏)
また、メディアの消費習慣の変化にともない、エンターテインメントを取り巻く環境も大きく変化した。オンラインで多種多様なコンテンツと視聴方法の選択肢が登場した結果、消費者の関心は分散化し、自分自身で視聴体験をコントロールできるメディアを求めるように。そして、ニューノーマル時代になり、“新しい繋がり”が求められるようにもなっている。
こうした生活者の変化を受け、企業側でも新しいマーケティングコミュニケーションチャネルとして、ライブ配信を活用する動きが加速しているそうだ。
(※1)Streamlabs実施の調査「Streamlabs & Stream Hatchet Q2 2020 Live Streaming Industry Report」より。Twitch、YouTube、Facebook、Mixerを合計した視聴時間。
Twitchが強力なコンバージョンツールと言える理由
ライブ配信サービスとして広く支持され、グローバルで3,100万人以上のDAUを有する「Twitch(ツイッチ)」は、配信者が中心となり、視聴者とコミュニティを育みながら成長してきたところに大きな特徴がある。Twitchの視聴者は、受動的にコンテンツを見るという“視聴”体験だけでなく、配信者を含むコミュニティメンバーとの“コミュニケーションを楽しむ”体験を求めているのだ。この特徴から、Twitchでは、マーケティングチャネルとして次のような効果を期待できるとアンダーソン氏は話す。
「Twitchユーザーは、配信者や他の視聴者と交流するために訪れているため、そこで交わされる密なコミュニケーションから積極的に情報を得ようとします。Twitchはそのエンゲージメントの高さから、強力なコンバージョンツールであると言えます」(アンダーソン氏)
実際にKantar社と共同で実施した調査では、Twitchを利用するゲームユーザーはプレイするゲームについてコミュニティでシェアしたり、ライブ配信でコミュニティメンバーが勧めていたゲームをプレイしたりする傾向があった。また、Twitchでゲーム配信を視聴するユーザーの70%以上が、そのゲームを購入する可能性が高いこともわかったという。
さらに消費財に関する調査では、60%以上の日本のTwitchユーザーは、配信を通して好きな配信者が勧めるパーソナルケア製品を買う傾向にあり、Twitchで広告を見た商品・サービスは購入意欲が13%高くなることも判明している。
事例に見る「ブランドにとってのTwitchの価値」
Twitchにはパートナープログラムがあり、数万人以上の配信者がこのプログラムに参加している。アカウントを作るだけで、誰でも無料で配信を始めることができるが、その配信実績などに応じて配信者のレベルを設定。企業がTwitchでインフルエンサーマーケティングを行う時は、これらのTwitchパートナーの中から最適な配信者を選定し、コンテンツの企画から配信、振り返りまで幅広くサポートするという。
講演の中でアンダーソン氏は、Twitchで実施されたインフルエンサー配信施策として、アサヒグループ食品の例を紹介した。アサヒグループ食品は、スタジオNGCのえどさんとタッグを組み、「1本満足バー」を訴求するタイアップ企画を実施。計2時間ほどの配信で、視聴回数は6万回以上、視聴時間は38万分以上を記録した。
アサヒグループ食品が行ったキャンペーン事例について、詳細はこちらの記事で紹介しています。
「これまでお話してきた通り、マーケティングにおけるTwitchの価値は、エンゲージメントの高いコミュニティを活用できるところにあります。配信者は新たなユーザーとブランドや広告主の架け橋になる存在です。彼らとタッグを組むことで、特定のコミュニティの中で、強いインパクトがある形でブランドのメッセージを伝えることができます」(アンダーソン氏)
講演の後半は、Twitchでインフルエンサーマーケティングを展開しているUber Japanの中川晋太郎氏と、人気ゲーム配信者のももち氏、チョコブランカ氏を迎えてパネルディスカッションが行われた。ここからは、その内容を紹介する。
配信者・マーケターが感じている「ライブ配信」の盛り上がり
――前半の講演では、ライブ配信市場の成長ぶりについて、アンダーソンさんから解説がありました。ももちさん、チョコブランカさんも、最近の盛り上がりを感じていますか?
ももち:そうですね。視聴者だけでなく、配信者もとても増えている印象があります。日本での認知もどんどん広まっているように感じています。
――配信者から見て、Twitchにはどのような特徴があるでしょうか?
チョコブランカ:視聴者の積極性があると思います。他のライブ配信サービスでは、コメント欄で視聴者同士の交流を禁止しているケースも多く見られますが、Twitchでは視聴者同士が配信の感想を共有しながら交流しており、各チャンネルに視聴者コミュニティができているのです。チャット欄のコミュニケーション自体を楽しんでいるのだと思います。
――中川さん、マーケティング媒体としてはどうでしょうか?
中川:Twitchに出稿した際に実施した調査では、他の広告プラットフォームに比べて、広告に対するエンゲージメントが5~6倍高くなりました。コミュニティが活発で配信者と視聴者の繋がりが強いため、「自分もメンバーの一員」というような意識がユーザーにあることから、ここまでエンゲージメントが高くなったのではないかと考えています。
Uber Eatsが行ったキャンペーン
――実際にUber Eatsでインフルエンサー配信を行った時の手応えはいかがでしたか?
中川:我々が行ったのは、夜遅い時間でもUber Eatsで注文できることを訴求するキャンペーンです。配信中は、インフルエンサーの方にカレーやオムライスなどいろいろな食べ物を注文できるQRコードを印刷したパジャマを着てもらい、視聴者の皆さんにそれを画面越しに読み込んでもらう、という企画を行いました。
インフルエンサーの方が「次は何を食べたい?」と視聴者に聞き、チャット欄で「オムライス!」というコメントが来たら、そのQRコードを読み込めるようにカメラに見せて……とワイワイやっている感じが私も見ていてとても楽しく、エンゲージメントが高まっていくのを感じましたね。
アンダーソン:そのようにユーザーが参加できる企画にすると、エンゲージメントが高まりやすいので素晴らしいと思います。タイアップ企画に関しても、Twitchユーザーはそれが配信者の応援に繋がるとわかっているので、最後まで見てくれることが多いです。
――どの媒体でも広告は好意的に見られない面がありますが、Twitchはなぜそうなりにくいのでしょうか。
チョコブランカ:アンダーソンさんがおっしゃったように、Twitchには配信者を応援するカルチャーがあります。ですので、自分が応援している配信者を応援してくれる企業と捉えて、タイアップ企画でもポジティブな印象を持ってくれるのだと思います。
アンダーソン:Twitchとしても、コンテンツの間に流す広告は配信者の方がタイミングを指定できるようにするなど、広告が嫌悪されないような仕組みや機能を整えています。
ライブ配信のリスクはどう考える?
――事前に収録するのとは違い、ライブ配信のインフルエンサータイアップ企画は、コンテンツを企業側ですべてコントロールできないがゆえのリスクも考えられます。その点は、どのような対策をされているのでしょうか?
アンダーソン:Twitchの担当者が企業や代理店の方から商品の特徴やPRしたいポイントなどをヒアリングし、配信者の方にNGワードなども含めてお伝えするなど、細かく準備・管理しています。ブランドセーフティの観点でも、AIによるモデレーションやNGワードの除去など、さまざまな工夫を行っています。
中川:当然ライブ配信のほうが収録コンテンツよりもリスクは高まりますが、私はトレードオフだと考えています。本格的なエンゲージメントを育んだり、熱量を生み出したりしたい時は、視聴者と双方向にコミュニケーションできるライブ配信のほうが強いので、その効果とリスクと、どちらを選ぶかという話だと思いますね。配信者さんもプロとして自身のブランドを守りながら配信されているので、変なことをするとファンが離れていってしまいます。そういった意味でも、配信者の人選さえしっかり行えば、あまり変なことは起きないのではないかと思っています。
――配信者の選定は、どのように行うのでしょう?
中川:我々の場合は、そのプロモーションのターゲットと視聴者層が近く、なおかつ届けたいメッセージに適していると思われる方にお願いするようにしています。企画内容については、配信者さんが一番視聴者の方を理解されているので、こちらでガチガチに決めすぎず、ある程度の軸は設定しつつも、基本はお任せするようにしています。配信者さんとファンの間にあるエンゲージメントを最大限に活用するという観点で、ある程度お任せするほうが効果的ではないかと思っているのですが、配信者さん側は「お任せします」と言われると、困ってしまうんでしょうか?
ももち:いえいえ。我々がいただくタイアップ案件も、基本的な情報をいただいた上で、あとは自由にやって下さいというものが多いです。ライブ配信では視聴者の反応をリアルタイムに見て、アプローチを変えていくこともできます。Twitchは視聴者の熱量が高いので、非常に刺さるPRになっているのではないかと思います。
――最後に中川さん、Twitchの活用を検討しているマーケターへ一言アドバイスをいただけますか?
中川:これまで何度かインフルエンサータイアップ企画を実施しましたが、毎回学びが多くあります。ライブ配信は今後もさらに成長していくと思いますし、早めに取り組むことで先行者利益を期待できるところもあると思います。興味のある企業の方々は、まずは試してみるとよいのではないかと思います。
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