消費者の認識(パーセプション)を中心に、活動全体を俯瞰
今回紹介する書籍は、『なぜか「惹かれる企業」の7つのポジション 変化の時代を生き残る「ソーシャル・ポジショニング」』(日本経済新聞出版)。著者は、博報堂の戦略CD/PRディレクターである菅順史氏です。
菅氏は博報堂に入社後、PR戦略局を経て2013年に「生活者発想」を掲げる博報堂のフラッグシップシンクタンク・博報堂生活総合研究所へ異動し、エスノグラフィ(行動観察調査)や未来研究に従事。現在はクリエイティブ部門の生活者エクスペリエンスクリエイティブ局で戦略CD兼PRディレクターとしてコミュニケーション戦略の立案から実施までを統括するほか、新規事業開発などにも携わっています。
SDGs(Sustainable Development Goals)など、サステナビリティに対する世界的な意識の高まりや、ESG(Environment・Social・Governance)を中心とした投資の拡大は、企業が生き残る上で、新たな課題となっています。
また2019年には、米国の主要トップからなる経済団体「ビジネス・ラウンド・テーブル」が株主第一主義を見直し、ステークホルダー資本主義へと転換することを宣言しました。これにより、企業は株主の利益に加えて、「顧客・従業員・他の企業や地域社会を含めたステークホルダー全体の利益に配慮すべき」だと示されました。
こうした中、企業は長期的に利益を生み出すためにも「経済価値の創出」だけでなく「社会価値の創出」にも目を向けるべきという認識が広がっています。
では実際、どのように「社会価値の創出」を生み出せばいいのでしょうか。同書において、菅氏はまず「社会と向き合うための視点とノウハウを持つことが重要」だと述べています。本記事では社会と向き合う視点と7つのポジションの一部について紹介します。
着眼点は「3C」から「3S」へ
従来のマーケティングでは、3C分析や4P分析による戦略策定が王道でした。しかし菅氏はこうした分析の中に「社会と向き合う」視点がないことを指摘しています。最近では、企業に期待するものとして「商品やサービスの機能価値」だけではなく、「社会により良い影響を与えるか」という視点も重要視されています。こうしたニーズに対応すべく、菅氏が提案するのが「3S分析」です。
「3C分析」は、顧客、競合、自社の視点で、市場の中で自社の現状を把握することに主眼がありました。
一方「3S分析」は、社会(Social)、生活者(Sei-katsu-sha)企業ストーリー(Story of Corporate)の視点で、企業や社会の中にどんな役割を果たせるのか、その可能性を探る事に主眼があります。
従来のマーケティング・フレームに抜けていた社会という視点を取り入れることで、(中略)社会の中でその企業にふさわしい立ち位置をみつけるのです。
この3S分析を通じて、これまで明確化していなかった自社と社会の関係性を見直すことができ、具体的なアクションを見つけやすくなります。
応援されるための「7つのポジション」
では、具体的に社会の中で取るべきポジションはどのようなものでしょうか。菅氏は、国内外で社会から賛同を集めることに成功している企業を分析・体系化した「7つのポジション」を紹介しています。
1.応援者ポジション
変化の中で課題を抱えている生活者に寄り添い応援する2.挑戦者ポジション
みんながみたくなる未来を掲げて社会を牽引する3.破壊者ポジション
非合理な慣習や理不尽な固定観念を打ち破る4.民主化ポジション
一部の人しか使ってなかったことを、あらゆる人ができるようにする5.新世代ポジション
新しい価値観を体現し世代交代をリードする6.シンボルポジション
社会の争点になっている国民的テーマの代名詞になる7.逆張りポジション
大勢に疑問を投げかけ、新しい選択肢を提示する
この7つのポジションは、これまでのアプローチと比べ、企業が社会に対してどのように関わるのか、そのスタンスがわかりやすく示せる指標となっています。
本書では、「7つのポジション」の具体例のほか、企業が社会的なアクションをする方法、社会的発想が身につく着眼点が書かれています。社会的役割について設定したいマーケティングリーダー・経営者の方にお薦めの書籍です。
同書を通して、ソーシャル・ポジショニングを見直し、実務に活かしてみてはいかがでしょうか。
本記事は日本経済新聞出版からの献本に基づいて記事作成しております