取引数の多さゆえに自然と貯まる運用知見
MarkeZine編集部(以下、MZ):まずは皆様の自己紹介からお願いできますか?
白井:私はサイバーエージェントのスマホディスプレイ戦略局でマネージャーを務めています。スマホディスプレイ戦略局は、アドネットワーク媒体の配信を複数担っている部署です。
金子:私も白井と同じくスマホディスプレイ戦略局に所属し、アドネットワークの中でもDSPのグロースに数字責任を持って業務にあたっています。
野間:私はLiftoff Mobileの営業担当として、サイバーエージェントさんのような代理店とのリレーションを強化していく役割を担っています。Liftoff Mobileに入社したのは約2年前で、前職はWeb専業の代理店に勤めていました。
MZ:サイバーエージェントは国内トップシェアを誇るインターネット広告代理店として、あらゆる媒体や広告主と取引されていると思います。そんな御社だからこそ出せる強みや特徴を教えてください。
金子:数多くのクライアント様とお取引をする中で、幅広い業種・業界の運用知見が貯まっている点は特徴の1つだと考えています。また取り扱っている媒体も多く、クライアント様のゴールに応じて最適な媒体やソリューションを提供できる点が強みです。
白井:弊社ではクライアント向き合いの営業部隊と、媒体社向き合いのコンサルティング部隊の2つに組織が分かれています。マーケットやクライアント様の数字を見る営業の視点と、今後主流になりそうな媒体や広告手法を見定めるコンサルティングの視点。その両軸によって注力すべき業界や媒体を絞れている点も、他社との差別化ポイントだと考えています。
インストール後のアクションを重視する風潮が高まる
MZ:代理店と媒体、それぞれのお立場から長年クライアントのアプリマーケティングを支援されてきた皆様からご覧になって、業界を取り巻く環境にはどのような変化があったのでしょうか。
白井:私が入社した約3年前は「インストールを取れるだけ取ろう」という考えのもと、ボリューム重視で配信を行うクライアント様が多かったと記憶しています。それが最近になってROASなどにも踏み込みつつ、多くの指標に基づき数字を細かく見るクライアント様が増えてきた印象です。
野間:私も同感です。CPI(Cost Per Impression)だけでなく、その後の会員登録や購入を重視する動きは非ゲームの会社さんから徐々に広まっていった気がします。Liftoff Mobileは2012年にアメリカのシリコンバレーでスタートした会社なのですが、当時から弊社のDSPはインストールではなくその先のKPIを追うためのプロダクトとして作られていました。自社で長らく啓蒙してきた価値観に理解を示してくださる日本の広告主様がようやく増えてきたという実感はあります。
アドフラウドを黙認する広告担当者もいる?
野間:日本でもインストール後のアクションを重視する風潮が高まってきた一方で、アドフラウドの問題に関しては日米の企業間に対応の差を感じます。グローバルではアドフラウドが深刻な問題として受け止められており、対策が進んだことで怪しい媒体の利用は減ってきていますが、日本国内においてはまだまだ利用が多いという所感です。
白井:SDK(ソフトウェア開発キット)をハックして数値を上げる類のフラウドが現れるなど、ここ数年でアドフラウドの高度化が進んだ印象はありますね。弊社では独自のアドフラウド対策ツール「CAF(CyberAgent Anti Fraudsystem)」を活用し、オーガニックの数値と比較して異常値と認められるものをブロックしています。
またツールだけでなく、媒体選定を通じてもアドフラウド対策を講じることはできます。たとえばLiftoffのようなRTBを用いた配信では、無効なクリックやインプレッションが枠に対する価値を下げてしまうため、アドフラウドが必然的に発生しにくい構造を呈しています。今後はRTB配信のプラットフォームを積極的に提案することでも、アドフラウドの撲滅を目指したいと考えています。
野間:少し踏み込んだ質問をしても良いですか? 広告主側で「フラウド=悪しきもの」と認識はしているものの、数字上は好調に見えるぶん担当者があえて対策に踏み切らないケースもあったりするのでしょうか。
白井:複雑な質問ですが、配信ボリュームが一時的にでも縮小すると現場担当者の責任になるので、配信のポートフォリオを崩すことに抵抗を示す方がいてもおかしくありません。ただし、長期的な成果を考えるとアドフラウド対策を講じない手はないので、私たち代理店からも積極的に啓蒙活動を行う必要があると考えています。
獲得ユーザーのLTVが高くボリュームが出やすいLiftoff
MZ:サイバーエージェントでは、プログラマティック広告をはじめ新しい広告媒体を積極的に選定・提案されていると伺いました。アプリマーケティングにLiftoffのようなDSPを活用する意義についてお話しいただけますか。
金子:獲得ユーザーのLTVが高いほか、配信面やユーザーのデータが取れるというメリットもあります。CPI固定の場合、配信面が完全に非開示のため不透明性が高く、どんなユーザーで獲得が発生しているのかもわかりません。一方DSPは配信面の情報やユーザーの性別・年齢などを把握できます。新しいキャンペーンを走らせる際に過去のデータを参照できるのはかなり大きなメリットですね。
白井:「効果を担保しつつボリュームを出したい」というのがクライアント様の望みだと思います。先に述べた通り、多くの指標を見るクライアント様の要望へ応えるためには、オーディエンスターゲティングをかけ、広告を表示すべきユーザーに対して配信するRTBの手法が今後主流になってくると思います。
Liftoffは他のDSP媒体と比べてボリュームが出やすく、配信面を網羅できているというのが私たちの認識です。これは恐らくLiftoff Mobileさんの企業努力によるものだと思いますが、弊社の主要顧客にも安心して提案できるので助かっています。
一緒に売上を作るパートナーとしてともに成長
野間:サイバーエージェントさんから「プログラマティック広告に注力していく」と伺ったのは2021年の初めだったと記憶しています。当時はまだiOS14.5のリリース前で、プライバシーポリシーがどうなるかもわからないタイミング。それにも関わらず、なぜ舵を切ることができたのでしょうか。
白井:ちょうどその頃はアドフラウドが高度化を迎えていたタイミングでした。iOS14.5以降のSKAN(※)配信やATT(アプリのトラッキング申告)を加味すると、CPI固定だけでは売上が立たなくなると考えていました。各媒体へのヒアリングを通じて「CPI固定への投資額がDSP媒体市場に動いていく」という予測ができたので、DSP媒体の売上を立てるためにパワーを使い始めました。
※Store Kit Ad Networkの略。Appleのプライバシーに配慮したフレームワーク
野間:なるほど。私が日ごろ「ありがたい」と感じるのは、白井さんと金子さんがLiftoff Mobileとの取引金額にコミットしてくださることです。数ある取引媒体の1つとしてではなく、一緒に売上を作るパートナーとして議論ができるので、ここまでともに成長できたのだと思います。
広告主・代理店・媒体の「三方よし」を目指して
MZ:最後に、両社で今後実現していきたいことを伺えますか?
金子:これまでは、新規ユーザーの刈り取りという短期的な指標をクライアント様が重視していました。今はユーザーのLTVが高い媒体で長く太く配信する風潮にシフトしつつあるので、まさにその価値観を体現するLiftoffの提案に注力し、売上を作っていきたいです。
私が考えるLiftoff Mobileさんの強みは、海外の大型クライアント事例の多さです。海外市場の広告出稿額は日本に比べると桁違いに大きいですし、SKAN配信などの技術も進んでいます。グローバルの先進的な知見を共有いただき、一緒に日本の市場をけん引していきたいです。
野間:サイバーエージェントさんは日本で1番大きな代理店です。数多くのクライアントの代弁者として、我々媒体に対し積極的にご意見やご相談を寄せてくださいます。たとえば「こういう機能を作れませんか」というご提案をいただくことも。今後も単純なお取引ではない形で、クライアントの成果最大化やアドフラウド対策の啓蒙活動に協力して取り組んでいきたいです。
白井:代理店のリクエストを真摯に受け止めてくださる媒体の存在は、私たちにとっても貴重です。今後もシステムやサービスを一緒に磨きながら、弊社はきちんと売上を立てられるよう努力をしていきたいと思います。
「クライアント・広告代理店・媒体の3者が利益をきちんと上げられる状態がベスト」というのが私の考えです。その状態を継続し効果を出していくとなると、クライアント様の要求レベルも当然高くなります。クライアント様の要求を咀嚼した上で、Liftoffさんのような媒体と一緒に取り組めることを考えるのが広告代理店の介在価値ではないでしょうか。