小売業でもファーストパーティデータの活用が本格化
はじめに奥谷氏は、2022年1月に行われた家電見本市 CES(Consumer Electronics Show)の様子を共有した。同イベントは毎年ラスベガスで開催され、業界トレンドの解説や関係者の情報交換が活発に行われることから、多くのマーケティング関係者が注目している。今年発表されたリテール領域のトレンドのうち、奥谷氏は「リテールメディアが小売業の新たな収入源に(下図の8番)」「自社データの収益化(同9番)」の2つが特に重要だという。
リテールメディアとは、小売事業者が持つ顧客の購買データや行動データファーストパーティデータを広告配信などに活用する手法を指す。小売事業者にとっては新たな収益源となる可能性があり、利用する事業者にとっては、サードパーティCookie利用が制限される中で顧客とつながる新たな手段となり得る。
既にファーストパーティデータを活用してリテールメディアを実践しているのが、米国のWalgreens(ウォルグリーン)だ。同社は、11ヵ国に1万3,000以上の店舗を持つ、店舗数では世界最大の薬局・ウェルネス小売企業で、コロナ禍において、PCR検査やワクチン接種を同社の薬局で実施。検査は800万回、接種は2,000万回以上を達成している。
このコロナ対策を実施するにあたり同社は、ワクチンポータルとしてスマートフォンのアプリを構築。ワクチンの予約をアプリ上で可能にしたり、接種のための移動にUberを利用できる便利な体制を整えた。これによって入手したファーストパーティデータを用いて、アプリ経由で、同社が扱う薬やヘルスグッズ、ヘルスケアサービス情報を提供。データによって顧客を理解し、1人ひとりに適したファイナンスサービスや各種プロモーションの情報も届けることができるようになった。
奥谷氏はWalgreens社の事例から、顧客が提供してくれるファーストパーティデータを基に、顧客を理解する重要性を強調。加えて、他社とパートナーシップを結び、ファーストパーティデータとの統合管理、紐づけ、コラボレーションを行うことも想定できると述べた。
「1社では実現が難しくても、いろいろな企業と手を組み、いわばファーストパーティ×ファーストパーティで取り組むことが可能です。データガバナンスを大切にしながら手を組むことで、顧客のセグメント分けをさらに精緻に行えるようになります」(奥谷氏)
キャッシュレスデータを活かし顧客理解の解像度を上げる
小売業を含む事業会社にとって、データ活用・連携のパートナーとなり得るのが、今回ともに登壇した三井住友カードだ。同社の細谷氏はまず、同社が展開しているデータ分析支援サービス「Custella(カステラ)」の概要を説明した。
Custellaは、三井住友カードが扱う年間約21兆円の決済データを活かしたサービス群だ。社会のデジタル化・キャッシュレス化にともない、同社が有するデータ量はここ20年で20倍に増え、顧客の購買行動解析の解像度が上がっている。
細谷氏はどのようなデータを収集・分析しているかの参考として、緊急事態宣言下での消費の変化についてグラフを用いて紹介した。2022年までに緊急事態宣言は3回発出されたが、回を追うごとにクレジットカードでの決済金額・件数の落ち込み幅が少なくなっているのがわかる(1度目21%、2度目18%、3度目3.5%)。最初の宣言で国内は大きく動揺したが、徐々に状況に慣れてきた様子がうかがえる。
続いて、消費内容を衣食住、旅・移動、遊・学、オンラインといったカテゴリー別に分けた決済金額の推移を紹介。コロナ前は、旅・移動の消費はそれなりの割合を占めていたが、コロナ後は旅・移動がオンラインと食に流れたと見ることができる。
さらに、日常消費のカード利用内訳を見てみると、2,000円や1,000円以下の取引の伸びが最も大きいことがわかる。この金額がどこで利用されているか、業種別の利用の伸びを確認したところ、コンビニなども伸びているが、飲食店、カフェ、ファーストフードなどが非常に高く出る結果だった。
なおこれらのデータの詳細はCustellaのWebサイトにて、現在無償で公開されている。