1stパーティデータの時代に適した、マーケティング4Pの再配置とは?
再び奥谷氏が講演者となり共有したのは、デジタルを前提とした時代に合わせて事業システムをシフトした、米国のヨガウェア専門店「lululemon(ルルレモン)」の事例だ。当初lululemon社は、ヨガウェアの物販だけを顧客とのエンゲージメント(つながり)としていたが、提供する価値をモノ(ヨガウェア)からコト(Empowering People)と変えることで、顧客とのエンゲージメントを深める方向を探った。
具体的にはホームフィットネスのスタートアップ企業「MIRROR」を買収。MIRROR社は等身大の鏡型デバイスにライブやオンデマンドでのフィットネス講座がセットされたものを提供しており、これを活用すると、鏡に映し出されるトレーナーとともに自宅で様々なエクササイズができる。lululemon社はここにオンラインでのヨガ配信などを追加した。
これにより、鏡に映し出される顧客の行動データや運動データを入手できるようになり、より顧客とのエンゲージメントを深めることに成功。その結果、ヨガウェアの物販以外に、フィットネスプログラムの提供、インストラクターの紹介、これらサービスのサブスクリション制度などが動き出し、利用者によるコミュニティにまで発展した。
奥谷氏は、このように顧客エンゲージメントを大切にするマーケティングを、氏が提案する新たなマーケティングフレームワーク「エンゲージメント4P」の図に示した。
マーケティングの4Pは、Produce(製品)、Price(価格)、Promotion(広告)、Place(場、小売)の頭文字をとったものだ。この流れの中で、これまでマーケティング費用はPromotionにかけることが多く、顧客との接点も「顧客がモノを買う時」に限られていた。奥谷氏は、このデジタル時代、顧客との接点はモノの売り買いのタイミングだけではないとし、従来Produce→ Price→ Promotion→ Placeと一直線に並んでいた4Pを配置しなおしたのだ。
lululemon社のケースを新たな4Pで見てみると、顧客に提供する価値はヨガウェアというモノから" Empowering People"というコトに変わった。加えて新たな場(鏡型デバイス)を通じ、売り買い以外でもいろいろなデータを取得できるようにした。そうして取得したデータも踏まえ、どんなProductを顧客に提供すべきか(ヨガウェア、フィットネスプログラムなど)、Priceはどうすべきか(売り切り、サブスクリプション)、Promotionは何を提供すべきか(コミュニティ、おすすめのサービスなど)を設計していく、という流れになる。
なおこのエンゲージメント4Pの図には、4つのPを管理するCRM Programやファーストパーティデータなどを管理するData Systemが加わっている(より詳しく知るには『マーケティングの新しい基本 顧客とつながる時代の4P×エンゲージメント』(日経BP)を参照)。
