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生活者データバンク

最近のヒット商材に見る商品開発のヒント

家事や掃除の頻度が高く、実用性を重視する人が購入

 次に、購買者の状況を見てみよう。消費者個人調査のSCIデータ(※2)を確認したところ、この新サブカテゴリーの成長によりバスクリーナー市場全体の購入者数(購入率:間口)が増えたわけではなく、購入した人当たりの金額と容量(奥行)が増えていることがわかる。

図表2 バスクリーナーの購入率の推移(タップで画像拡大)
図表2 バスクリーナーの購入率の推移(タップで画像拡大)
図表3 バスクリーナーの購入者当たりの購入容量(タップで画像拡大)
図表3 バスクリーナーの購入者当たりの購入容量(タップで画像拡大)

 従来のアイテムよりも1アイテム当たりの容量が大きくなったことが、奥行の増加に関係していると思われるが、新機能の特徴と環境の変化を併せて見ながら市場変化の背景を考察していこう。

 そもそも風呂掃除が好きという人は少数派だろう。体勢がつらい、濡れるのが嫌など、できることならしたくないというのが多くの人の本音ではないか。

 「こすり洗い不要のバスクリーナー」カテゴリーの新機能は、そんな生活者の気持ちに上手く刺さったのだろう。風呂掃除の負担を軽減し、これまでよりも楽な作業に変えるというこの新機能の有する価値が、多くのユーザーに受け入れられたと思われる。

 「こすり洗い不要のバスクリーナー」カテゴリーのユーザー像を明らかにするため、SCIの「生活者360゚Viewer」(※3)を用い、このサブカテゴリーを創出した2018年発売商品の購入者のイメージ像を抽出してみた。すると、“パート・専業主婦が多め”で、“家事全般(料理・掃除・洗濯)の頻度が高く、雑貨(洗剤など)への支出割合が比較的大きい。子供・家庭を優先”ということで、元々家事や掃除への関与・関心が高い層だということが見える。

 また、消費への意識としては、“価格に見合う価値かどうかを厳選し、品質がよかったら高くても買う”“気になったらインターネットで検索し評判をチェックする”というしっかりした目を持ち、実用性を重視する層と言える。

 ユーザー像として、家事を日常的に行い、実用性を重視する人が浮かび上がってくる。そのため、より効率的に家事をこなしたい人に「価格に見合う価値」として新アイテムの「簡便さ」のコンセプトが受け入れられたと読み解くことができる。

「コロナ禍」や「高齢化」がもたらしたニーズ

 この、こすらずに風呂掃除ができるという新機能を持つタイプは、除菌が出来るタイプや、洗い流すまでの時間をさらに短くしたものなど広がりを見せて、コロナ禍に入って以降も依然として高い販売水準で、バスクリーナー市場内では従来タイプからの置き換わりが着実に進んでいる。2021年12月時点では、「こすり洗い不要のバスクリーナー」タイプトータルの金額シェアは40%を超えている(SRI+データより)。この間の市場環境や生活様式の変化を踏まえて、さらに考察してみる。

 「在宅勤務」や「外出自粛」などで、今までより家庭にいる「おうち時間」が長くなった。家庭によっては夫婦や他の家族の家事分担を見直すきっかけになるケースもあっただろう。そのような場面で、このアイテムが風呂掃除に対する面倒さを払拭し、パートナーや子供との風呂掃除の分担に関するハードルを下げることにも貢献した面もあったのではないか。そうすると、先ほど見た「簡便さ」や「時短」の対象が本人だけでなく家族へも広がったと見ることもできる。

 また、外出制限に対応し、買い物回数を減らす人も出てきた。頻繁に買い物に行くことなく効率的に買いまわるような行動をとる際に、大容量商品はこれまでよりも手に取られやすくなる。これも「簡便さ」や「時短」という効率性重視の表れと見られる。

 また、新型コロナと関係なく、ゆるやかな市場の変化として「高齢化」にともなう高齢者だけの世帯や高齢者一人暮らしの人が増加傾向にある(総務省統計局の2020年国勢調査の結果より)。風呂掃除の作業が今までになく楽になったこと、「簡便さ」は、家事の負担減という面で、高齢世帯の強力な生活のサポートになるのではないだろうか。

 上記の内容を踏まえて商品の新機能のニーズや背景を図表4にしてみた。

図表4(タップで画像拡大)
図表4(タップで画像拡大)

 今回の新機能は「簡便」や「時短」というキーワードが容易にイメージできるものだが、そこから利用シーンや背景を考え遡っていくと、現代の社会状況を表すいくつかのキーワードとさらに結びつけることができる。すなわち、成熟した市場であっても、生活者ニーズを捉え「コロナ禍」や「高齢化」にともなうさらなる生活者変化に合わせることで、使用量・購入金額を増やし活性化させた事例と言えるだろう。

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世の中の変化に対応したコンセプトの必要性

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この記事の著者

布施 真一郎(フセ シンイチロウ)

株式会社インテージ 事業開発本部 パネル事業推進部 小売店パネルグループ

 1990年、インテージ(旧社会調査研究所)に入社。小売店パネルリサーチの運用・品質管理を担当し、主に日用雑貨品を中心に市場動向をウォッチしている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2022/05/30 08:30 https://markezine.jp/article/detail/39050

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