ユーザーの声が反映された接続周り 具体的な進めかたとは
――ユーザーの声をもとに開発を行ってみた感想をお聞かせください。
私はもともと開発に近いところにいましたが、このチームには今まで開発に携わることがなかったメンバーもいるなど、いちから製品を企画することを楽しみに感じました。メンバーも社内で関わりがあった人ばかりで各分野のスペシャリストなことを知っていたので、とても良いものがつくれるのだろうなと。また、それぞれが接点を持つお客さまの気持ちやフィードバックを企画や製品に反映できるようになるのではないかと、始動した当初から思っていました。
実際にプロジェクトが動いていくと、「お客様にとってより使いやすいものをつくりたい」という気持ちは全員変わらないながらも、開発的に難しいこと、マーケティングの観点から妥協できないことなど、それぞれの立場によって意見や考えが異なるシーンもありました。新しい体制で具体的な進めかたも決まっていなかったですし、そういったすりあわせをはじめ、話し合いは頻繁にしていましたね。ただそれがネガティブな要素になることはなく、いっそう一丸となって良い製品をつくる方向に進むことができました。
――もともとグローバルな体制で製品開発を行っていたなか、企画プロジェクトチームを国内に絞ったことで別の課題は生まれなかったのでしょうか。
やはりローカライズは注意が必要な部分でしたね。今回の取り組みでも、国や地域によってお客さまの求めている環境が異なることが改めてよくわかりました。
たとえばワコムの製品では、はじめに読んでいただく簡単なガイドを用意しています。このガイドについても、これまでは多言語展開を想定しながらも1種類しか用意していませんでした。しかし実はこのガイドについて、以前から日本では「わかりにくい」という声が多く挙がっていたんです。その原因は、説明をイラストだけで描いていたこと。それが難しいと感じさせてしまう要因でした。日本のお客さまの中には、あまりパソコンに詳しくない方もいらっしゃるので、1つひとつ文字と図で書いてほしいという要望が多かったのですが、ヨーロッパはそうでもなく、絵だけでも問題ありません。アメリカはその中間だったりと、そのバランスが非常に重要なのだと思いました。
そのため、すべてを日本のお客さまに合わせてしまうと当然偏りが出てきてしまいます。それを避けるためにも、適宜海外のコアになるメンバーと意見交換を行い、フィードバックを得る機会を定期的に設けるようにしていました。
――具体的にどのような工程で、顧客の声を製品に反映していたのですか?
ワコムのカスタマーサポートでは、お問い合わせで寄せられた項目を記録していたため、Wacom Cintiq Pro 16の従来製品に対するお問い合わせの件数ランキングのようなデータがありました。「接続がやりづらい」といった特定の機能に関する意見をはじめ、まずはそのデータをベースに検討を行いました。
さらに「ここに少し手を加えるともっと使いやすくなるのではないか」といった意見をチームでお客さまに聞いたり、アイディアとして提案するなどして実装していきました。アニメスタジオからの意見や、クリエイティブな活動をしている社内のユーザーの声も参考にすることもありましたね。これらを総合的に判断し、優先すべき改善点の順位づけをしていったのです。
アップデートした部分は細々とありますが、大きく変わったのは、お客さまの声が反映された接続周りです。従来モデルでは製品にUSB Type-Cポートのみが搭載されている形でしたが、当時はType-Cが搭載されていないPCも多かったため、使いにくいという意見も多くありました。それらの声に対応するべく、別途変換アダプターもリリースしたのですが、その使いやすさについてもネガティブな声があった。そこで新モデルでは接続周りを改良することにしたんです。
たとえばWacom Cintiq Pro 16は、“プロフェッショナル向け”として、プロのクリエイターやハイアマチュアのユーザーに向けた比較的高価な製品。なにかに煩わしさを感じることなく、自分の制作に集中できることが重要です。そのため接続ポートとしてHDMIに使えるようにし、ポートの位置を横ではなく、邪魔になりづらい奥側へ移すなどのアップデートを検討しました。
発売後、SNS上に「わかってるじゃん」といったポジティブな投稿を見かけたときは、とても嬉しかったですね。