NFT連携や、Web3.0とはまだ少し遠い国内メタバース
前述した通り、大手企業の参入で日本でもメタバースが盛り上がりつつあるが、海外の状況とはまだ少し異なる。国内のメタバース成長は、マーケティング視点での活用における成長が大きい。しかし海外のメタバースはNFT、暗号資産との関連が非常に強く、様相が異なる。
前回の記事でも書いた通り、NFTや、暗号資産の活用によるメタバース上での収益化が、海外のメタバースに大きな資金が流入している理由だ。
海外ではNFT、暗号資産とメタバースを繋ぐマーケットプレイス(プラットフォーム)が同時に勢力を拡大している。その中でも「OpenSea」が最も有名なマーケットプレイスだ。「OpenSea」では、NFT・スマートコントラクト技術を活用し、デジタル上で唯一無二のモノやコトに対する所有権を証明できる。このNFT・スマートコントラクト技術を裏付けとして、メタバースの「The Sandbox」や「Decentraland」の土地、アート、キャラクター、アイテム等のVoxel Assetの購入・売却が可能であり、利用者や利用企業は収益化も可能になっている。
比較して、国内のメタバースの特徴はどうだろうか。海外ではNFT、暗号資産とメタバースの発展が非常に密接に絡み合っているが、まだ国内のメタバースではNFT、暗号資産との関連性が実はまだ薄い。よって現状では国内企業がメタバースを活用するシーンとしては、メタバースを起点としたECへの連携や送客で収益を見込んだり、前述したようにZ世代の取り込みを始めとするSNSコミュニケーションのさらなる先を見据えたマーケティング、集客の側面で活用することが中心となっている。
海外のメタバースのようにNFT、暗号資産を前提とした収益化というフェーズにはまだ国内のメタバースは至っておらず、今後の展開が注目される。以下、マーケティング・集客等で活用の可能性が高い国内メタバースの状況と、NFT・暗号資産への取り組みの現状をまとめる。
マーケティング・集客等で活用の可能性が高い国内メタバース
バーチャルマーケット
VR法人HIKKY社が運営する「バーチャルマーケット」は、バーチャルリアリティマーケットイベントにおけるブースの最多数としてギネス世界記録に認定される。

バーチャルマーケットは2021年までに7回イベントが開催されており、来場者数は100万人を超えている。JR東日本、BEAMS、大丸松坂屋等、既に大手企業の参入も多い。実際にメタバース上で商品が買える。2022年は8月に「バーチャルマーケット2022 Summer」の開催が予定されており、現状では日本で最大の集客数を誇るメタバースと言って良いだろう。
このメタバースは、米国のVR Chat社によって運営されているソーシャルVRプラットフォーム上で展開されている。「VR Chat」は、2021年の大晦日には1日の同時接続数が90,000ユーザーに達する規模となっており、「The Sandbox」や「Decentraland」に次ぐ規模のメタバースだ。その「VR Chat」は、公式にNFTとの統合を行わないと発表している。よって、そのプラットフォーム上の「バーチャルマーケット」もNFTとの連携を中止している。NFTを活用した展開については今後の動向を注視したい。
Cluster
クラスター社の「Cluster」は、2021年12月にKDDIと協力して「バーチャル渋谷」を展開。通信会社であるKDDIを象徴する5Gインフラとメタバースを繋ぐ期間限定イベントとして「バーチャル渋谷 au 5G X'mas 2021」を開催した。
2022年2月には都市連動型メタバースとして、2025年大阪・関西万博へ向けたメッセージを発信する場として「バーチャル大阪」を展開している。クラスター社CEOは、「イベント累計動員数が1,000万人を超えようとしています。」とも発言し、規模がうかがえる。

この「Cluster」でもNFTアートなどの紹介コンテンツは存在する。しかし、クラスター社も、2022年7月時点ではNFT・暗号資産のメタバース上での活用は明言されていない。
REV WORLDS
三越伊勢丹が展開する「REV WORLDS」は、百貨店が運営する点で異色といえる。仮想新宿に仮想の三越伊勢丹新宿店が存在し、店内では、友人のアバターとともに買い物ができる。また、仮想新宿を友人のアバターとともに街歩きすることもできる。

「REV WORLDS」もNFT関連技術との関わりは現時点では少ない。アバターにシャツ、ジャケット等複数のファッションアイテムを組み合わせて細かいファッションスタイルを作り上げることができる百貨店ならではの機能があり、これらのアイテムは今後課金や販売が予定されているが、仮想世界上の通貨等は未実装だ。実際に仮想三越伊勢丹新宿店内で様々なブランドとのコラボも進んでいるが、現状ではECサイトへの連携で実際のリアル製品が買える仕組みとなっている。
SKY WHALE
大手企業が進めるメタバースとして、全日空とJP GAMESが中心となっているバーチャルトラベルプラットフォーム「SKY WHALE」も頭に留めておきたい。

バーチャル空間での新しい旅体験提供する目的で、新会社「ANA NEO株式会社」も設立されている。2022年5月には、損害保険ジャパンと提携し、メタバースにおける新たな保険商品開発やサービスに関する可能性を実証する取り組みを始めている。世界の政府観光局等とも協力した体制を構築している点も全日空ならではだろう。
2022年のローンチを目指し、NFTの売買等も視野に入れたサービス開発を進めているとのことだが、2022年7月現在では具体的なアプリやサービスはまだ提供されていない。今後のサービスローンチが期待される。
以上、前回の記事では海外のメタバースに関する特徴と、企業がメタバースを活用する理由について紹介したが、今回の記事では海外と国内のメタバースの違いについて、国内で勢力を増している4つのメタバースを取り上げ、NFT、暗号資産という視点からポイントをまとめた。今、国内でメタバースをどうビジネスに活用していくか、という検討の参考となれば幸いだ。
今後の記事では、国内メタバースに関する特徴、活用例などさらに深く掘り下げ、企業の目的によってどういったメタバースが活用できるのか指針となるようまとめていきたい。
出典
・Businessnetwork.jp「ソフトバンクがメタバースに出店『Z世代に来店してほしい』」:https://businessnetwork.jp/Detail/tabid/65/artid/9205/Default.aspx
・The Sandbox - Collection – OpenSea:https://opensea.io/collection/sandbox
・An ongoing analysis of Steam's concurrent players:https://steamcharts.com/app/438100
・Our Policy on NFTs and Blockchain in VRChat:https://hello.vrchat.com/blog/our-policy-on-nfts-and-blockchain-in-vrchat
・バーチャルマーケット2022 Summer:https://summer2022.vket.com/
・Global Brain「メタバースビジネスの可能性についてClusterの代表取締役CEO・加藤直人氏に話を伺いました」:https://universe.globalbrains.com/posts/metaverse-business-another-world-attracting-10-million-people
・バーチャル大阪:https://www.virtualosaka.jp/
・REV WORLDS:https://www.rev-worlds.com/
・ANA NEO:https://www.ana-neo.com/