メタバースを構成する7つのレイヤー
メタバースは、138億年ぶりのビッグバンである――こう言うと、「大げさだ」「一過性のブームだろう」と考える方もまだ多いだろう。
しかし既に世界のメタバース市場規模は、2021年に626億ドル※に達している。2022年のIT市場が4.5兆ドルと予想されていることを考えると、決して少なくない数字だ。
メタバースはビッグバンにたとえられるほど大きなニュースであり、新しい世界の誕生であると信じてこの連載をお届けする。
※2022年4月のカナダの調査会社EMERGEN RESARCH社の発表によると、2021年の世界のメタバース市場規模は、626億ドル、2028年には1兆ドル(100兆円)に達すると予想されている。Gartner社が予想する2022年の世界のIT市場が、4.5兆ドルであることを鑑みると急速に拡大していく見込みだ。
今回の記事連載では、この急速に拡大するメタバースをマーケティングに活用するという目的のもと、客観的・体系的に分析したい。
よってメタバースの歴史については、既に多数出版されている良著に任せることにする。例えばどういったものがメタバースなのか、といった広義の条件については、国内のメタバース企業の中でも成長を続けているクラスター社CEO加藤 直人氏の著書『メタバース さよならアトムの時代』にまとめられているので、ぜひご参照いただきたい。
また、海外、国内のメタバースがなぜ成長してきているかについては、メタバースの成長要因をブロックチェーン、NFT、5G通信ネットワーク発達にあるとした私のBlog(記事1、記事2)もご参照いただきたい。
メタバースは、その何たるかについて今様々な見方や表現がなされているが、ここでは、マーケティング領域とそれ以外が最も明確に表現されている、起業家のJon Radoff氏の説明を取り上げる。同氏は、2021年4月にメタバースバリューチェーンと題してメタバースを取り巻く経済圏や、その構成要素を表現している。メタバースバリューチェーンの構成要素は以下の7つが挙げられる。
Experience(体験)
まず、Experienceは、海外・国内でいわゆるメタバースを体験できる場所であり、人気ゲームの「Fortnite」や「Roblox」、日本で言うと「あつまれ どうぶつの森」といった接点のレイヤーである。一般的な消費者が接する部分であり、一般的にメタバースって何?という質問を受けた際に直感的に頭に浮かぶ部分と言っていい。
Discovery(発見)
次にDiscoveryは、仮想空間を体験している中で新しい発見をもたらすレイヤーだ。リアルタイムで様々な風景を見たり、チャット、音声でコミュニケーションしたり、メタバース内のコミュニティ主導のコンテンツを共有したり、他のプレイヤーのレビュー、さらに仮想空間内で表現される広告、OOHや、ディスプレイ広告等もこの発見というレイヤーに属する。
Creator Economy(クリエイターエコノミー)
Creator Economyは、メタバース上で各プレイヤーが生み出す経済的価値である。過去のCreator Economyは、ゲームの開発者やサービス提供側だけが収益を得られる場所であったが、このメタバースでは、元のメタバース開発者も、後から参加しているプレイヤーもクリエイターになることができ、収益を得られる仕組みとなっている。
Spatial Computing(空間コンピューティング)
Spatial Computingは、空間を作るための仕組み、エンジンなどである。今のメタバースだとUnityやUnreal等の3Dエンジンがこの空間を作っている。この空間自体を作り上げているシステムも一つのレイヤーだ。
Decentralization(地方分権化・非中央集権)
Decentralizationは、メタバースを構成するシステムがスケーラブルな分散型コンピューティング上に構築され、さらにその上にブロックチェーン、NFTといった、こちらも分散型の金融システムが成り立っているレイヤーだ。
Human Interface(ヒューマンインターフェース)
Human Interfaceは、メタバースに参加するデバイス、つまりスマホやPC、VRゴーグルなどのことである。デバイスの製造元もメタバースを支えるレイヤーだ。
Infrastructure(インフラ)
最後にInfrastructureだが、メタバースはクラウド環境上に構築されている。このシステムインフラや、通信ネットワーク、特にスマホの場合は5Gの発展もレイヤーを支えている構成要素の一つだ。
以上、7つがメタバースを取り巻き、メタバースが成長することで経済的価値の恩恵を受けられる、または収益を得られるバリューチェーンとして成立している。
メタバースが単なるSNSの延長だという声もある。しかし、Experience(体験)、とDiscovery(発見)、さらに開発元、開発者、プレイヤーも恩恵を受けられるCreator Economyを兼ね備えたものが今まで存在しただろうか。これらを兼ね備えた今までにないバリューチェーンは、メタバースの最も重要な特長と言える。
これらの7つのレイヤーの定義に基づくプレイヤーをまとめたマーケットマップが下図だ。各レイヤーにはマーケティング、IT領域では既にご存知の企業が乱立しており、これらの企業を中心にバリューチェーンは構成されている。
この7つのレイヤーの中の、Human Interfaceに関して、一つだけ違和感を払拭したい。
メタバースと聞くと、VRゴーグルを装着しないといけないというイメージがあるのではないだろうか? しかし、VRゴーグルは、メタバースのHuman Interfaceとしてマスト条件ではない。PC、スマホからもメタバースにはアクセスできる。
今回の連載では、VRゴーグルを使わない、“今”マーケティングに使えるメタバースを前提とし、マーケティング領域の中でもデジタルマーケティングで一般的に活用されているメディア(ウェブサイト、デジタル広告、SNS、動画など)と、顧客接点で活用されるデバイス(ハードウェアサービス)、ソフトウェアサービスを使ったプロモーションに注目してメタバースの活用を考えていく。
では今、マーケティングに使えるメタバースはどんなものか、海外でのマーケティング事例をまず取り上げ、特徴をまとめ、国内でどういったメタバースをマーケティングに利用できるか、整理してみよう。