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DXが外食産業にもたらす変革とは?ロイヤルホールディングス菊地会長が語る現在地と未来

DXがもたらす変革、5つの論点

 では、DXの進展はサービス産業に対して本質的にどのような変革をもたらすのだろうか。菊地氏は「波の影響緩和・サービスの提供と消費の同時性問題の緩和・ロングテールビジネスの可能性・顧客とのつながりの変化・スケールデメリットの緩和」の5つの論点を挙げる。

波の影響の緩和

 先程触れた繁閑の差への対処として、これまでは損益分岐点の引き下げ、ピーク時の売上最大化、オフピーク時の売上補完、波の平準化が行われてきた。ここにテクノロジーを活用することで、新たな可能性を見いだせる。

 サプライサイドから見た時に、たとえばサブスクリプションの導入は定期的な収入を安定=波の平準化につながる。ダイナミックプライシングも、繁閑に合わせて価格を調整できる。1つの店舗を作ってランチとディナーで違うプレーヤーが利用するシェアリングならば、固定費を引き下げられるだろう。デジタルが進化することで、なんらかの方法で波へアクセスできるようになりつつある。

サービスの提供と消費の同時性

 外食産業では、サービスを提供した瞬間に顧客が消費をするため、どうしても起きてしまう問題があった。たとえば店舗が満員で入れなかった、ピーク時に長時間待たされた、食べたいものが品切れだったなどだ。これまでは「しかたない」の一言片付けられてきた問題に対して、様々なテクノロジーによる緩和が期待できる。たとえばプレオーダーや事前決済が進めば、お店に行ったら満員だった、売り切れだったといった問題は発生しにくくなるだろう。

ロングテールビジネスの可能性

 市場にはマスマーケットとロングテールマーケット(売れ筋とニッチ商品)がある。食の世界にも、宗教食や低アレルゲンなどロングテールマーケットは多い。しかし、人件費や賃料、投資といった、これまでの高い固定費を前提にした外食産業のビジネスモデルの場合、マスマーケットへのアプローチが不可欠だった。

 しかし、デジタルが進化することで様々な業態が生まれてきている。たとえば、デリバリーサービスが充実している今なら、駅から少し離れたエリアの安い家賃で投資も小さくしてテイクアウト専門店を展開することが容易だ。

 「固定費から解放されることで、ロングテールをターゲットにした新しいビジネスモデルが生まれる可能性があります」(菊地氏)

顧客とのつながりの変化

 情報通信の発達は企業と顧客の間にあった情報の非対称性を解消してきた。顧客にとって、以前は行ったことがない店の価格や味はわからなかった。しかし、現在ではSNSや口コミで得た情報を元に店舗を選択することが一般化している。さらに、アプリなどによって飲食店側が顧客とオンラインでつながりを持ち始めた。顧客のニーズを察知して、最適なものをレコメンドするといったコミュニケーションがオフラインでもオンラインでも可能になっている。

スケールデメリットの緩和

 製造業の場合は、一度に大量生産することでコストを下げる(規模の経済)、同一製品の累積生産数が増加するとコストが下がる(経験曲線効果)というスケールメリットの恩恵を受けられる。しかし、サービス産業の場合は分散型拠点であるため、一定の規模を超えると陳腐化や自社同士での競合が発生する。また、サービスの個別性ゆえに経験曲線効果も得られにくい。外食産業は、スケールすることでデメリットが発生する矛盾を抱えている。

 しかし、分散型拠点をデータで結びつけられれば支援機能を簡素化したり、顧客データに基づいた商品サービスの提供といった、個別化の発揮をサポートしたりできる。デジタルの活用によって、規模のデメリット問題も緩和できるだろう。

 「元々サービス産業、特に外食産業はコロナの前から様々な制約や課題を抱えてきました。今、申し上げた5つの論点を組み合わせると、本源的な課題を解決していく可能性があるのではないか。それが私の認識です」(菊地氏)

 波が緩和できれば生産性も向上できるかもしれない。ロングテールを実現すれば、単価を上げられるかもしれないし、低密度のエリアに出店できるかもしれない。顧客との新たな接点ができれば、今まで差別化ができなかった顧客にアプローチができるかもしれない。元々の課題や制約をDXが解放していく可能性があるわけだ。

再度問われる、リアルな場が与える価値

 「次にもう一度問われるのは、リアルな場所の価値です」(菊地氏)

 DXの可能性を示した菊地氏は、さらに新たな問題を提起する。オンラインで多くの物事が完結するようになってきている。レストランでしか食べられなかった食事も、スマホで注文して家で楽しめる。今、わざわざ店舗に赴く価値とは何か。

 一口に価値と言っても、コストパフォーマンスなど他と比較できる価値=valueではなく、生活者にとっての絶対的な価値=worthが問われるようになる。そして、worthを提供するためのヒントは、これまで挙げてきた課題の“緩和”にあると菊地氏は考えを示す。

 「行列に並ぶ満足感や、その一瞬でしか体験できない価値、スタッフとの思いがけないコミュニケーションや一期一会の世界。これらは制約が解消されたら無くなりますが、それでは面白くありません」(菊地氏)

 産業社会の進化は、時間を短縮し空間を圧縮するプロセスだった。しかし、時間が短縮されると、人間はストレスを感じるものだ。短縮された時間と圧縮された空間を、いかに価値のあるものにしていくかが、今後、外食産業やホスピタリティ産業が担う役割だと菊地氏は語る。

 「DXと、サービス産業がどのような関係性を持っていくのか、しっかり考えていくことが大事なポイントだと思います」というメッセージで菊地氏は講演を終えた。

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MarkeZine編集部(マーケジンヘンシュウブ)

デジタルを中心とした広告/マーケティングの最新動向を発信する専門メディアの編集部です。

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MarkeZine(マーケジン)
2022/08/26 09:00 https://markezine.jp/article/detail/39664

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