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リゾームマーケティングの時代

メタバース普及の鍵を握るコピー技術、そして、ネオ・ヒューマンの人権が課題になる【後編】

オリジナルの秘密は「組み合わせ」にある

 同じ両親の遺伝情報を受け継いだのに、兄弟・姉妹の特徴が少なからず異なるのは、両親から受け継ぐ遺伝情報の組み合わせが、それぞれ異なるからだ。つまり、個性とは何かといえば、情報の組み合わせの差異なのだ。オリジナルの秘密は、組み合わせにあるのだ。

 この情報の組み合わせの他にも、オリジナリティを生み出す要因はある。たとえば、一卵性双生児の場合、まったく同じ遺伝情報をもって生まれてくる。にもかかわらず、当然のことだが、同一の人間ではないし、寿命も異なってくる。

「一卵性双生児の研究からは、長寿に対する遺伝子の影響が10~25%であることがわかっている。どう考えても、驚くほど低い数字というほかない。DNAが私たちの運命を決めているわけではないのだ。」(出典:『LIFESPAN(ライフスパン)―老いなき世界』デビッド・A・シンクレア,マシュー・D・ラプラント著)

 DNAが運命を決めているわけではない。それでは、私たちの運命の支配者は誰なのか?私たちの存在を、単なる親のコピーではなく、唯一無二で非代替性(Non-Fungible)のオリジナルにするのは、いったい何なのか?

 その答えは、生命科学的には「エピゲノム」ということになる。私たちは、生きていく間に経験する周囲の環境や生活習慣がそれぞれ異なる。それぞれが異なった現実の事象の中で生きていく。つまり、親からコピーした遺伝情報の組み合わせだけではなく、生きている現実の事象の組み合わせも異なるし、さらに、それらの事象に対する個体の反応の差異の組み合わせがそれぞれ異なる。その組み合わせの差異は積み上がり乗数効果となって、幾何級数的に組み合わせのパターンが増加していく。文字通り、そのパターンは無限にある。

 その組み合わせによって、どの遺伝子が機能し、どの遺伝子が休眠状態になるかが決まる。コピーした情報の組み合わせ、および、経験と反応の組み合わせと言ってもいいだろう。それが、単なるコピーが、オリジナルに飛躍する原動力だ。

「いうまでもないが、私たちの体をつくる細胞には、すべて同一のDNAがしまわれている。だとしたら、神経細胞と皮膚細胞の違いを生んでいるものは何なのか。その答えがエピゲノムだ。前章でも触れた通り、どの遺伝子のスイッチを入れ、どの遺伝子をオフのままにしておくのかを、調節するための仕組みと構造の総称がエピゲノムである。私たちの生命活動を実際にコントロールしている割合で行けば、ゲノムよりエピゲノムのほうが圧倒的に大きい。」(出典:『LIFESPAN(ライフスパン)―老いなき世界』デビッド・A・シンクレア,マシュー・D・ラプラント著)

 ある特定の遺伝子がONになったりOFFになったりする要因は、現在の科学では明確には解明されてはいない。たとえば、その因子はわからないが、ガンという病気も、発ガン遺伝子とガン抑制遺伝子のバランスが崩れて発病する。

「ガンという病気が治療しにくいのは、発ガン因子が多様なためですが、そこに精神作用を含めた環境因子が大きくかかわっているからだと思います。ガンには発ガン遺伝子とガン抑制遺伝子があって両者のバランスが崩れたときに発病することがわかっています。」(出典:『生命の暗号』村上和雄著)

AIは個性を持ち、オリジナルになっていく

 IT技術の進歩は、オリジナルとコピーの攻防を激化させる。そして、「オリジナルとは何かを問い直す」。単なるコピーがオリジナルに飛躍する秘密が、コピー情報の組み合わせパターン、および、経験と反応の組み合わせパターンにあるとすれば、コンピュータにも同じことができると気づかされる。

 つまり、オリジナルとコピーの攻防の末に、人間に個性があってオリジナルであるのと同様に、AIにも個性があってオリジナルになっていく

「ちゃんとプログラミングされていないからミスがゼロではないが、人間が想定できない状況にも対応できるというAI=機械学習の特質は従来のプログラムを軸にしたコンピュータとはまったく異なる。たとえば、最近話題の自動運転を例に取ろう。人間がきちんとプログラムするノイマン型の計算機でこれを実行しようとすると、あり得るすべての状況を人間が想定する必要がある。この困難のために、自動運転はなかなか実現しなかった。これはフレーム問題といって広義のコンピュータにおける難問の一種である。

 だが、AI=機械学習はそもそも、人間がプログラミングしていないので、一〇〇%の精度での動作が保証できない代わりに、人間が想定しない状況にも対応できる(これを汎化という)。このAI=機械学習の進歩なくして、自動運転が現実に実装可能な技術として脚光を浴びることはなかっただろう。<中略>いつも正確に同じことを繰り返すことができないのと引き換えに想定外の事態にも対応が期待できる。生命体が接する環境はどのように変化するかわからず、フラジャイルなシステムでは対応できない。その意味では現実への対応において、ロバストなAI=機械学習と同じような戦略を生命体が採用したのは偶然ではないだろう。もっとも生命体の学習時間は何十億年もあって桁が違うわけだが。」(出典『生命はデジタルでできている 情報から見た新しい生命像(ブルーバックス)』田口善弘著)

 この「AI=機械学習と同じような」特質を生命体が持っているというよりは、生命のほうが歴史が長い訳だから、AIが生命の仕組みを模倣したのだ。だから、生命に個性があるように、AIにも個性があってオリジナルな反応をするようになる。

 アイドルのCDは、アイドルの声や楽曲をコピーして再生するものだった。コピーはコピーであって、そのままでは、オリジナルの個性に進化・発展する余地はない。

 だがAIには、オリジナルのコピーからはじまりながらも、コピー情報の組み合わせパターン、および、経験と反応の組み合わせパターンを経て(つまり、学習時間を経て)、オリジナルの個性に進化・発展する余地がある。

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この記事の著者

有園 雄一(アリゾノ ユウイチ)

Regional Vice President, Microsoft Advertising Japan

早稲田大学政治経済学部卒。1995年、学部生時代に執筆した「貨幣の複数性」(卒業論文)が「現代思想」(青土社 1995年9月 貨幣とナショナリズム<特集>)で出版される。2004年、日本初のマス連動施策を考案。オーバーチュア株式会...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

MarkeZine編集部(マーケジンヘンシュウブ)

デジタルを中心とした広告/マーケティングの最新動向を発信する専門メディアの編集部です。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2022/09/09 08:00 https://markezine.jp/article/detail/39796

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