“自分軸”が強いZ世代の購買行動を踏まえ、最低限必要な条件
こうして規定されたブランドストラクチャーを「1:言葉」「2:デザイン」「3:行動」の3つのアプローチで、表現フレームやガイドラインに落としつつ、ブランドマネジメントをするのがブランディングです。プロダクトやサービスのFACTを基本に、価値、パーソナリティ、ブランドエッセンスの順に一貫した規定を行い、それを言葉やデザインや行動に統合的に落としていく。それを組織的にマネジメントしていくのがブランディングの基本と言えます。
では、Z世代をターゲットにする場合のブランディングは何が違うのか? ここからは具体例を挙げながら説明していきたいと思います。
MERYでは「haomii(ハオミー)」というコスメのD2Cブランドを展開しています。モデル、インフルエンサー、女優として活躍する橋下美好さんと一緒に作った、リップティントのブランドです。

そもそもの前提として、商品の機能的価値がしっかりしていることはZ世代においても非常に重要で、haomiiでも機能的なFACTや価値を研ぎ澄ますことにはかなり注力しています。理由は複数ありますが、まずは商品に関する情報量の違いがあります。膨大な数のマイクロインフルエンサーがSNSでレビューやまとめコンテンツを展開しており、その情報量は口コミサイトの比でありません。商品の価値がマイクロインフルエンサーによって細分化・パーソナライズ化されていくので、FACT(機能的価値)はより細やかに設計する必要があります。
加えて、Z世代の価値観として「自分軸」が強いことも関係しています。「自分らしさ」を大切にするZ世代は、「誰かが良いと言ったから」「社会がこれを良しとしているから」という理由だけでは動きません。購買行動においても「自分を納得させる理由を探して、検索や検討をていねいに行う」特徴があると言われています。マイクロインフルエンサーが発信する「良い商品」の情報に触れ、「流行っているし、気になるな」という感情は持ちつつも、情報収集と検討を様々なメディアで行うのです。

これは「興味を持ったから、検索して裏どりする」という旧来の購買行動とは少し異なります。「自分に合うかどうか、本当に欲しいかどうかを見極めるために検索する」という“自分軸”でのより深い検討行動だからです。こうした購買行動を前提に考えると、商品の機能的なFACTや価値を研ぎ澄ますことがなぜ重要なのか理解ができると思います。
論理的なブランディングの先にある落とし穴
ここまでは、従来のブランディングとそれほど違わない、論理的一貫性を基本としたブランド設計となっています。ところが、この延長でブランドを表現すると「好きになってもらえないブランドになってしまう」という落とし穴があります。
haomiiを開発する時に実際にあった話なのですが、当初、ブランドのキービジュアルには3つの案がありました。haomiiのブランドコンセプト「A step with you」と「自分らしく生きるために、ちょっと勇気をもって一歩踏み出す。そんな瞬間に寄り添うコスメ」というパーパスに沿って作ったもので、ブランドプロデューサーである橋下美好さん自身が自分らしさをさらけ出すような「オフショットを用いたキービジュアル」「“自分らしさ”という多様性を表現したキービジュアル」「自分らしさを求めて生きる女性像を表現したキービジュアル」の3案です。権利の関係で実物はお見せできないのですが、パーパス(ブランドコンセプト)から論理的につながった案でした。

どの案も間違っておらず、「良さそうだね」と検討したものの、結果的にはすべて不採用となりました。もっと素直に、シンプルに「かわいい」「私もこうなりたい」と思えるビジュアルにしよう、となったのです。