「毎日のライブ配信」による親近感がもたらす応援の価値
お金や時間では培えない価値の可視化は、ゲーム上だけではなく、別のシーンでも重要視されています。近年、配信者と視聴者のコミュニケーションに特化した配信アプリが増えています。世界で5,000万以上の登録者数を有するライブ配信アプリ「17LIVE(愛称:イチナナ)」もその一つです。
17LIVEは、配信者(以下、ライバー)は配信中の視聴者(以下、リスナー)の入室やコメントに反応し応答することで話を進めていきます。
システムは、ギフティング(投げ銭)以外に「連続視聴回数」や「コメント数」などに応じてリスナーのプロフィールの色やマークなどが変わる機能があります。このプロフィールの変化は、ライバーにも他のリスナーにも表示され、誰がどれだけ通ったか話したかが瞬時に認識できるようになっています。
ギフティング(投げ銭)だけに留まらない「毎日通う」「コメントの数」といった尺度による応援の量の可視化は、ライバーとリスナーの関係性の深さや心の距離にも反映されます。ライバーは毎日配信し、リスナーは毎日コメントすることで、配信が双方の日常生活の中に組み込まれていきます。
ライバーの小林明日香さんにお話を伺うと、「毎日同じ人が来てくれることに安心するし、リスナーの曜日ごとの予定なども覚えられるようになった」と感じているそうです。リスナーの中には、連続視聴数160回以上を示すマークがプロフィールについている人もいるそうで、「(マークについて)一緒に喜ぶことで、より心のつながりが深まる」と言います。
このように、応援している気持ちが可視化され、ライバーとリスナーの関係性に価値を生み出していることがわかりました。

ファンの中での自分の順位を知る「全国一斉ONE PIECEナレッジキング決定戦」
最後の事例として、購入金額以外での推しに対する愛の深さが可視化されている事例を紹介します。それは、漫画雑誌ジャンプ系列の合同イベント「ジャンプフェスタ2022」の一つである、人気マンガONE PIECEに対する知識の量を競う「全国一斉ONE PIECEナレッジキング決定戦」です。
3万人弱が応募した予選は4ジャンル100問の出題に答える試験形式になっています。点数に応じて上位10人が進出できる決勝戦への出場権に加え、試験を受けた人全員に点数と順位が書かれた成績表が与えられます。成績表は上位者だけではなく、中学生以下の子供が獲得できる表彰状や、作品にまつわる数字の順位だった人が獲得できる特別賞などがあり、成績下位者でも楽しめるようになっています。
たとえば、5656位の人には「ゴムゴム賞」が与えられます。このように、公式が定めた同じ問題・基準からファンの中での自分の順位がわかり、誰でも成績表やグッズなどを獲得できるチャンスがあることで、多くの人の参加意欲を高めました。その結果、コアなファンだけでなくライトなファンも取り囲み、それぞれが自身の作品愛を証明できる機会となりました。
いつの時代・どの業界でも、ファンのコミュニティーの中で、誰がどれくらい好きなのか、それぞれの順位を探り合う傾向はありました。たとえば、ファン歴が浅い人を「にわか」、長い人を「古参」と呼び、すべてのイベントに参加することを「全通」と呼ぶなど、ファン同士でそれぞれが序列をつける用語があります。
しかしONE PIECEナレッジキング決定戦では、グッズの購入額やイベントの参加率ではなく、作品をどれほど知っているかという「知識量の可視化」にフォーカス。公式が定めた問題で全員が同じ基準で戦い、その中で自分の順位を知ることができるのです。そして公式に自分の作品愛を認めてもらえる点が、多くのONE PIECEファンの心を惹きつけました。