一企業の独占は、自由と民主主義を脅かす
では、我々は、どんな世界に住みたいのか? 2018年のGDPRが契機となり、このファンダメンタルな問いを、ここ数年、私なりに考えていた。その結果、Microsoftで働くことは、社会的な意義が大きいという信念に至り、今回、偶然の成り行きも重なり、Microsoft Advertisingの仕事をすることになった。
既に10年以上前だが、私はGoogleで働いていた。当時のGoogleは、日本においては、まだYahoo! Japanよりも小さな存在で、我々は「Yahoo!に追いつけ・追い越せ」という気持ちで日々の業務に励んでいた。
今では、Yahoo! Japanの検索エンジンにはGoogleが採用されており、検索エンジンの市場シェアの約9割がGoogleになっている。つまり、日本の個人の検索履歴データは、一つの企業にほぼ独占されてしまっている。誰が何を検索したのか、どんな情報を探しているのか、どんなリンクをクリックしたのか、検索エンジンに関わる情報は、一社に集約されてしまっている。
はたして、これで良いのだろうか?
私は今でも、Googleという会社は好きだし、昔の同僚たちは皆、Googleのミッションを信じてより良い世界を構築するために一生懸命に働いていた。それは今でも変わっていないはずだ。そして、Google社員に、悪意はまったくない。
問題は、2位の検索エンジンが「Googleに追いつけ・追い越せ」という努力を放棄してしまったことだろう。それぐらい、Googleは圧倒的に使いやすく便利なシステムを提供し続け、その努力の結果として、ほぼ独占的な市場シェアを握ったと思う。
つまり、Googleにチャレンジする人間も企業もいなくなってしまった。チャレンジしない側の問題だと感じている。
であるならば、誰かがGoogleにチャレンジしなければならない。そうしなければ、情報の偏り・間違いが必然的に起こり(既に起こっている)、知らず知らずのうちに、自由と民主主義にダメージを与えてしまうからだ。
健全なライバルが健全な社会を作る
8月16日のWIREDの記事「Google Search Is Quietly Damaging Democracy」が、文字通り、Google検索が静かに民主主義にダメージを与えていると指摘している。
「The problem is, many rely on search engines to seek out information about more convoluted topics. And, as my research reveals, this shift can lead to incorrect returns that often disrupt democratic participation, confirm unsubstantiated claims, and are easily manipulatable by people looking to spread falsehoods.」
(意訳:問題は、多くの人がより高度に社会的で複雑なトピックに関する情報も、検索エンジンに依存する人が多くなったことだ。多くの調査で明白になっているように、この傾向は間違った結果につながるのだ。つまり、民主的に参政権を行使することを妨害したり、実態的な根拠のない主張に確証を与えたり、虚偽の情報を流しデマを広げようとする人々によって容易に操作されてしまったりするということだ。)
当たり前のことだが、人間が作ったAIには人間の偏見が反映されていて、AIにははじめから、偏見がビルドインされている。その結果、当然、検索エンジンの情報には、偏りや間違いが少なからずある。いやいや、それでもGoogleはかなり良いほうだと思う。だが、どんなに善意に基づいた検索エンジンであっても、100%完璧なものはない。しかも、権威的になってはいけないし、使う側も盲目的な信者になってはいけない。
「知らないうちに水道の水が汚染されていた感じだ」と私の知人は表現した。このGoogleの検索エンジンが静かに民主主義にダメージを与えているというWIREDの記事は、Google信者にはショッキングだったようだ。
一方で、だからこそ、既にMicrosoft Bingや Microsoft Edgeに乗り換えた。あるいは、危ないので、いつも併用している。そういうユーザーも増えている。
我々は、どんな世界に住みたいのか? 健全な社会には、競合する複数の検索エンジンがあって、ニーズに応じてユーザーが使い分けたり選べたりするほうがいい。
一社独占は社会的悪になりかねないのだ。だから、Googleも困っているはずだ。自分達には悪意はまったくないのに、努力の結果、強くなり過ぎてしまった。そして、不当にも批判を浴びてしまう。だから、一刻も早く、ライバルのMicrosoft Bingに強くなって欲しいと。