SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

直近開催のイベントはこちら!

MarkeZine Day 2025 Retail

WHO/WHATを解き明かす、上流マーケティングの10ステップ

WHO/WHATを解き明かす「上流マーケティングの10ステップ」とは

STEP7-10:ポジショニング

 一般的に、ポジショニングと聞くと、2軸のマップ(ポジショニング・マップ)で、競合と自社とのマッピングをイメージする方も多いと思いますが、実際は、より詳細な成果物が必要になります。良いポジショニングとは、ターゲットの頭の中に「ニーズを満たす便益があり、なおかつ独自性」を築くことです。そのためには、ターゲットの言語化できていないニーズに切り込み、インサイトを発掘し、それをポジショニングに反映させる必要があります。これまでのステップで定めたWHOに対して、正しいポジショニング、つまりWHATを定めていく方法を解説します。

STEP6:デプスインタビュー(N1インタビュー)

 デプス(depth)とは「深さ」を表す言葉で、対象者の深層心理に迫ることのできる定性調査の一種です。西口一希さんの著書『たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング』(翔泳社刊)の影響もあり、このターゲットとなる顧客像を絞り込んだ上で、インタビューなどで徹底的にその顧客のことを分析する手法は有名だと思います。

 STEP1-5を経て明確になったターゲット顧客に対して、深くインタビューを実施します。ここでは、ある程度セグメントを切って、ターゲティングが完了しているので、聞く内容が人によって異なります。上記で話したアルコール飲料の例でいくと、「どのようなアルコールが好きですか? それは、何故ですか?」といった一般的な質問ではなく、「自分ではお酒が弱いと思っているのは何故ですか?」とか「何故、カクテルではなくワインを好んで飲むのですか?」といったセグメンテーションに応じた深いインタビューを行うことが可能です。

 デプスインタビューの方法論については様々な説がありますが、大切なのは自然な会話の中で、多くのオープンクエスチョンを投げかけることです。

 定量調査とは異なり、会話の中からインサイトを発掘することが最大の目標です。Yes /Noで答えられる質問ではなく、ターゲット顧客ができるだけ自分の言葉でたくさんの発言ができるような自然な流れの会話を生み出す必要があり、インタビュアーは何度も経験を積む必要があります。

STEP7:インサイト発掘

 STEP6のデプスインタビューの最も重要な成果物は「インサイトの発掘」になります。インタビューを終えたら、すぐにインサイトを探るために、このステップに移ってください。

 インタビューを通じて、ターゲット顧客自らがニーズを口にし、それをインサイトとして取り扱うことは危険です。インサイトとは、まだ言語化、顕在化されていないニーズなので、インタビュー中に、既にターゲット顧客自身が明確に説明できているものは、インサイトとはみなしていません。消費者が自分の言葉で、「~が欲しい」や「~に困っている」と表現するものは、“顕在化しているニーズ”です。そうではなく、市場の一般的な常識になっていない、消費者がはっきりと言語化できていないニーズ=顕在化していないニーズを、インサイトと定義しています

 そして、インサイトを発掘していくためには、「1.ターゲットの表面的なニーズ」「2.ターゲットが持っている既成概念」「3.既成概念の奥にあるインサイト」の順に考えていくことを推奨します。

1. ターゲットの表面的なニーズ : インタビューで実際に発言していた言葉や、量的調査で見えている事実ベースでの表面的なニーズ

2. ターゲットが持っている既成概念 : ターゲットが抱えている不満やニーズに対して、事実とは異なり、ターゲットが思い込んでしまっている勘違いや、既成概念、固定観念など

3. 既成概念の奥にあるインサイト : ターゲットが、まだ言語化できていない本質的な不満や、既成概念を解いてあげるための気づきなど

 何度もインタビューを聞き返したり、ターゲット顧客の深層心理を読み込んで、塾考する必要があります。また、ターゲット顧客が行っている行動を真似して、購入するサイトを訪問したり、お店に行くなどをして、本人が考えていることをいかに想像できるかが、インサイトを発掘できるかの鍵になります。実績のあるマーケターの方が、実際にプロダクトやサービスを使いこむ理由の一つがインサイト理解のためです。

STEP8:タスクマップ

 このステップでは、ここまでで決定した「獲得を狙うセグメンテーションのターゲット群」の現在の行動や思考を整理します。このステップをはさむことで、次のコンセプト設計がロジカルになります。

 まずは、ターゲットのユーザーが、現状とっている行動を書き出します。たとえば、「自社製品ではなく競合のA社の製品を購入している」など。その下に、その行動における思考を書き出していきます。ここに、STEP7で作成したインサイトの要素を抽出して書き出していくことがポイントです。

 そして次に、書き出した現状の思考や行動をどのように変えてもらいたいか、つまり自社によって理想の状況を書きます。たとえば、思考では「XXX(自社製品)だったら、自分の今のこんな困っていることや、現在使用している製品の不満点を満たしてくれるかも」、行動では「街角のドラッグストアでXXX(自社製品)を買う」「SNSで検索する」などです。下記はフォーマットのイメージです。

クリックすると拡大します

 上記のまとめを経て、現在自社ブランドを使用していないターゲット顧客の思考と行動から、自社ブランドを使用する思考と行動になる状況を言語化するのです。

 ここまでのステップが完了したら、現状の思考と行動を理想のものに変えていくための、トリガーとバリアーを考えていきます。トリガーは理想の行動をとるきっかけであり、バリアーは理想通りにならない要因を指します。当然ですが、トリガーを押して、バリアーを取り外せば、ターゲット顧客は、現状の行動から理想の行動に移っていきます。

STEP9:コンセプトライティング

 このステップでは、実際にコンセプトを書いていきます。フォーマットは、冒頭で紹介した1枚のシートです。パワーポイントで、1つのコンセプトを、1枚のスライドに表現するのが良いでしょう。

 内容としては非常にシンプルで、1枚のスライドの中に、下記の4要素を入れてください。

(1)インサイト: ターゲットが、まだ言語化できていない本質的な不満や、既成概念を解いてあげるための気づきなど
(2)サービス紹介&ベネフィット:製品紹介を機能と共に、一言でまとめたもの
(3)RTB (Reason To Believe):メインで言いたいことを裏付ける、細かい特徴や機能 (1~2つ目安)
(4)ビジュアル:製品やサービスのイメージがわかるような画像

「WHO/WHATの10ステップ」で作る、コンセプトシート(クリックすると拡大します)

STEP10: コンセプトテスト&ロック

 いよいよ、最後のステップになります。コンセプトができたら満足してしまい、その後ターゲット顧客に見せることなく、プロダクト開発やコミュニケーション設計に進んでしまうブランドも多いのですが、最後に改めてテストを行うことを推奨します。大型の投資をともなう新製品やリブランディングであれば定量調査と定性調査を、そこまでコストをかけないものであれば、定性調査でコンセプトシートを見せながらターゲット顧客の反応を聞くと良いと思います。

 テストが必要な理由は、ターゲットに対して受け入れられるコンセプトであるかどうかを確認するとともに、既存顧客が離れてしまうようなコンセプトになっていないかを判断する必要があるためです。時間と労力をかけて行ったリブランディングにも関わらず、新規ユーザーは獲得できたが、それ以上に既存ユーザーが離れてしまったという例は決して少なくありません。こちらのテストを踏まえて、最後の微調整を行い、コンセプトを最終化してください。

 以上、WHO/WHATを構築する具体的な10ステップの方法の全体像を説明しました。次回からは、それぞれのステップで行っていく実務レベルでの内容を、より具体的かつ事例を交えながら説明をしていきます。

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • Pocket
  • note
WHO/WHATを解き明かす、上流マーケティングの10ステップ連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

木村 元(キムラ ツカサ)

株式会社Brandism
代表取締役

ユニリーバに2009年に入社。約12年間、ラックスやダヴなどのブランドマーケティングを経験。国内を中心とした360°のプロモーションから、グローバルのブランド戦略や製品開発まで、幅広く従事。ロンドン本社にてダヴを担当し、グローバル全体のブランド戦略設計をリードした後、20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2022/10/04 10:25 https://markezine.jp/article/detail/40069

Special Contents

PR

Job Board

PR

おすすめ

イベント

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング