未顧客をどのように理解するか
今回紹介する書籍は、『“未”顧客理解 なぜ「買ってくれる人=顧客」しか見ないのか?』。著者はコレクシアでマーケティングプランニング局長を務める芹澤連氏です。
芹澤氏は未顧客理解の第一人者として、事業会社やメーカーのマーケティングや事業拡大を支援すると共に社内研修などの講師を務めています。数学、統計学、計量経済学、データサイエンスなどの理系アプローチと、心理学、文化人類学、社会学などの文系アプローチの両方に広く精通する人物です。
本書では様々なエビデンスに基づいて、未顧客理解の原理原則を解説しています。特長は、既存顧客の満足度を高めるという視点ではなく、商品やサービスを買わない「未顧客」をどのように理解し、その知見をどのようにマーケティングに落とし込むか、購買につなげるかという視点でその事例や実践に向けたスキルを解説していることです。
既存のマーケティングにおいては目に見える顧客のデータを追うことが多いなか、目を背けがちな未顧客の心理。そのような顧客ではない人を理解するにはどうしたら良いのでしょうか。
生活文脈を理解する
従来のマーケティングにおいては未顧客を「特定の価値観や考え方をしているから関心がない」と考え、そのペルソナを作ってターゲットにします。しかし、実際は自分の価値観に合うか合わないか以前に「ただ無関心なだけということをわかっていない」と芹澤氏は述べています。
では、どのように未顧客をターゲットにしていけばよいのでしょうか。芹澤氏は次のように述べています。
“未”顧客の場合は「人」ではなく「文脈」をターゲットにすることを提案します。(P.74)
本書における「文脈」とは生活上の様々なシチュエーションのこと。芹澤氏は文脈をターゲットにする、ブランドの価値を生活にある文脈になぞらえて心理的、物理的に結び付けることが重要であるといいます。
本書では、未顧客の文脈を理解し、購買のきっかけとブランドを結び付けるための考え方を解説しており、その原則として次の5つを提起しています。
- 文脈が変われば意味が変わり、意味が変わると価値も変わる。
- 未顧客は本来戦うべき市場を見通すための「レンズ」である。
- 行動の背後にある欲求、抑圧、報酬から「顧客の合理」を理解する。
- 「ブランドの特徴」×「顧客への報酬」=文脈最適のベネフィット。
- モノの売り方ではなく、モノが使われる行動の増やし方を考える。(P.112)
“未”顧客を軸にした新しい市場の開拓
本書は、上記の原則を具体例を用いながらわかりやすく解説しているのも特長の一つです。2つ目の原則「未顧客は本来戦うべき市場を見通すための『レンズ』である」については、近年大きく成長しているワークマンの事例が紹介されています。
ワークマンは元々メインターゲットが建設や工場の現場で働く技能労働者。したがって狙っている市場も低価格で高機能な作業服を提供する市場でした。しかし、高機能な作業服は日常生活でも価値になるのではと視点をシフトすることで「低価格の高機能ウェア」というブルーオーシャンの市場を発見したそうです。
芹澤氏はこの事例から次の学びを共有しています。
「小さいカテゴリーや性年代といった既存の視点で市場をくくるからその人たちは未顧客なのであって、より広い別のくくりで捉えれば顧客になるのではないか」(P.120)
今当たり前になっている市場の定義を一度取り払い再定義することで未顧客の裏にある既存顧客とは別の大きな市場が見えてくる。未顧客は今の市場から別の市場を見るためのレンズのような役割を果たすと語っているのです。
本書ではこのように、未顧客やその文脈を軸にすることで既存とは異なるマーケティング手法を説明。1~4章では基礎的な考え方や前述の原則への解説、5章ではブランドを再解釈するためのケーススタディを多数掲載しています。
新規顧客獲得の手法に手詰まりを感じる方や、顧客心理をより深く理解できるようになりたいという方は参考としてぜひお手に取ってみてください。