顧客体験向上のカギは「おせっかい」
南雲氏は3つ目のポイントとして、顧客への「おせっかい」を挙げた。おせっかいは重要なキーワードであり、顧客体験の向上に直接寄与する部分だ。社内でも「おせっかい戦略」と名付け、店舗を感動体験の舞台にするため「顧客のニーズに合ったおせっかい」を展開できるよう、様々な取り組みを実施しているという。
「来店されたお客様に対し、おすすめの商品を紹介する、一番美味しい状態で食べていただけるよう配慮するなど、全スタッフが積極的におせっかいできる状態が理想です。もちろん、おせっかい戦略は、店舗だけでなく全社的に取り組んでいます」と南雲氏。おせっかいしやすい店舗設計、マーケティング、教育などすべての部門で共通して「よりおせっかいをしていくにはどうすればいいか」を意識して戦略設計を行っていると説明した。
また、社員がおせっかいに積極的になれるようなマインドを醸成するため、店舗でおせっかいの心得を掲示したり、社内新聞や社内SNSでおせっかい事例を共有したりなど、様々な方面から社員に伝え続けているという。

DXは、顧客体験を向上する手段の1つにすぎない
もう1つ、顧客体験価値向上につながる重要な項目として、南雲氏は「顧客体験価値の拡張・進化」を挙げた。時代や顧客ニーズの変化に合わせて、スピーディーに柔軟に対応する。しかし、ブランドらしさを損なわず、自分たちの根源的な価値を忘れず磨き、進化させることが大事だという。
丸亀製麺では、時代に合わせた拡張として2021年4月からテイクアウト・デリバリー事業をスタートした。できたての美味しいうどんを食べられるという価値を損なわずに、店舗外でも楽しんでもらえるよう1年かけて試行錯誤した末に発売された「丸亀うどん弁当」は、発売から1年で約2,000万食を販売。多くの顧客から支持される人気商品となった。
また南雲氏は、「最大限おせっかいに時間をかけられる状態にすることを目的に、DXも推進しています。現在、様々な企業が様々な目的を持ってDXに取り組んでいると思いますが、我々の場合は顧客体験を向上するための1つの手段と位置づけています」と語った。丸亀製麺では、CX(顧客体験)・SX(店舗体験)・EX(従業員体験)の3つをDXでサポートし、さらにおせっかいに費やせる時間を生み出している。
各項目が向上したかどうかを判断する指標として、南雲氏は「CX(顧客体験)」においては「来店者の再来店意向を始めとした各種データ」を、「SX(店舗体験)」は「NPS(顧客推奨度)」、そして「EX(従業員体験)」には「eNPS(職場の推奨度)」を用いると説明した。各指標が向上していくと最終的にはLTVが向上し、事業の持続的な成長につながる。

南雲氏は繰り返し「顧客体験価値を上げることは全社の課題でもあり、マーケティング部門の最重要課題」であるという点を強調。顧客体験価値を向上するためにまずはマーケターが自分ごととして認識し、全社をリードしていく意識を持つべきだというメッセージを投げかけた。
「今後より一層、マーケティングの力が必要とされる時代になっていると思います。我々マーケターの知と思いを結集し、マーケの力で自社ビジネスはもちろん社会と暮らしに大きく貢献し、一緒に日本を元気にしていければと思います」と南雲氏はセッションを締めくくった。