機能的価値だけでなく、情緒的価値の重要性も理解しよう
2つ目のポイントは、「ブランド戦略の多層化」だ。丸亀製麺は以前からブランド力の向上に注力してきたが、顧客体験価値の向上もセットで考え、両軸で施策を実行しているという。
「ブランド力と顧客体験価値の向上、この2つが顧客から選ばれる確率を上げる存在だと捉えています。その2つが重なる部分、戦略の中核となるのが、我々だけが提供できる感動体験、いわゆるUSP(Unique Selling Proposition)です。顧客起点に言葉を置き換えると、『自分にとってなくてはならないブランド・お店』と思っていただくための戦略を展開することとなります」と南雲氏は説明した。

丸亀製麺はできたてのうどんを提供することにこだわり、すべての店舗で麺職人が粉からうどんを作る。それが丸亀製麺にとってのUSPであり機能的価値の中核であるため、うどんの美味しさを追求し続けているという。それだけでなく、トッピングの具材を選べる楽しみや、讃岐の製麺所さながらの店舗デザイン、ライブ感のある店内など、五感で感じる体験によって、来店者に情緒的な価値も提供している。
すなわち、来店者が「また行きたい」と感じたり、外食先の候補として頭に思い浮かべたりするよう、機能的価値(味や価格など)と情緒的価値(喫食以外の体験)の両面からアプローチをしている。
「機能的価値は重要ですが、多くの商材で機能性が向上し続けています。今や良質な商品が世間に溢れているため、機能だけでは差別化できにくい状況になっているのは、皆さんも実感されていると思います」と情緒的価値の重要性の高まりを南雲氏は力説した。
丸亀製麺の情緒的価値を向上させる施策とは?
丸亀製麺では情緒的価値をより高めていくために、2021年1月から従来のブランド戦略に加えて食の感動体験を起点とした共感・好きを集めるための施策を実行したという。その戦略の中心にあるのが「うどんで日本をげんきにプロジェクト」だ。
同プロジェクトは「ここのうどんは、生きている。」をキャッチコピーに、ファンコミュニティの形成・YouTubeドラマの作成・うどん総選挙・オーディション企画「食いっプリ!グランプリ!」など、ファン参加型の企画を多数実施。また株式会社TOKIOと、共創をテーマに新商品の共同開発や食育プロジェクト、全国各地を回るキッチンカーの運用にも着手した。

後述するが、情緒的価値が向上しているかどうかを判断するために様々な数値をトラッキングしており、並行して顧客の声も定性データとして収集している。
情緒的価値が向上し、共感や好感度が高い状態になると、キャンペーンやプロモーションを実施した際のコンバージョンが最大化する。「少し遠回りになるかもしれませんが、企業への共感・好感度が高い状態を構築しできる限り維持することが、結果的にビジネスに良い影響をもたらします」と南雲氏は述べた。