「呪術廻戦」でも同様の傾向が
おもしろいことに、実は他のタイトルについても、チェンソーマンと同様の傾向が見られています。
たとえば、チェンソーマンより少し前に盛り上がりを見せた「呪術廻戦」でも、同じように検索ユーザー数の変化にともなう属性変化が見られました。呪術廻戦では、2020年10月頃から検索ユーザー数が大きく増加していますが、盛り上がる前の2019年10月~2020年8月と、盛り上がりを見せた後の2020年9月~2021年9月で検索者の属性を比較すると、2020年9月以降のほうが女性比率が高く、年代も30代、40代の比率が高まっていることがわかりました。2020年10月は呪術廻戦のアニメの放映が開始したタイミングで、ここで一気にキャズムを越え、一般層にまで人気が広がったと推測できます。

少年マンガでは、男性から女性へ、若年層から30代・40代へと関心層が広がることで、「少年マンガ」という枠を超え、一般層にも広く普及していくのではないかと考えます。
ダークヒーローが受け入れられる時代背景
最後に、ダークヒーローに関心が向いている理由についても考察します。
世の中の潮流を考察する際に、新型コロナウイルスの影響はやはり避けて通れません。新型コロナウイルスの流行以前から価値観の多様化の流れは進んでいましたが、コロナ禍以降は混沌とした社会の中で、正解がわからない、さらには誰も正解を知らないという状況が続きました。
正義は必ずしも全員にとっての正義ではない、誰かにとっての正義は別の人にとっては正義とならない、というようなことが現在進行形で起きている。こうした背景を受け、ストーリーの中でわかりやすい正義の形を取る王道ヒーローよりも、「悪をもって悪を征す」といったコンセプトのほうが受け入れられやすくなっているのではないかと考えます。
今回取り上げたチェンソーマンの他、もう一つの例として挙げた呪術廻戦も「呪い」をテーマにしたダークファンタジーです。「正義」は人によって認識の相違が生まれるが、「悪」には共通認識がある――ダークヒーローやダークファンタジーの類のストーリーの人気が高まっているのにも、コロナ禍の影響が及んでいるのかもしれません。